「うん。いい塩梅にこなれてきた」
「負け犬」で一世を風靡した酒井順子さんも、いよいよ中年の仲間入り。「週間現代」の連載エッセイをまとめたシリーズの第八集。
一族の恥をさらすようですが、ある時、実家で80を越えた父のパソコンを借りたときたまたまその検索履歴を見たところそこには「風俗ギャラリー」の履歴が。しかもそれが「よくアクセスするサイト」。うーん…確かに「老いてなお」という言葉はありますが、まあ、そのときの娘の気持ちとしては「父よ、お前もか」というところだったわけです。
こういう事が発覚したとき、肉親であるがゆえにそこにはある程度のショックを伴うわけですが、それはこの端末機一人一台の時代にあっては、ごく一般的なことであるらしい。癌を発症して手術をすることになった酒井さんの友人のお父さんは、それと知ってなお入院前にパソコンで女子高生のエロサイトを熱心に見ていたというツワモノ。
酒井さんはショックを受けたという友人女史への深い共感とともに「全てのパソコン所持者はエロサイトを見る。これは自明の事実」と言い切りながら、「家族に対しては絶対に『エロサイトなど見ていません』という態度を貫き通すのが共に住む者としての礼儀」といいます。
しかし不幸にして(?)発覚してしまったとき、発見した者はどうするか?そこに必要なのは「武士の情け」だというのです。ああ。この平成の世の、この曰く言い難いシチュエーションにこんなにもマッチした言葉があろうとは。
本書のテイストをそのタイトルを借りて問われれば、「酒井さん、中年としていい塩梅にこなれてきてますねぇ」といったところ。酒井さんとほぼ同世代同境遇(独身あるいは既婚子無し)の自分にとっては酒井さんの作品は「本」というよりは常に「同志」という位置づけです。中年に入りいよいよ己の末期も視野に入ってきた昨今、看取り要員のいない自らの行く末を憂い、こんな身に詰まされることも言ってくれる。
〈おひとりさま向けサービスが多様化する今ですが、自分で自分を火葬して墓に入れるサービスがあったら、大ヒットする気がしてなりません。〉
共感します。どうか今後とも末永くお付き合いください。
- 感想投稿日 : 2013年12月7日
- 読了日 : 2013年12月1日
- 本棚登録日 : 2013年12月7日
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