愛と永遠の青い空

著者 :
  • 幻冬舎 (2002年11月1日発売)
3.22
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本棚登録 : 173
感想 : 21
5

2015年よっちんがもっとも感動した本がこの本です。
辻仁成「愛と永遠の青い空」

読後、この書について色々調べたら下記のような記事に出逢った。
辻仁成、高倉健さんに捧げた作品……「読んでいただけてほんとに嬉しかった」 http://news.livedoor.com/article/detail/9486878/

この物語の周作を頭の中で故高倉健氏で再生すると超感動できます。



「そう、悔恨は有害だ。しかし、そいつは人を殺しはしない。ところが、絶望は瞬時のうちに人を殺すんだ」ヘミングウェイ「異郷」(高見浩 訳)

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青春の末期

人は永遠の愛などというものに憧れるが、果たして永遠という響きにいかほどの信愚性があるだろう。
最初から愛が永遠ならば、儚さを知ることもないし、悲しみも後悔も幸福
さえも意味をなくしてしまう。
それは素晴らしいことではあるが、同時に退屈で、想像力に欠け、緊張感のない日溜まりのよう。
愛は永遠ではないからこそ、輝いているとはいえないだろうか。
人生は有限であるからこそ、今を生きようと人々は切磋琢磨する。
青春も同じように、一時期のものだからこそ、青く輝く期間が眩しいのである。
青春には明らかに永遠がない。
そのことが青春を美しく尊く眩しくさせている。
人生の意味を深め、価値を生み出している。
古代の専制君主は、永遠という響きに心を奪われ、不老不死を追求し、スフィンクスや巨大墳墓を建てた。
その建築のために国家が疲弊し、滅びかけても、彼らは生まれ変わりや、永遠の命を手に入れることの方を優先させた。
永遠を求める力が、文明を西や東に拡大させたといっても過言ではない。
けれどもどこにも永遠はなかった。
どんなに偉大な国王であろうとも、永遠を手に入れることができた者はいない。
なぜなら永遠は心の中だけに存在するものだから。
一人歩きする永遠という言葉は、心の中にある純粋な永遠とは異なる。
永遠は手に入れるものではなく、許すことに似て、尊く、心の荒野に放し飼いにされたものであろう。
この物語の主人公は、永遠という言葉を懐疑しつづけた。
愛という言葉を容易には使わなかった。
実直に人生と向かい合い、本質を究めようとした。
彼が心にしまいつづけた愛の物語は彼が人生を最期まで投げ出さなかった記録でもある。
そして永遠の愛ではなく、
愛の永遠を求めつづけた証でもある。
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今さらだけど
辻仁成氏、ECHOESのVocalであり中山美穂の元旦那、そしてなによりかによりJUDY AND MARYの恩田氏・五十嵐氏と
組んでいたバンド=ZAMZA N'BANSHEE改めZamzaのVocal。
当時、高校一年生だったよっちんはロックの初期衝動と都会への憧れを辻氏のオールナイトニッポンから受け取っていた。
オールナイトニッポンのオープニングはいつも以下のようなアジテーションから始まった。

「Hello Hello、This is Power Rock Station! こんばんはDJの辻仁成です。真夜中のサンダーロード、今夜も押さえきれないエネルギーを探し続けているストリートのRock‘n’Rider、夜ふけのかたい小さなベッドの上で愛を待ち続けているスイートリトルシックスティーン、愛されたいと願っているパパも、融通の利かないママも、そしていまにもあきらめてしまいそうな君も、今夜はとびっきりご機嫌なロックンロールミュージックを届けよう。アンテナを伸ばし、周波数を合わせ、システムの中に組み込まれてしまう前に、僕の送るホットなナンバーキャッチしておくれ。 愛を!愛を!愛を!今夜もオールナイトニッポン。」
当時金沢ではオールナイトニッポンの二部は放送しておらずいつも北日本放送(富山)にあわせノイズまみれのまま必死でラジオに明け方しがみついていた。
月曜はデーモン小暮が一部で二部が辻仁成、だから火曜の朝はいつも睡眠不足だった….それなのに火曜の1限目は体育だったからフラフラになっていた。

さて、そんな辻氏への思い出を .゜.(/^^)/ ソレハコッチニオイトイテ書評です。
今回4回繰り返し読み直しました。1回目出勤時に読んだときはあっという間に読破して、3回目自宅で深夜ゆっくり丁寧に読んだ時には涙止まらず…..久しぶりに読書で
泣きました。
心のデトックスできました。

太平洋戦争、戦後日本、日本人にみえるのに日本人ではないとされる民族的アイデンティティの問題、愛=夫婦愛、青春、人生の再出発、そんなテーマが
辻氏の文章で丁寧に描かれています。
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内容は真珠湾攻撃を経験したパイロットが主人公。
白河周作は「九七式艦上攻撃機」のパイロットで撃墜王。真珠湾攻撃にも参加。
戦後不器用に生き(ほら、高倉健さんのイメージぴったりでしょ?)
妻は自殺し、孤独に生きていた。

数年ぶりに再会した戦友=真珠湾攻撃時周作の操縦する九七式艦上攻撃機の偵察士・通信士の三人。
戦友の一人早瀬は九州から上京し、白河と栗城にが唐突に持ちかける。
「これから真珠湾に行こう」――
それは真珠湾攻撃からちょうど50年目の11月末。
周作はカバンに亡き妻小枝の日記をつめてハワイに向かう。

不器用な周作に対して日記の中の小枝は真摯に愛を訴える。
忘れていた思い出や気が付かなった感情、当たり前に過ぎていく結婚生活をモノローグが綴っていく。
亡き妻小枝の日記が合間あいまに挿入され周作の思い出と現在が交錯する仕組み。
何故妻は自殺したのか…残された周作はわからないまま今を生きていた。ちょうどあの戦争を生き残ったように。


「自分が愛した古き良き精神

でもそういう社会にしてしまったのは、もしかしたら俺たちのせいかもしれん。
精神まで捨ててしまうことはなかった」



日本人がなくしてしまったもの
我慢=quiet endurance:静かに耐える
仕方がない=acceptance with resignation
頑張る=perseverance



一方物語はアリゾナ記念館で真珠湾攻撃で足をなくした元米軍兵と出会う。
その後真珠湾攻撃時に不時着し日系人によって隠され保存された奇跡の九七式艦上攻撃機に出会う。
それは戦死した上官の機体であり3人は戸惑う。
戸惑いながらハワイでの時間をダイヤモンドベッド登山で過ごす。
しかし、その登山には早瀬の隠された覚悟があった。

早瀬は末期ガンであり、病院を抜け出しダイヤモンドヘッドで死ぬ覚悟で白河と栗城を誘っていた。早瀬は言う。
「人間はひたすらに存在に意味を見出そうとしてきたばってん、そもそもそれが間違いだった。
俺は疲れたばい。意味を求めたり、反省したり、後悔することに。死とは、無である。
なぜそれを認める勇気をみな持たんとだろうな。」


「人間は岩石ではない。だから死がある。
だから生まれてきたのだ。一生は儚く切ない。
生きるということには限りがある。限りのある人生だからこそ、愛は輝くことができた。
永遠という響きに憧れたからこそ、愛は苦しみを乗り越えることができた。
終わりがあるからこそ、今を大切に味わうことができる。
そしてそこに愛があるからこそ、人間は岩石にならずにすんだ」

「早瀬は死を覚悟してここに来た。そこで待っていたものが九七式艦攻だった。
これは縁だ。呼ばれたとしか思えないね。再び生まれようとしているかつての愛機を、どう蘇らせるかは、俺たちの最後の役目のような気がする。」

一生というものを秤にかけてみる時が、人間には必ずある。
自分の人生の意味を振り返る時がある。
周作はまさにその時を迎えていた。後悔と達成感とを比較して、自分の一生に評価を下す時だ。

「ふとな、人生を諦めた時が青春の終わりじゃないかって思ったんだ。
諦めるという言葉はよく出来た言葉だと思う。人生諦めが肝心、とかっていうじゃないか。
二十歳で人生を諦めた奴はそこで青春が終わり。五十歳で人生を諦めた奴がいたら、そいつの人生はそこまで。

俺もお前もまだ諦めきれない何かがあるだろ」
諦めきれない何かがあるかぎり、青春は終わっていないってことだ。


ケイトは日本人男性と別れて言う
「自分の一生をもっと大事にします。いつかきっと私のことを大切にしてくれる人と出会うと思う。…
生きるって大変ですね。でもこれからも私は生きていくんだわ。ジョンを育てながら、誰かが私の前に現れるのを待ち続ける。
まるでバスが来るのをずっとバス停で待ち続けるように」
「でも必ずバスは来る。生きていればかならずバスは来るわ」





「戦争だと言われて駆りだされ、青春の全てを捧げてきてしまった。
国のためだと言って、みんな命を捧げてきた。無我夢中で爆弾を落としてきた。
戦争が終わって残ったものは心の傷ばかりだった。せめて、最後くらいは、何かのために、ではなく
自分の意思に忠実に立ち向かってみたい。九七式艦攻を蘇らせる。
人生の半分を、いや全部を棒に振ってしまった俺たちの、それが最後の役目」


「俺の灰はここの海に撒いてほしかったい」

「この爆撃機は平和の爆弾を落とすために生まれ変わった」



ちなみに九七式艦上攻撃機の米軍側のコードネームは「Kate」
作中に登場する日系三世(作中表現では二世半)の名前もケイト….遊心がきいていますね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2015年10月15日
読了日 : 2015年10月15日
本棚登録日 : 2015年10月15日

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