シリーズ通読完了。本作は大人向けの、特にもしかしたら80年代に若者だった大人へ向けたファンタジーだったのかもしれない。大人向けのナルニア国物語、みたいだ。極めて個人的な感想だけど。
村上春樹さんは1949年生まれで、1979年に30歳で『風の歌を聴け』が第22回群像新人文学賞を受賞してデビューしているということだから、1980年代はちょうど30代だ。
1984年はその年刊行の長編作品はないが、『螢・納屋を焼く・その他の短編』という短編集が刊行された年だ。
その前後で『羊をめぐる冒険』(1982年)、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(1985年)、『ノルウェイの森』(1987年)と、名作を数多く生み出している。
経済はバブルの直前。アップルがマッキントッシュを発表し、エリマキトカゲがブーム。マイケル・ジャクソンがグラミーで8冠を達成し、グリコ・森永事件が起きている。ロス五輪で柔道の山下やカール・ルイスが活躍した。
そんな1984年だ。その年の4月に天吾と青豆は1Q84に迷い込んでいる。月が2つあるもうひとつの世界だ。
1Q84の高円寺で、天吾と青豆、そして牛河はそれぞれの目的のために奔走する。あるいは静止し、考え、策をめぐらし、あるいは監視し、隠れ、移動し、別れを経験する。秘密は秘密のままのこともあるし、自然と暴かれることもある。青豆にはわかる。腹部に小さいものを宿した女性はやはり強い。
メインの登場人物もサブの人物も大活躍だ。出てくる人物も出てこない人物もこの世界は内包してそしてひとつにまとまって収束を迎える。
物語は収束するが、終息ではない。それぞれの人物たちはふたつの世界で地に足をつけて生きていく(あるいは死んでいく)。
- 感想投稿日 : 2020年8月19日
- 読了日 : 2020年8月19日
- 本棚登録日 : 2020年8月19日
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