悲劇の誕生 (岩波文庫 青 639-1)

  • 岩波書店 (1966年6月16日発売)
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感想 : 37
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ニーチェというと思想詩的文体や、中期著作の預言の書みたいなアフォリズム集的な構成のために、あまりに文学的で抽象的思索や体系的思索を嫌った「詩人哲学者」イメージが一般的である。しかしながら、処女作にあたるこの作品は、秩序だった文章構成になっていて論理的に書かれており読みやすい。とはいえあくまでもニーチェの中ではという意味で、巻末の秋山英夫の解説にも〈これはもはや文献「学者」の操作ではない、詩人ニーチェの「創作」である。〜中略〜ニーチェはこの本で「詩人」として、デビューした〉とかかれている。じゃあもう赤帯分類でいいじゃんね。
若きニーチェはワーグナー、そしてショウペンハウアに心酔していたらしいので、形而上学的根拠はショウペンハウアに依拠しているし、ギリシャ古典論を展開しておきながらもワーグナー論みたいになっている。
なので本書において語られる、かの有名な「アポロ的なもの」と「ディオニュソス的なもの」という対立概念も、ショウペンハウアの『意志と表象としての世界』を読んでないとピンと来ない。まぁワーグナーは聴いたことなくてもいいと思うけど。
後のニーチェは、ショウペンハウア哲学からの脱却、あるいは克服への意思を強め、さらにいろいろあってワーグナーもディスるようになり、最終的にはショウペンハウアどころか、形而上学そのものの価値を否定するに至るのではあるが、それはまだ先の話である。
とはいえ、本来孕んでいる無秩序と矛盾を直視しないのは一種の弱さであると、自己欺瞞を認めない姿勢や、あくまでも強さのペシニズムを模索している点などには共通点を見出せる気がする。それにニーチェの思索はギリシア古典から始まったのかと思うと興味深いですよね。ニーチェを読むなら何がいいかときかれたら、まずはこの本からだと思うのです。76点。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2013年7月28日
読了日 : 2013年7月28日
本棚登録日 : 2013年7月28日

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