ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学 (中公新書)

著者 :
  • 中央公論新社
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感想 : 374
  • Amazon.co.jp ・本 (230ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121010872

作品紹介・あらすじ

動物のサイズが違うと機敏さが違い、寿命が違い、総じて時間の流れる速さが違ってくる。行動圏も生息密度も、サイズと一定の関係がある。ところが一生の間に心臓が打つ総数や体重あたりの総エネルギー使用量は、サイズによらず同じなのである。本書はサイズからの発想によって動物のデザインを発見し、その動物のよって立つ論理を人間に理解可能なものにする新しい生物学入門書であり、かつ人類の将来に貴重なヒントを提供する。

感想・レビュー・書評

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  • 【感想】
    ネズミであっても、ゾウであっても、人間であっても、どんな動物でも一生のうちに心臓が打つ回数は8億回前後だと言われている。体が小さい動物ほど、体重当たりの代謝量が多いため、脈拍が早い。そのため寿命と体の大きさはほぼ比例する傾向にある。
    2つの関係性を計算すると、生物にまつわる「時間」は体重の1/4乗に比例することが分かっている。これを「生理的時間」という。

    本書では、「身体のサイズ」が生物のあらゆる行動原理を決めていると仮定し、多くの項目を検証しながら動物それぞれの「世界観」を考察している。
    例えば、食べる食事の量も体重によって決まる。身体が大きければ食べる量も多いのは当たり前だが、体重の増加分ほどに餌の量は増えない。そのため、1トンのゾウ1頭と1グラムのイナゴ100万匹では、後者の方が圧倒的に草を食べる量が多く、従って個体数の増大も早い。また、生活圏の広さも身体の大きさに比例しているという。一般的に身体が小さいほど移動距離が短くなるため生活圏が狭い。例外は人間であり、毎朝通勤電車に揺られて移動する距離を生活圏とみなして、それを体重ベースに逆算すると、4トンの動物と同じだけの生活圏を有しているという。

    では本題の、「なぜ時間が体重の1/4乗に比例するのか」という謎については、実は解明されていないままだ。一応、「動物の身体はバネのような弾性相似である」と仮定した上で証明を行ったケースが挙げられているが、鳥類や他の哺乳類では仮定が成り立たないとしてお蔵入りとなっている。

    そもそもの話になるが、動物の寿命を測定するのは結構難しい。野生下では寿命が尽きる前に餓死か捕食かケガで死んでしまうし、飼育下では野生下と比べて寿命が全く異なる。
    また、身体が小さい=寿命が短いという仮定への例外が多過ぎる。短命と言われるネズミだが、ネズミの中でもハダカデバネズミは30年近く生きる。大型動物と同じぐらいの寿命だ。これは同種の動物を比べても同じであり、人間で言えば、その人が暮らす環境や生活様式によって寿命には1~2割程度のブレが出る。要するに個体差が激しすぎるのだ。

    結局のところ、「寿命」という概念はあまりに他の要因が絡み合いすぎて、一律に論じきれるものではないというものがあるだろう。ただ、大きな生物ほど長く生きるというのは、何となく我々の想像に合っているのは間違いない。このことを念頭に置きながら、各動物の世界観を想像してみるとちょうどいいのかもしれない。

    ―――――――――――――――――――――――――――――――――
    【まとめ】
    1 時間は生き物の大きさによって変わる
    生物にまつわる「時間」は体重の1/4乗に比例する。
    大きな動物ほど、寿命や大人のサイズに成長するまでの時間が長くなる。また、息をする時間や心臓が打つ間隔、血が体内を一巡する時間も、体重の1/4乗に比例する。
    また、体積に関係するものは体重に正比例し、体積変化率(単位時間内にどれだけ体積が変化するか)は「体積÷時間」で求められ、体重の3/4乗に比例する。

    ゾウにはゾウの時間、ネズミにはネズミの時間があり、生物におけるこのような時間の概念を、物理的な時間と区別して、生理的時間と呼ぶ。
    動物のサイズは、動物の生き方に大きな影響を与えていると言えるだろう。


    2 サイズと進化
    サイズが大きいということは、一般的にいって余裕があるということだ。サイズが大きくなればなるほど、体積あたりの表面積は小さくなる。体温が逃げにくくなるし、体内の水分も蒸発しにくい。また、体重あたりのエネルギー消費量はサイズの大きいものほど少なくなるので、より長期間の飢餓にも耐えられる。

    一方、小さいものの利点は小回りが効いて省エネなところだ。小さいものは個体数が多いため、種全体で見れば、生存競争に残る確率はサイズが大きいものと同じになる。環境が厳しくなれば、突然変異による新しい種が生まれやすいのも小さい種の特徴だ。
    また、大きいものは体温を維持するために常に大量のエネルギーを使い続けなければならない。サイズが小さい変温動物は、冬眠時には体温を下げて省エネに徹することができる。

    一般的に、島などの閉ざされた環境にいると、サイズが大きいものは小さく進化していき、サイズが小さいものは(捕食者の減少により)大きくなる。これを「島の規則」という。


    3 代謝量
    標準代謝量は、恒温動物であれ変温動物であれ、多細胞であれ単細胞であれ、みな体重の3/4乗に比例する。

    摂取する食物の量を観察してみると、恒温動物ははなはだ効率が悪い。摂取したエネルギーのうち、成長にまわるのはほんの2.5%ほどであり、あとの残りは維持費(呼吸と排泄)に回される。一方、変温動物ではその30%が成長に当てられている。小さい動物のほうが、大きい動物よりも体重あたりの餌の摂取量が大きくなるため、小さい変温動物は大量の餌を消費し、どんどん増えていく。

    移動運動の種類別の使用エネルギーを計算してみると、走ることが圧倒的にエネルギーを食い、体重が大きくなるごとに必要エネルギーが大きくなっていく。
    その次は飛行である。飛ぶこと自体は走ることよりもエネルギーを食うが、速度が速いため、距離あたりのエネルギーでは走るよりも効率がいい。移動時間あたりでは走るほうが省エネだ。飛行も体重が増えるごとに必要エネルギーが大きくなる。
    一方、泳ぐことは体重にかかわらず消費量が一定だ。ライオンやチーターといった陸上の大型動物が常に休んでいるのに対して、アシカやイルカといった水中の大型動物がくるくると泳ぎ回っているのは、移動運動にあまりエネルギーを使わないからだ。


    4 器官のサイズ
    脳のサイズは、成長の早い段階で発育しきってしまう。その後は体が大きくなっていっても、脳のサイズはあまり変わらない。脳のサイズは体重のほぼ3/4乗に比例すると言われている。

    一方、骨格系の重量は、体重の1.09倍に比例して大きくなっていく。体重が増えるほどそれを支える骨が太くならなければいけないので当然のことだが、かといって、体重の大きい動物が骨だらけというわけではない。内臓が入るスペースを確保するため、ある程度強度を犠牲にしなければならないからだ。
    一般的に、身体の小さい動物ほど衝撃への圧力に強く、大きい動物ほど弱い。ネズミがビルの上から落ちてもピンピンしているのに対し、ゾウはジャンプしただけで骨折するのはこれが理由だ。


    5 動物の世界観
    動物が変われば時間も変わるということは、おのおのの動物は、それぞれに違った世界観を持っているということだ。動物の生活のしかたや体のつくりの中に、世界観がしがみついており、それを解読して、人間に納得のいくように説明する、それが動物学者の仕事である。

  • 「時間は体重の1/4乗に比例する。」
    寿命やおとなのサイズに成長するまでの時間、赤ん坊が母親の胎内に留まっている時間などが当てはまるようだ。

    上記の定義を短い文章でまとめているが、この発見の裏には研究者達が膨大なデータを統計し、この数字を割り出したと考えると尊敬の念を抱く。本書は、通常であれば難しい論文に記載されているような内容を、わかりやすい言葉で一般の方に伝わるような表現にしており、名著と呼ばれているのに納得した。

    植物細胞と動物細胞の違いについても言及しており、成長の仕方や構造の違いで適切な細胞の形になっている話が興味深かった。
    私の学生の頃は、教科書のムラサキツユクサの細胞の拡大図を見て細胞構造を学んだが、本書のような一歩踏み込んだ「なぜそうなっているか?」を是非子どもに伝えたいと思った。

  • 哺乳類の心臓は一生のあいだに約20億回打つ。
    それはゾウでもネズミでも同じ。
    …ということは、心臓の拍動を時計として考えたら、ゾウもネズミも同じ長さだけ生きて死ぬことになる。

    …という冒頭の話から、目からウロコがぽろぽろ落ちていくのがわかりました。
    生物のサイズに着目し、エネルギー消費量や体内器官、移動方法などを考察しています。
    実際に計測されたデータから導き出された数式を元に説明が進むのですが、それぞれの生物にとって今ある形が理にかなっているものだということがわかりました。
    特に昆虫の体の仕組みについての第12章と、ヒトデやウニなどの棘皮動物についての第14章が楽しかったです。
    水の中ではやわらかく体をくねらせているのに、手で持ったとたんに固くなるヒトデの仕組み、やっとわかって長年の謎が1つ解けました。
    生物って本当によくできているのですね!

    そして、残念なことに、苦手な数式が出てくるたびに、ぼんやりと眠気をもよおす私の頭もよくできている…と思わざるを得ませんでした…。

  • 数学的難しさを乗り越えると興味深い話の連発でとても楽しく読めた。
    始終生物のサイズについての考察がなされている。「生きる」ことと「サイズ」がこんなに密接に結びついているなんて本著を読むまで気づかなかった。
    あとがきにもあるように、他の生き物の世界観を知ることで、自分を新たな目線で捉え直すことができるのかもしれない。

  • 思ったほど時間のことについて書いてなかったのは残念だったのだが、生物の体の作りや進化について改めて勉強しなおした感じ。
    たしかにこんなこと勉強したかもしれないが、忘れてた、ということを思い出させてもらったような気持ちになった。生物に対して謙虚になる。

    • goya626さん
      「ゾウの時間 ネズミの時間」という著者が歌う歌があります。私の子どもたちが小さい時、親子でCDに合わせて歌い踊ってましたよ。
      「ゾウの時間 ネズミの時間」という著者が歌う歌があります。私の子どもたちが小さい時、親子でCDに合わせて歌い踊ってましたよ。
      2020/12/16
    • momchapさん
      本の最後に楽譜がありましたね!CDがあるとは知りませんでした。楽しそうですね♪聴いてみたいです。
      本の最後に楽譜がありましたね!CDがあるとは知りませんでした。楽しそうですね♪聴いてみたいです。
      2020/12/17
    • goya626さん
      実に楽しいですよ。
      実に楽しいですよ。
      2020/12/18
  • 生物とはいかに素晴らしい設計がされてるのかが、わかる本です。


    この本を読めば、宗教的とは違う視点から神様はいるなと思うことができるかもしれません。


    タイトルは「時間」が大々的にアピールされていますが、実際は副題の「サイズ」の方に重きがおかれています。

  • 昔一度読もうとして、途中まででどうにも性が合わず断念し、最近一念発起してやはり全部一度は読むべきだとトライしてみたが、やはりあまり性が合わなかった感はある。
    色々な数式を弄りながら話を展開していくのだけども、その仮定や論理に割と飛躍しすぎなのではないか、というところや、一方的に押しつけられているような感覚になる部分もあり、なんだか意図的にどこかにごまかされて連れていかれているようで、だからきっと腑に落ちなかった部分が多かったのだろうと思う。
    とはいえ、生物の様々な値の根底に横たわる定義や普遍性ついて考えてみようという試み自体は面白い発想で、新たな視点が得られた良い機会にはなったと思う。また、細胞のサイズの制限や、循環系のない生物とある生物の違い、循環系がない生物がどこまで大きくなれるかの考察などは中々面白いと思った。

  • ちょっと読みにくかった。数式が出てきたり専門用語が出てきたりした。本当に理解するにはこのくらいのものを苦労しながら読まなきゃいけないんでしょうね。

  • こんなに大きさが違う動物について、一定となるようなパタメータがあったことに自然の驚異を感じた。

  • ネズミにはネズミの、ゾウにはゾウの時間がある。個体差はあるものの、種としての時間は、寿命と心拍総数で見ればほぼ同じであるとも考えられる。サイズや移動速度など、様々な視点から生物学の秘密に迫る。

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著者プロフィール

生物学者、東京工業大学名誉教授。

「2019年 『生きものとは何か』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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