空白の叫び 下 (文春文庫 ぬ 1-6)

著者 :
  • 文藝春秋 (2010年6月10日発売)
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感想 : 107
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生まれも育ちも全く異なる3人の少年が、それぞれの事情から突発的発作的に殺人を犯してしまいます。
少年院で出会った3人は、卒院後に再び巡り会い、やはりそれぞれの事情から、共に手を組んである計画を実行に移すことになります。

まず、上巻はまるまる全編にわたって、3人それぞれの視点で3人が殺人を犯すまでの経緯と心情が、丹念に丹念に描かれます。そのせいか、うち2人については、その凶行に「同情」や「共感」すら覚えるほどでした。
実際の犯罪では、犯人の心理がここまで詳らかにされることはないですしね。
同情も共感も湧かなかった1人については、その被害者となった女性の視点で語られるパートが出てくるのですが、むしろその女性の心の動きと考え方、そこから生まれる彼女の言動に衝撃を持つと同時にとても興味をそそられました(すでに本作を読まれた方にとって、この言い方は冷酷で不謹慎と思われそうです)。結果的にその言動こそが、彼女の命が奪われる原因となってしまうのですが。

中巻の前半では、3人の少年院での生活が描かれます。この様子がどれほどリアルなものなのか僕には判断がつきませんが、もしこれがリアルだとすると「更生」なんて望むべくもない絵空事やなと思えました。それほど理不尽で心が荒む環境でした。

中巻の後半から下巻にかけて、卒院後の生活、そしてある計画を実行する3人の様子が描かれます。
ここでは、先に同情も共感もできないと述べた1人の少年に対しての様々な「嫌がらせ(という言葉では生ぬるいくらいの中傷)」と、それにより、更生して真っ当な生活を送ろうとする本人の意思意欲にかかわらず、それを断念せざるを得ない姿が印象的で胸が痛みました。ここで、初めて彼に同情と共感を覚えました。
片や、ここまで最も共感できていた別の少年の言動の大きな変化に、吐き気を催すほどの嫌悪感と憤りを感じました。
全て読み終えてみて、それ以上の嫌悪感と憤りを感じたのは、先にも言及した女性被害者の父親と、少年院のある教官でした。
むかし、阿部寛さん主演で「最後の弁護人」ってドラマがあったんですけど、その最終回での主人公の姿がふと浮かび、それと対比するとあまりにも無様だなと思いました。

とりとめのないレビューですが、とにかく読んでいる間中、目まぐるしく感情(特に憤りと怒りかなぁ)が揺さぶられました。
安易に「面白い」とは口に出せない、とてつもないものを突きつけられた気がしています。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 貫井徳郎
感想投稿日 : 2021年3月10日
読了日 : 2021年3月4日
本棚登録日 : 2021年3月4日

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