生きられるかどうか。
それは「自分のままで、自分の感じたことをそのまま叫べる“場所”が、あるかどうか」、そこにかかっている。
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デザイン会社勤務の由人(ゆうと)は、失恋と激務からうつ病になる。
そんな由人の勤めていたデザイン会社は、経営が八方塞がりになり、倒産してしまう。
デザイン会社社長の野乃花は、倒産した会社とともに、自らの命も終わらせることを決意した。
そんな2人は、ひょんなことから湾に迷いこんだクジラを見に行くこととなる。
その道中、偶然出会った女子高生の正子もまた、母親との苦しい関係から逃げ出し、死に場所を探していた…
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由人、野乃花、正子の3人それぞれは、死にたいくらいの苦しみを抱えたまま、どうにか生きている状態でした。
物語は、由人、野乃花、正子それぞれの過去が、1章ずつ丁寧に書かれ、終章である現在につながっていきます。
それぞれの物語を読んでいると、この世のどこかに彼らがいる感覚が強くなり、しんどくて苦しくなっていきました。
その“生き”苦しさは、まるで「かがみの孤城」(辻村深月・著)や「アニバーサリー」(窪美澄・著)のときに感じたものと似ていました。
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文庫の好きなのは、巻末にあとがき又は解説があるところです。
今回の解説は作家の白石一文さんが書かれていますが、まさに「晴天の迷いクジラ」で描かれているものの確信をついていて、しびれました。
解説を読み終わったあと、「ああ、だからわたしも本編を読みながら“生き”苦しくなったのか…」と、腑に落ちたのです。
由人、野乃花、正子という異なる過去のなかで、“生き”苦しさが生まれた共通点が唯一あるとすれば、それは…
その“こたえ”は、ぜひ本編を読んだあとの、白石一文さんの解説のなかで、出会っていただければと思います。
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「晴天の迷いクジラ」を読んだあとは、世界がまるで違って見えます。
「自分のままで、自分の感じたことをそのまま叫べる“場所”」が、自分のなかにありますか。
由人、野乃花、正子と一緒に、そんな場所を探しにいく旅に、出かけてみませんか。
- 感想投稿日 : 2020年10月3日
- 読了日 : 2020年9月11日
- 本棚登録日 : 2020年9月10日
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