ゾウの時間ネズミの時間: サイズの生物学 (中公新書 1087)

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  • 中央公論新社 (1992年8月1日発売)
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畳みかけるように次々と展開するため、ワクワクしてページをめくる手をなかなか止められない
おまけに著者の想像力豊かな表現力が大変素晴らしく、いちいち拍手をしたくなるのだが…
今回そちらを強調したいので、その部分に(面白表現)と記載してみた
(こういうのって楽しい♪)

動物は体のサイズに応じて違う単位の時間をもっている
ゾウはゾウの時間
ネズミはネズミの時間があるという

一生の間に心臓が打つ総数や体重あたりの総エネルギー使用量はサイズによらず同じ
生物における時間を物理的な時間と区別して、生理的時間と呼ぶ

物理的時間でいえばゾウはネズミよりずっと長生き
しかし心臓の拍数を時計として考えるならば、ゾウもネズミもまったく同じ長さだけ生きて死ぬことになるだろう
小さい動物の体内で起こる現象のテンポが速いのだから一生を生き切った感覚はゾウもネズミも変わらないのではないか

(うわー面白い!物理的時間でしか物事を考えたことがなかったため、こんな考え方があるとは驚いた
生理的時間で物事を考えると違った見方が出来そうではないか!
年を取ると時間を早く感じてしまう…とかね)

先ほどの生理的時間をもう少し専門的に描写されたのが以下の内容だ
・体重が増えると時間が長くなる
時間は体重の1/4乗に比例する=体重が16倍になると時間が2倍になる
体重の増え方に比べ時間の長くなり方はずっとゆるやか
・1/4乗則というのは時間が関わっているいろいろな現象に広く当てはまる
寿命から成長の時間、性的に成熟するまでの時間、赤ん坊が母親の胎内に留まっている時間、
息をする時間間隔、心臓が打つ間隔、腸がじわっと蠕動時間、血が体内を一巡する時間、
体内から入った異物を再び体外へ除去するのに要する時間、タンパク質が合成されてから壊されるまでの時間など
生物における時間を物理的な時間と区別して、生理的時間と呼ぶ

以下は興味深いものの抜粋

・大きいもの
 メリット:ちょっとした環境の変化はものともせず長生きできる
 デメリット:1世代の時間が長くその結果、突然変異により新しい種を生み出す可能性を犠牲にしている
(例:象…象の仲間で現在生き残っているのはインド象とアフリカ象の2種類だけ)
・小さいもの
 メリット:1世代の時間が短く、個体数も多いため短期間に新しいものが突然変異で生まれて出る確率が高い
 デメリット:小さいものはしょっちゅう餌を食い続けなければならず、餌がちょっとでも見つけられなくなったらすぐ飢えて死ぬ危険に直面する
・島の法則…島に隔離されると、サイズの大きい動物は小さくなり、サイズの小さい動物は大きくなる
理由:島という環境は、捕食者の少ない環境であるため
この島の法則は人間にも当てはまりそうだ
大陸に住んでいればとてつもないことを考えたり、常識外れなことをやることも可能だ
だが島では出る釘はすぐ打たれてしまう…(面白表現)
・体重が増えるほどには、食べる量は増えない
・大きいものほど速い
ただしサイズがどんどん大きくなれば際限もなくどんどん速くなるわけではない
地上で1番速いランナーであるチーターは体重約55キログラム
これ以上体重が増えても速度はほとんど増えない
サイズが大きくなると、足にかかる衝撃は大変なものになり、足は体を支えきれなくなってしまう
・主要な臓器はサイズが変わっても体の中で占める比率は変わらない
つまり哺乳類の体の作りはサイズに限らず、ほぼ一定の比率でできている
ただし体重が増えるほどには器官の重量が増えないものがある
脳や内分泌器官である(体の機能を制御しているもの)
制御する方の重さが制御される方の重さに正比例しない
(例:車の鍵…軽自動車とトラックの鍵の大きさはそれほど変わらない、ハンドルも2つにならない) (面白表現)
・動物では時間は体長の3/4乗に比例する
 まだ理由は不明だが、長さは空間の単位だから、時間と空間はある一定の相関関係を保っていると言うことを意味する
動物を理解するためには、「空間」と「時間」と「力」、この3つに対する感覚が必要
ヒトは視覚主導型の生き物
空間認識はよく理解できるが、時間感覚や力の感覚はあまり発達していない(時計に支配されている人間)
・細胞のサイズは、動物の種類が違っても、ほとんど変わらずの一定(直径約10ミクロン)である
細胞の真ん中には遺伝子情報を持った核がある
・植物細胞は50ミクロン
・動物が柱と梁を組み合わせた骨組み建築(動物では骨格系が体を支えている)
・植物はレンガ積建築である(細胞1個がレンガ1個に対応)
・建築法の違いは動くか動かないかと言う事と深く関係している
 骨組み建築なら、柱と梁のつなぎ目を間接にしてあれば体が変形して動くことができる
 レンガ積ではレンガ同士が全て貼り合わされているので動くことができない(壊れやすいが増やしやすい)
 増やしやすい→光合成において光を受ける面積が広い方が良いし、背丈の高い方が他の物の影にもならずにすむ


■昆虫
・サイズが小さいことの長所…変異を短時間で生み出すことができる
・サイズが小さいことの短所…外の環境に左右されやすい
陸上の生き物では、乾燥にいかに耐えるかが大問題となる
体の表面を殻ですっぽり大ことにより、乾燥の問題を解決した(この殻をクチクラという)
・サイズが小さいが故、循環系に頼ることなく、空気をチューブで酸素を必要とする細胞まで直接配達する気管がある
空気の詰まったチューブのため拡散だけで速やかに酸素が運べる
・昆虫は成長のたびに脱皮する、気管も脱皮する
脱皮というものは費用と危険を伴う(面白表現)
ここから昆虫のサイズの上限を決めているのではないか
・昆虫は変態(羽化)を節目として、食性と運動法を切り替える
幼虫期はあまり動かずひたすら食う (この時は胃袋が重くても良い)
羽化して成虫になると、飛びまわることが最優先になり、消化の良いものだけを食べる

■動かない動物たち(サンゴ)
・サンゴは体の中に、褐虫藻と言う小さな単細胞の植物を大量に共生させている
この共生藻が光を受けて光合成をし、作り出した食物を気前よく親であるサンゴに分け与える
サンゴは自前の農場を体の中に持っている(面白表現)
・レンガ積建築法
単一ユニットをどんどん積み上げていく
つまりサンゴはたくさんの個体が集まってできた群体である
・個々のユニットは分裂や出芽によって無性生殖的に増え、成長に制限がない
また硬い殻はユニットが死んでも残るので体が大きくなるに都合が良い
個体には寿命があるが、群体としては新しい個体が付け変わっていくので寿命は無い
・固着性の生物にとって、土地と言うのは最大の財産である
日当たりの良い場所を確保したら死ぬまで手放せないほうがいい(面白表現)

■ちょっとだけ動く動物(棘皮動物 ウニやヒトデ)
・ウニ…棘を折りたたみ式にできる
棘は根元の殻とのつなぎ目が関節になっていて、と棘を立てたり倒したり(360度どの方向にも)できる
棘を倒せば、ウニは殻のサイズまで小さくなれるので、岩穴などの隠れ家を見つけやすくなる
・ヒトデ…体の表面には、数ミリ程度の小さな骨(骨片)がびっしりと敷きつめられており、
この小さな骨片が結合組織でつづり合わされた鎧を着ている(面白表現)
結合組織は硬さを変えられるため、自由自在に体を動かせる
・ヒトデの捕食
貝の食べ方…5本の腕で抱きかかえたくさんの管足を貝の殻に吸い付かせ、殻をこじ開ける
胃を口から出し、殻の隙間から貝の体内に滑り込ませ、消化液を分泌し、貝を溶かして吸収し食べてしまう
何時間、何日もかけて(なかなかエグいなぁ)


著者のあとがきより…
動物の世界観とヒトとの違いについて
ヒトの常識にあてはめない
生物学はヒトという生き物を相対化して、ヒトの自然の中での位置を知ることができる

生物学というのは身近でありながら、実に謎が多い
上手いこと出来ているなぁと感心させられることが多く神秘的だ
後半の動かない動物やちょっとだけ動く動物…面白かった
生命を司る工夫がなるほど!というものばかり
さすが生き残った者たちだ!

さて本書は全て理解できたかは正直微妙なのだが(笑)…
計算式をすべてすっ飛ばして読んだとしても、初心者でも楽しめる
専門的な話には都度例えや噛み砕いた説明があり、わかりやすく最初から最後まで楽しめた

ヒトという常識に囚われていることに気づくと同時に、
ヒトって生きるための使い勝手が何かと悪いから脳が発達したのかも…とふと思った

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年1月24日
読了日 : 2023年1月21日
本棚登録日 : 2023年1月21日

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