江戸の絵を愉しむ: 視覚のトリック (岩波新書 新赤版 843)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (213ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004308430

作品紹介・あらすじ

襖を閉めると飛び出す虎!江戸時代、絵画の世界はアッと驚く遊び心にあふれていた。視覚のトリック、かたちの意外性、「大きさ」の効果-。絵師たちの好奇心と想像力が生みだした、思いもよらない仕掛けを凝らした作品を浮世絵・戯作絵本から絵巻・掛軸・襖絵にいたるまで紹介し、新しい絵画の愉しみかたを伝える。図版多数。

感想・レビュー・書評

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  • 資料番号:010675676
    請求記号:721.0/サ

  • 榊原悟 「江戸の絵を愉しむ」

    江戸絵画の遊び心を伝えた本。

    絵に動きや展開を与えた絵巻、襖絵、即興の戯画
    絵に意外性を与えた寄せ絵、影絵
    巨大すぎる人物絵、手が長すぎる手長猿(猿猴捉月)の絵など


    江戸絵画の遊び心が 現代の日本文化につながっている


    即興の戯画の 長沢芦雪 「虎図襖」「大仏殿炎上図」「那智滝図」「富士越え鶴図」は 筆致の速さが 絵に動きを与えており、アニメの原型。絵巻や襖絵の展開性、立体感を与える工夫は トリックアート。寄せ絵や影絵は ギャグ漫画。






    長沢芦雪
    「朝顔に蛙図襖」即興の戯画(烏滸絵おこえ)。朝顔のつるのしなやかな細線で表現、スピーディーな筆致
    「虎図襖」襖3面目一杯描かれた虎。スピーディーな筆致が虎の動勢を表す。虎の鋭い視線の迫力。裏面の猫の親子〜虎の残像が消えないうちに猫を見せる
    「大仏殿炎上図」高く噴き上げる炎と煙を一気に描いた。鬼火、人魂のよう。
    「那智滝図」画面をひらくと 最上部から豊かな量の水がどっと流れ落ちる。画面を上から下へ移動する
    「瀑布図」マッチ棒大の巡礼者
    「竹に月図」たわむことなく、どこまでも垂直に伸びる竹幹
    「富士越え鶴図」富士山のむこうから鶴がこちらへ飛んでくる。隊列=同形の反復。


    手長猿をモチーフとした江戸の図象(猿猴捉月図)の流行
    *猿猴捉月 (えんこうそくげつ)図とは 猿が水面の月影を取ろうとして枝が折れ溺れ死んだ〜身のほど知らずは災いをもたらす
    *長谷川等伯「枯木猿猴月」
    *俵屋宗達「猿猴図」ゆるやかで美しい彎曲線の長い手

  • 江戸の絵を書いた画家たちの創意工夫や、当時の思想などが、知識の全くない人にもわかりやすく書かれています。美術館で絵を見ると、絵巻を、襖絵を、掛幅画(掛軸)を、「ひらいて」見ることは難しいですが、当時は「ひらいて」見たのだと知っているだけで、今までと違った見方ができると思いました。

    この本を読むと、もっと江戸の絵を愉しめるようになりそうです。実物の絵を見たくなりました。

  • 芦雪以外の作品も含めて、江戸時代の日本画の面白い見方、視点が紹介されている。例えば芦雪の虎図襖絵は、襖絵だからこその動くという特性、即ち紙芝居効果を芦雪は考えたうえで描いたのではないかと紹介している。確かに取り上げられている名古屋城上洛殿襖絵や芦雪の虎図などを、実際の部屋の襖として閉められている図、開ける時の図、閉める時の図を文中の図のイメージに助けられて思い描くと、おお!、なるほど!と驚きの納得がある。他にも襖絵に描かれた絵同士の視線の話や、絵巻、掛け軸を開きながら眺める時の空間、時間効果などもワクワク感をかきたてられ、実物を見たい!と思わせてくれるお話が並んでいた。

  •  襖絵を「開ける」。
     すると図様に消える部分と残る部分とが生じる。襖絵の宿命だ。しかし、名古屋城上洛殿襖絵の場合、この残る部分に主たるモチーフを配すことによって、この宿命を克服し、あまつさえテーマを鮮明化させることに成功した。
     開けた襖絵は閉めねばならぬ。
     これもまた「可動性」のひとつだ。「閉める」。そのとたん、わたしたちの視界から一瞬消えていた『虎』が、突然、巨大な姿を現す。その唐突さが、画面から飛び出さんばかりの『虎』の勢いに、いっそう拍車をかける。「開ける」「閉める」。その度ごとに『虎』は消え、出現する。まるで紙芝居だ。その視覚的意外性に人びとは手を打って喜んだにちがいない。(p.42)

     大江戸人士の見る力ー視覚を高めたというならば、顕微鏡、望遠鏡なども忘れてはなるまい。前述した「七面鏡」や、覗眼鏡もふくめて、すべてこの時代オランダ船が舶載したものだ。それらの珍しい光学機器のレンズの向こうに現れる天体の姿や微小の世界は、通常の視覚ではとらえることができないはずだ。その「かたち」が意外であったことはいうまでもない。(p.138)

     それぞれの時代の人びとの「眼」が何に向けられていたか、その関心の所在を、その時代が生み出した「かたち」を通じて分析し、明らかにすること、それが美術史だ、と。わたしなりの精一杯の答えだ。(p.211)

  • 絵画の鑑賞方法は人それぞれだと思うけれど、「絵画史」としての楽しみ方を解説した本。
    人の―特にその道のスペシャリストの―鑑賞方法を追体験出来るので面白かった。参考になった。

    他の本も読んでみたいと思った。

  • 日本画の読み方。

    たとえば文章を書くとき、400字詰めの原稿用紙に手で文字を書くのと、パソコンでwordに打ち込むのと、携帯からツイートするのでは、同じ人が同じテーマで語るにしても違う文章になる。
    リズムとか、一文の長さとか、区切り方なんかが変わる。
    きっと絵もそんな感じなんだろう。

    古い日本の絵は、見るためにまず「ひらく」ものらしい。
    絵巻を、掛け軸を、ふすまや屏風を「ひらく」。
    優れた絵描きはかたちによる効果や、ひらいたときの目線まで計算に入れていたようだ。
    萩尾望都が読む人の目の動きまで計算してコマ割をしたという逸話を思い出した。
    あれは「あのひととここだけのおしゃべり」だっけ?
    きっとそこまで優秀じゃなくても形態に影響はあるだろう。

    カメラもない時代にリスやら鳥やらの動きをとらえて実物以上の躍動感を現す絵の数々は改めてみると本当にすごい。
    絵を描く人の頭の中ってどうなってるんだろう。天才ってすごい。

    見る側にも時代のお約束があって、それを踏まえるから面白くなる。
    知的な遊びだなあ。
    とかそんなことを考えられるようになった頭で見る絵は、ただ眺めるよりも楽しい。
    見方を教えてくれる良い本。


    ・意外な視点から見る絵の話で、空を飛べるようになって鳥瞰を得た、という話を思い出した。
    あれはヨーロッパだけど。『戦争と建築』http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/479496580X

    ・思いがけず男色の話がでてきた。
    『女装と日本人』を連想した。http://booklog.jp/users/nijiirokatatumuri/archives/4062879603

  • [ 内容 ]
    襖を閉めると飛び出す虎!
    江戸時代、絵画の世界はアッと驚く遊び心にあふれていた。
    視覚のトリック、かたちの意外性、「大きさ」の効果―。
    絵師たちの好奇心と想像力が生みだした、思いもよらない仕掛けを凝らした作品を浮世絵・戯作絵本から絵巻・掛軸・襖絵にいたるまで紹介し、新しい絵画の愉しみかたを伝える。
    図版多数。

    [ 目次 ]
    1 生活のなかの遊び―動く画面(日本の絵はどこで見る 「ひらいて」見る―絵巻「大蛇に化ける女」 動く壁―襖絵の隠現効果 ほか)
    2 視点の遊び(日本の絵の魅力とは? 意外のかたち 合成された顔―国芳の「寄せ絵」 ほか)
    3 「かたち」の遊び―猿の図像学(擬人化された猿 「猿」と「猴」 猿猴捉月―長い手の魅力 ほか)

    [ POP ]


    [ おすすめ度 ]

    ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
    ☆☆☆☆☆☆☆ 文章
    ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
    ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
    共感度(空振り三振・一部・参った!)
    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 『賢学草紙絵巻』や長沢芦雪の絵が面白い。 この本では書かれていないが、個人的には伊藤若冲がこの時代の絵師では一番好きだ。

  • 江戸時代やそれ以前を含めて、日本の絵画の特質を抉り出して教えてくれ、興味深かった。
    「扉」には、こう書いてある――

    襖を閉めると飛び出す虎! 江戸時代、絵画の世界はアッと驚く遊び心にあふれていた。視覚のトリック、かたちの意外性、「大きさ」の効果――。絵師たちの好奇心と想像力が生み出した、思いもよらない仕掛けを凝らした作品を浮世絵・戯作絵本から絵巻・かけj区・襖絵にいたるまで紹介し、新しい絵画の愉しみかたを伝える。図版多数。

    筆者は\'48年愛知県生まれ。早稲田大学院卒、サントリー美術館主席学芸員を経て群馬県立女子大教授。日本絵画史専攻。

    面白かったのは、一つは、日本の美術が多く、「開く」という動作を伴い、それが鑑賞に当たっても、
    物理的な「時間」の要素が加味される、という点の指摘。
    つまり具体的には、一つは「絵巻物」。また「掛け軸」。いずれも、鑑賞に当たって、軸なりを繰ることによって、その中に「絵」がある。
    繰るなかに、時間的な遷移があり、物語も展開する。
    典型的な例としての、鳥獣戯画。そこの線、フォルムもさることながら、どのように鑑賞されるか、という視点だ。

    筆者が冒頭に書いているのは、例えば狩野派などの障壁画が、展覧会で「平面的」に展示されることの誤り。
    西洋画の二次元的な広がりとはまた一味違う「障壁画」では、その「絵」が何枚かある障壁画、襖絵などの関連のなかで、どのような位置を占めているのかを無視しては、製作者の意図も見えなくなってしまう。襖絵は、襖を引いたときに、どの面が見るものに残されることになるのか、どの面が消えてしまうのか――その点についての、これまでの展覧会での展示方法に問題があったのではないか、という。

    それに「視点」の遊びについても書いている。「見立て」という、日本の芸術の特質ともいえる芸の話だ。
    例えば、歌川国芳の「影絵」。「何に見えますか?」というクイズみたいだが、絵解きには「金魚にひごいっ子」ある。
    それが、実は「狩人に狸」であった――っていう趣向。文字だけで説明をすることは不可能に近いが、
    視点が微妙にずれたり、人びとがもつ文化の中で、当然と思う組み合わせにドンデン返しの手品のタネ明かしが目の前で行われる(正確には、冊子の表と裏のような位置に、影絵と光が当たった実体が描かれるという手法だ)

    嵌絵であるとか、日本人が鎖国をしていた時代に醸してきた文化、さらに細い外国からの舶載の道を辿って、新たな工夫を生み、それを耕した土壌に花咲かせる……。そんな営みが、かつてあったのだな、と改めて感じさせてくれた。

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著者プロフィール

1948年、愛知県西尾市生まれ。早稲田大学大学院文学研究科修了。専攻は日本美術史。サントリー美術館主席学芸員、群馬県立女子大学文学部教授を経て、現在、岡崎市美術博物館長、群馬県立女子大学名誉教授。文学博士。
主な著書に、「狩野探幽ー御用絵師の肖像」(臨川書店2014年 徳川賞)、「日本絵画の見方」(角川選書2004年)、「美の架け橋ー母国に遣わされた屏風たち」(ぺりかん社2002年 芸術選奨文部科学大臣賞)などがある。

「2018年 『屏風と日本人』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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