南京事件 (岩波新書 新赤版 530)

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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004305309

感想・レビュー・書評

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  • 読まなくちゃいけないんだろうな、と思いながら読んで、やっぱり気分が悪くなった。

    第二次世界大戦での日本の戦死者数は軍民合わせて310万人だそうだ。一方、中国は1000万人以上。フィリピン、シンガポール、インドネシア、ベトナムなどのアジア諸国を加えればその数はさらに跳ね上がる。しかも国土が戦場になったこれらの国では、民間人の死者が軍人よりずっと多い。彼ら、彼女らはこうして殺されていったのだ。どんなに悲しく、無念だったろう。

    彼らを殺したのはぼくらの祖父たちだ。どうしてそんなことができたのか、ぼくにはわからない。わからないからなおさら恐ろしい。あの時代、あの世界に生まれていたら、ぼくも彼らと同じように殺したのだろうか? 

    怖いからこそ読まなければ、と思う。ぼくひとりの力は限りなく小さい。でもこの時代に生まれ、本を読んだぼくは、殺さない。それだけが頼りだ。

  • 南京事件について全く知らなかったので読んでみた。
    陰鬱な気分になる記述がたくさんある。特に私は女なので、女たちの受けた凄惨な被害を知ってショックだった。

    日本軍のもともと持っていた性質が、幾つかの条件により増幅されて、南京事件に至ったんだなと思った。
    「行き当たりばったりな計画」「兵隊を酷使して疲弊させるトップ」「中国人への蔑視」といった要因があった。

    条件が揃えば、人間はどこまでも残虐になれると思った。
    だからこそ、事件を反省して、二度と同じ状況が生まれないようにしないといけない。
    そのためにも、この本を多くの人が読んで、南京事件について知って欲しいと思った。

  • 直前に稲田 朋美氏の「百人斬り裁判から南京へ (文春新書)」を読んだ。また、秦 郁彦氏は徹底した資料分析と膨大な量の定量的調査などから鋭く歴史の事実性に切り込む私の好きな歴史家であるから多くの書物を読ませていただいた。著名な作家、歴史家が挑んでいる南京事件であるが、本書笠原十九司氏の「南京事件」もその真相に迫ろうとしている。実際に事件の場にいた兵士が現在では殆どいなくなっているため、現場にいない作者の情報ソースによっては大分内容に偏りが出てくる点は否めない。だがそれら情報ソースが更にどこをベースに置いているかで、枝葉も変わってくる。
    実際に現場にいた兵士の階級、将校と末端の兵士では活動する現場が違う。何より部隊によっては先発する部隊と後方から追う部隊では現場到着時刻も異なり、目まぐるしく戦況が変わる戦場に於いては全く異なる風景が広がっている。そして一般市民が見た記憶した事件の見方は、その後の歴史に大きく影響する。何より家や家族を失い、戦場で強姦された女性、息子や夫を殺害された親達の記憶には地獄さながらの景色が色濃く残る筈だ。自分の武功を強調したい兵士、惨劇を目の当たりにし自省の目で見た兵士、全てを失い恨みだけが残った市民、それらが記録や記憶に残した定量的な記述の多くには偏りが出てしまうのは仕方ない。
    その中でも中国以外の滞在外国人、ジャーナリストや医師団、外交官などが見た現場描写はある程度は信憑性が高いと思われる。とは言え当時は概ね世界から見た日本は残虐非道であったのは間違いないし、自国の戦意高揚や国際的な批判を巻き起こしてそれら行為をやめさせたいなら、誇張が含まれるのは仕方ない。そうした人々も多くは自分のいた場所、見た範囲でしか語ることができないからだ。
    結局のところ戦況全体を俯瞰し、混乱する戦場に於いては正確に数や状況を把握する事など不可能に近く、事件から80年以上の時間が経過した今となっては調査を更に難しくしている。その様な中でも事実に迫ろうとする歴史家や作家の努力を大いに認め敬意を表せずにはいられないのであるが、現在最も信頼性の高い数字としては、民間人の死者4万人といった秦郁彦氏の数字と言われている。なお先日読んだ百人斬りについては信憑性はかなり乏しいものと私は見ている。その他BC級戦犯の裁判については運不運も影響し、今となっては真実を探る手立ては殆どなくなってしまった。然し乍ら松井石根大将の責任の重さは変わらない。軍を率いる立場でそうした日本軍の統制の乱れを抑止できなかった罪は大きい。確かに常備軍ではなく戦場に連れて来られた兵士たちの統制にはかなり強力な監視と労力を要するが、普通に考えて兵士たちがこの様な事態を引き起こす事は容易に想像できる。現代社会でもウクライナに侵攻したロシア兵の残忍さがクローズアップされるが、兵士の心理状態を考慮した戦場の在り方を改めて考えさせられる。何より戦争を起こさない努力が一番であるが。

  • 南京事件の経緯をわかりやすく丁寧にたどる本。

    論争の多い分野で何が正しいのかはわからないのだが、当時のコンテクストの中で、さまざまな要因が重なり生じてしまったものなのかなと思った。

    犠牲者の数や実態などについては議論のあるところであろうが、この記述がウクライナで起きていることとかぶってしまい、気持ちが落ちた。

    人間って、やっぱこんな愚かなことをするんだ、状況次第にでは、人間って簡単に残酷なことができるようになるのだということを再確認した感じ。

  • 正直かなり読むのがきついが、日本人なら絶対に通らなければいけない歴史的事実だと思う。
    ゲームのように首を刀ではね、あらゆる女性を強姦し、生死をかかわらずにまとめて焼き尽くす。
    一人のドイツ人が中国人を助けるために尽力していたというのはとても皮肉なことで、この民族はこうだなどという価値観は幻想であるなと痛感する。

  • (後で書きます)

  • 2017/12/25 17:00:47

  • 1997年刊。◆宇都宮大学教授たる著者が、南京事件(第二次上海事変を含む)を、多数の引用文献を利用して論じたもの。著者の書籍や引用文献は幾つかは既読で、その意味で新味に欠けた。が、丁寧な叙述と読みやすさはお勧めできる。また、南京事件の実相以外にも興味深い事実がある(暗澹となる事実でもある)。①日本軍の補給・兵站の軽視(補給部隊が到着せずに南京進撃をごり押しした松井石根)。②山本五十六が南京渡洋爆撃を新型爆撃機の実験場とし、航空機予算獲得の方途とした点。③南京事件の現場フィルムを毎日放送でかつて放映した点。
    ④軍事を外交の延長と思わず、メディアの威力も軽視した軍人のありよう(南京占領時に外国人記者が活動していたことを放置。にもかかわらず、皇族の南京入城をスムーズに進めるためだけに残兵掃討を続け、海外世論を味方につけることに失敗した点。こんな方法は上部層の自己保身と名誉欲以外の何者でもない)。⑤駐華独大使トラウマン和平工作を日本側から進めておきながら、突然踵を返すかのごとく前言を撤回する日本の外交策の拙劣さと、これに加担した近衛首相と広田外相(広田の責任は軽いとの意見を見られるが、本書からはそうは思えない)。

  • とかく虐殺人数の多寡が云々されがちだが、実証資料に基づいた残虐行為の数々を知るにつけ、被害者の総数が少なければ問題ないとでも言わんばかりの論調の空虚さを知る。
    生命という不可逆的なものを犠牲にする行為は、いかなる意味においても許されない。
    略奪、強姦といった行為を軍法で禁じていたはずの日本軍が犯した愚行。深く反省すべき時。

  • 勉強不足なのでほかにも南京事件に関する本を読まないと。

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著者プロフィール

1944年、群馬県生まれ。東京教育大学大学院文学研究科修士課程東洋史学専攻中退。学術博士(東京大学)。都留文科大学名誉教授。専門は中国近現代史、日中関係史、東アジア近現代史。主著に『南京事件』(岩波新書)、『第一次世界大戦期の中国民族運動』(汲古書院)、『日本軍の治安戦』(岩波書店)、『憲法九条と幣原喜重郎』(大月書店)、『日中戦争全史(上・下)』『通州事件』(以上、高文研)、『海軍の日中戦争』(平凡社)、『増補 南京事件論争史』(平凡社ライブラリー)などがある。

「2023年 『憲法九条論争 幣原喜重郎発案の証明』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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