- Amazon.co.jp ・本 (690ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003243374
感想・レビュー・書評
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長期滞在が続くハンス・カストルプは、ショーシャ夫人との出来事のあとも、様々な出会いと別れを重ねていく。
まぁ、本を手に取った時点でわかっている話(700ページ近い厚さ)ではあるが、下巻もとにかく長い(汗)。ストーリーそのものだけにしぼればもっと短くできそうなものだが、音楽(レコード)やオカルト(こっくりさん的な降霊術)などにハマる長々とした描写も含め、ダラダラと論争や語りが続くところに意味のある小説なんだと思う。
上巻以上に重要な出会いと別れが続き、単調であるはずのサナトリウム生活には話題が尽きない。多様な登場人物との触れ合いがこの小説の魅力だ。病いと死に隣り合わせのため、面白おかしいというわけにはいかないが、下界とは一線を画する環境であるゆえの人物描写が独特の味わいをみせている。
本書最大の山場はおそらく、第六章にある節「雪」だろう。スキーに出た雪山で吹雪におそわれたハンス・カストルプは、幻想的なビジョンを夢で見たあと、対照的な思想を持つセテムブリーニとナフタの論争を超越し、理性に代わって生と死の対立を超える「善意と愛」に目覚めていく。
後半でハンス・カストルプに大きな影響を及ぼすペーペルコルンが物語に活力を与えている。三角関係のようになってしまうショーシャ夫人との顛末も面白く、素直に楽しめた。
作中で「人生の厄介息子」と称されるハンス・カストルプの生き様は、現代でいえばニートに類似するものではあるまいか。訪問者が時間の感覚を失って居座ってしまう、この「魔法の山」での生活のなかで、生と死、社会と人生における広範なテーマを模索し学び、長いモラトリアム期間を過ごしたあと、現実に戻っていくというような、青年期におけるイニシエーション的な奥行きがあると思った。
映像的かつ詩的なラストの描写には大きな感動を覚えた。ああ、そうなるのか、と。
非情に深い感慨を受けた本作。一読では消化不良の部分もあるため、ぜひともいずれ新潮文庫版も読んでみたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
上巻からは想像できないくらいの死。ナフタが登場してセテムブリーニとの宗教論争、政治論争、平和論争が延々と続き、終盤のペーペルコルンの登場で突然円周率の計算についてのご託がはじまって、ひょっとしたらハンス・カストルプの将来の姿かと思わせる。初読のときラストが衝撃だった。物語としては「ブッデンブローク家の人々」の方が面白いかもしれないが、サナトリウムで展開される人間模様が切れ目のない、否もしかしたらあらゆる所に切れ目があるような構造を持っているので、漱石の「我輩は猫である」のような読み方が可能かもしれない。
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下巻に入ると俄然興味深くなってきた。フリーメーソン会員であるセテムブリーニとイエズス会士のナフタによる論戦は20世紀初頭の時代精神を感じさせるし、そうした形而上学的議論を吹っ飛ばすペーペルコルン氏のわかり易い器の大きさとその退場の仕方は現代的だ。物語は「人間は善意と愛を失わないために、考えを死に従属させないようにしなくてはならない」という言葉が感動的な「雪」の章の後、緩やかに下山するかの様に死の景色が強くなるが、先の言葉を思い返すことでその景色を越えていくのだ。そして物語の時は止まり、私達の時が動き出す。
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本当に世界最高傑作とよんでいい大作。
ヨーアヒム•チームセン、ペーペルコルン氏、圧倒的な一人一人のキャラクター。
そのような一人一人と過ごす時間がずっと続いて欲しいと思うが、これまた圧倒的なフィナーレを迎えてしまう。
大学生諸君に読んでいただきたい。
そうして、十年ぐらいしたら、再読してみて欲しい。
素晴らしい感動が待っているよ。 -
いやー難しい。50%も理解してない気がする。
抽象化して抽象化しての感想を言うと、
なんの制限や規範もない中で、
有意に、豊かに生きることは重労働だなぁと。
なぜなら自由は人を退廃化させるから。
無規範は退廃。退廃とは死。
一元的にならず、総合的に進歩していくこと。偏らないこと。
それが生きるということ。
自然に従順なのは動物。理性に従順なのは機械。その真ん中が人間ということかなぁ。
そして、人間らしさの源は感性。
磨くためにはまず意志がいる。水遣りを怠らないこと。
企業で生きない自分にとって、
重要な内容だった。また機会があれば読みたいと思う。
「道徳を理性と徳操の中に求める人文主義者の目には、すでに救われない人間として映っていただろうか」
「老子は、無為は天地間のあらゆるものよりも有益であると考え、すべての人間が行動することをやめたら、地上には完全な平和と幸福とが訪れるだろうと説いている」
「人間はもともと善良で幸福で完全であったのに、社会的欠陥の為に歪められそこなわれたのみであって、社会機構を批判し改善することによって、再び善良に幸福に完全にならなくてはならない」
「喋ったり、意見を持ったりすることからは、混乱が生じるだけだ。僕達から言わせると、僕たちがどんな意見をもつかは問題ではなくて、信頼できる人間かどうかが問題。はじめから意見などは少しも持たずにいて、やるべきことを黙って実行するのが一番いいんだよ」
「肉体的な美は愚劣そのもの。魂と表現の世界から生まれたものは常に美しいために醜態」
「人間のためになるのが真理です。自然は人間の中に要約されています」
「キリスト教的世紀のすべては、自然科学が人間にとって無価値であるという点で完全に一致した考えを持っていた」
「教育の目標は絶対命令、絶対服従、規律、犠牲、自己否定、人格の抑制にある。青年の深い喜びは従順です」
「対立しあうものは調和しあいます。調和しあわないのは、中途半端な不徹底なものだけです。」
「真に自由と人間性とに到達するためには、【反動】という概念にびくびくしなくなることが第一歩です」
「彼の考えが私の考えと違っていて、対立的であることが、私にとって彼と話しあう魅力になっているんです。私は摩擦を必要としています」
「自分の考えを主張しないこの慇懃な如才なさは、彼が育った文化に自信がないからではなくて、むしろ文化の強固な価値を意識していたからであった。」
「自分にとって奇怪に感じられる習俗に接してもそれを奇異に感じる気持ちを見せまい」
「病人は病人であり、病人なみの体状と弱い感性を持っているだけであって、病気は病人を衰弱させ、病苦をそれほど苦痛と感じさせなくさせ、体の感性的減退、喪失、ありがたい麻痺、精神的と道徳的な順応と軽減現象を招く」
「行為や行動においては決定論がもちろん成り立ち、そこには自由はありえないが、人間の本性には自由がある。人間はかくあろうと欲した通りの人間であり、滅びるまでかくあろうと欲してやまない」
「徳と理性と健康が軽視されて、悪徳と病気が不思議に尊敬されている世界に近づくことはできない」
「人間性、高貴性、自然からすっかり離脱してしまい、自分を自然と全然反対の存在と感じている人間を、他のあらゆる有機生命から区別しているのは精神である」
「進歩というものがありえるならば、それは病気だけが与えるものであり、天才だけの賜物。天才とは病気に他ならない」
「客観的真理を追究することを人間の倫理性の最高の法則であると考えている」
「目的にかなったことをやっているつもりでも、実はぐるぐるまわりをやっていて、悪戦苦闘を続け、出発点へ逆戻りの円を描く」
「人間は善意と愛とを失わないために、考えを死に従属させないようにしなくてはならない」
「檀と言う概念そのものが、すでに絶対的なものという概念と緊密に結びついている」
「人間らしさとか、人間的とかいうものは、論争される2つの極端の中間、饒舌な人文主義者と、文盲な粗野との間のそこか中間にある」
「文学的精神は、あらゆる人間的なものへの理解を呼び覚まし、愚昧な価値判断と信念とを軟弱させ、人類の教化、醇化、向上を可能にする」
「興奮的な理論を口にする精神は、生命を損なうだけであり、熱情を抑制しようとするのは、無を欲すること」
「なんでもないことにもおちょっかいをすることがきらいではなく、それをなんでもないことでもあるかのように扱い、それでも神様にも人間様にも受けが良くなるように考えておいでです」
「世間では哲学的な楽観、明るい結果を信頼する自信を健康の表現と考え、その反対に、悲観と嫌世とを病気の兆候のように考えているが、これはあきらかに誤見である。なぜならそうでなかったら、絶望的な最後状態になってからあんな楽観におちいるはずがない、あのような病的な楽観にくらべると、その直前の沈鬱な状態などはむしろ健康なたくましい生命の発現であるとも言える」
「文学者の誤りは、精神だけが人間を真面目にすると考える点です。ほんとうはむしろその反対。精神がないところにのみ真面目さがある」
「どうして彼がこういう人々をまわりに集めることが出来たか。それは、彼がどんなことでも【傾聴に値する】ように感じたから。」
「機知、言葉、精神が問題ではなくなり、事実、生活、つまり支配者的人物の縄張りである問題と事実が前面へ出てくると、情勢は明らかに不利になった」
「生にいたる道は2つあって、その一つはふつうのまっすぐな大通りであり、もう一つは裏道、死を通り抜ける道であって、これこそ天才的な道なんだ」
「我々は感情燃焼の義務、宗教的義務を持っている。わたしたちの感情は、生命を呼び覚ます男性的な力。人間は感じるから神聖」
「人生への感情の減退を、宇宙の終局、神の汚辱と感じる」
「無感覚も場合によっては悪魔性をおびる。神秘な恐怖を呼び起こす」
「時間を忘れた生活、屈託も希望もない生活、外見は急がしそうで内部は沈滞している生活、死んでいる生活である」
「心情が物質の世界でも創造力を持つことをみとめることになる」
「まやかしと真実とを区別する倫理的勇気が退廃し始めると、生そのもの、批判、価値、革新的行為もおわりであって、道徳的懐疑がおそろしい分解作用を行ない始める」
「物質によって精神に形を与えようとするのは馬鹿げている」
「義務と活動の市民社会を軽蔑の気持ちを持って、平地と呼んでいるが、この優越感と自信とは、市民社会のきずなと時間の束縛とから自由になった人が義務と束縛の中に生きている人々に対して感じるもの。」
「生の暗い面を見ることは、けして生の否定いはならない」 -
トーマスマンの考えを余すところなく伝えていただいた
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記録
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2022/1/21
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結局完全に理解できないまま読破してしまいました。けれども読み終わってから、心がゾワゾワするような感じがします。いつか再読したい作品です。