表紙の著者は凜とした表情でこちらを見ている。彼女は逃げも隠れもしていない。ただ自分に起きた事実を明らかにしたかっただけ。司法や捜査、性犯罪ホットラインなどのシステムの改善に、国会での法改正とともに取り組むべきだと主張した。自分のような被害者をこれ以上出さないために。
それに比べて山口敬之氏のほうはどうだ。仲間が集う自分の庭のようなところから反論の手記のようなものを発表するだけ。メディアにも出ず会見も開かず、核心の質問にはまったく答えていない。これでは都合の悪いことを隠していると言われても仕方ない。
山口氏の馴染みの寿司屋の店側の証言が、腑に落ちない印象なのはなぜか。詩織さんは自分では歩けず山口氏に抱きかかえられるようにしてホテルに入った。それを見ていたシャラトン都ホテルのスタッフは、なぜ一言声をかけなかったのか。「駅で降ろしてください」と詩織さんが何度も言ったと記憶しているタクシーの運転手の証言は、なぜ調書から消されたのか。逮捕の当日、捜査員が空港で山口氏の到着を待ち受けるさなか、中村格刑事部長の判断によって、逮捕状の執行が突如止められたのはなぜなのか。
この本を読んで、デートレイプドラッグの存在と、準強姦事件ではそれを使った犯行が多いことを知った。アフターピル、スウェーデンにはレイプ緊急センターなるものがあること、レイプキットによる検査は被害後10日まで可能なこと、日本では開業医の婦人科ではなく、救急外来を受診すること、etc。
レイプは人間の尊厳を踏みにじる行為だ。被害者は一生その傷を持ったまま生きることを強いられる。一方ほとんどの加害者は、罰を受けることもなく、おそらく罪の意識さえなく、のうのうと暮らしているのだろう。
これは個人の事件ではない。法律、警察捜査の問題点、そこかしこに漂う官邸周辺からの圧力…。
この国におけるあらゆるブラックボックスの存在を、この本は明らかにしてくれた。真実は何か。詩織さんに起こったことは、あなたやあなたの大切な人たち、誰に起こってもおかしくないのだから。
- 感想投稿日 : 2017年11月1日
- 読了日 : 2017年11月1日
- 本棚登録日 : 2017年11月1日
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