ミステリーは、自分の場合、ともすれば、先を急ぐあまり、作品を吟味し、堪能することを忘れて一息に読みすすめてしまいがちだ。
それがミステリーを読む快さのひとつかもしれないが、
走り抜けるように読み飛ばして、快感だけを記憶し、タイトルしか覚えていない場合が多い。ということでミステリーは自分にとって危険なジャンルだ。
しかし、クックの作品は、ページを手繰る手を止めさせず、かつ、文章を味わう喜びも満足させる。
物語人物の抱える謎と秘密、悲哀や心の機微、皮肉な運命は、
読む者に美しい映像浮かばせる、ビロードの手触りのような精緻な描写で綴られていく。
読書を終えたとき迷子に気づいたような心細さを感じるが、
それは今始まったことではなく、
もっと以前から迷い子の孤独を抱えながら過ごしてきたこと、
そしてこれからもそれは終わることはないのだという、深い感慨を覚える。
クックの作品の稀有な点は、生きて老いることの悲しさを改めて読む者に確認させながらも、
けしてその事実が人を打ちのめさないところだと思う。
罪も悲しみも悲惨も、美しく輝いていた場面や記憶とともに、抱えていくということを、静かに受け入れようと決心させる厳粛さが、人を惹きつけてやまないのだと思う。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
海外ミステリ
- 感想投稿日 : 2012年1月3日
- 読了日 : 2011年1月23日
- 本棚登録日 : 2011年1月23日
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