「よし、こいつはもう一人前になったし、俺たちの仲間入りだぞ、と確信した瞬間、せっかく育った新米の頭が爆弾を食らって吹っ飛ぶ」
タイトル通り、戦場でコック兵として戦うティモシー・コール(ティム)たちの話。
序盤は戦場にありながらもいくつかのプチ事件の謎解きがメインで物語が進む。でも、戦況がどんどん悪化して、ティムたちもその中に巻き込まれていく。登場人物がとっても魅力的だから余計に、物語が進むにつれて彼らが傷ついていくのがつらかったし、何度も涙が出てきた。
登場人物みんな好きなんだけど、特に衛生兵のスパークが好きかな。
「ほらキッド、めげてる場合じゃねえ。生きている人間を助けるぞ」
「あれだけ看取ったんだ、それ以上に誕生の瞬間を見せてもらわにゃつり合わねえだろう」
乱暴な感じがあるんだけど、衛生兵として怪我をした兵士の治療にあたっている。ギャップ・・・
ほかにも作家志望のワインバーガーも可愛い。
「僕を現実世界に戻しやがってありがとうですよ、キッド」
エドも冷静でとてもかっこいい。
「ティム、『悪気はなかった』は誰にでも言える。ただその屈託と恐怖心をどうするかだ。克服するもしないも、お前自身が決めなければならない。いつ死んでも後悔しないように」
「もし俺を心配してくれるなら、外の世界でがんばってくれ。もうこんなことが起こらないように。俺たちが戦場へ行かなくて済むように」
やっぱり登場人物が魅力的って大事!
舞台が第二次世界大戦中のヨーロッパだから、『ベルリンは晴れているか』と同じようにユダヤ人迫害についても描かれている。
ティムは幼い頃、近所の悪ガキに唆されて橋に人種差別を思わせる落書きをしてしまう。
「お前自身はどうなんだコール、お前が橋に落書きしたチンパンジーと、ユダヤの星はどこが違う?」
この台詞は怖いね。しかも、お祖母ちゃんに怒られてティムが橋の落書きを元通りに消したあとのお祖母ちゃんの言葉、
「元どおりになるものなんてないのよ」も。これを子どものころに言われたらかなり残ると思う。
ティムのお祖母ちゃん、すごく素敵な人だなと思った。
「あんたと悲しみを分かちあえる人間は、残念だけどこの家族にはいないでしょうね。でもここはあんたの帰る場所で、あんたの出発点なのよ。いつだってね」
この、戦場から帰ってきたティムにかけた言葉もすごくあたたかいなと。戦場を見てきたティムが故郷に戻ってきて平和に暮らしている人々を見たときに感じた疎外感、自分が異質なものになってしまったという感覚を、お祖母ちゃんはちゃんとわかってくれているんだな。
「さて、どうやって生きる?これだけ巨大な動乱が起きた後、世界はどこへ転がっていくのか?日々の平凡な暮らしに戻っていけるのだろうか?」
このまえ広島で原爆ドームや被爆直後の広島の写真を見て、この状態から今の広島に戻るまでにどれだけの人の、どれだけの力があったのか想像できないなと思ったばかりだったので、この言葉は印象に残った。
また読み直したいな。良い本に出会えて良かった。
「――俺のメガネなんて取っておかなくても、お前はしっかり生きていける」
- 感想投稿日 : 2023年8月24日
- 読了日 : 2023年8月22日
- 本棚登録日 : 2023年8月13日
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