ひとつ前に読んだ「九つの、物語」(橋本紡著)の中に挿入されていた
古典文学の短いお話「コネティカットのひょこひょこおじさん」の著者が
J.D.サリンジャーであることと、このお話はサリンジャーによるその他の
お話と共に、九つの短編が収められている「ナイン・ストーリーズ」という
短編集の本であることを同時に知り、「九つ」と「ナイン」の二つの本との
巡り合わせにも心動かされて読んでみました。
・バナナフィッシュにうってつけの日
・コネティカットのひょこひょこおじさん
・対エスキモー戦争の前夜
・笑い男
・小舟のほとりで
・エズミに捧ぐ――愛と汚辱のうちに
・愛らしき口もと目は緑
・ド・ドミーエ=スミスの青の時代
・テディ
それぞれ単独の短いお話で、どのお話の中にも幼児くらいの小さな子供や
十代の少年少女、あるいは二十歳を超えたくらいの若い青年が登場します。
(登場しないお話も若干あり)その少年少女たちに向けられている、著者
サリンジャーの眼差しはとても穏やかで柔らかく、愛おしささえ感じる
優しい空気に包まれていました。けれどもその一方で、大人な人の心に潜む
言い知れぬ孤独感のようなもの悲しい空気も漂い流れていて、どのお話も
人肌ほどの柔らかな温かさと、人恋しくなるようなもの寂しさとが交差して
たゆたっているように感じられました。
ちいさな子たちや少年や少女は決してみな主人公ではありません。
(中には主人公もいます)けれどもこの子たちこそがお話の中での重要な
キーパーソン。著者サリンジャーは、子供たちの姿を借りて、読む人への
メッセージを込めていたのかしら...と、ふとそんなふうに思えたお話が
いくつかありました。中にはサリンジャーご自身をなぞらえているのかも...と
思えてしまうようなお話もあったり。(「笑い男」の私。「エズミに捧ぐ」の私。)
サリンジャーの著作を読むのはこれが初めてで、何の予備知識もないまま
読んだのに、九つのお話どれにもどこかになぜかしらサリンジャー自身が
いるように思えてなりませんでした。不思議。
「バナナフィッシュにうってつけの日」に続くお話と「ライ麦畑でつかまえて」
読んでみたいです。
- 感想投稿日 : 2018年3月10日
- 読了日 : 2018年2月7日
- 本棚登録日 : 2018年2月28日
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