憲法とは何か (岩波新書 新赤版 1002)

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  • Amazon.co.jp ・本 (193ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004310020

感想・レビュー・書評

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  • 安保法案を与党推薦人ながら違憲証言した注目の方をなぜ自民党は見誤ったのかを知りたかった。タイトルどおり、憲法の本質を哲学的、政治学的に追究していく内容の濃いコンパクトな一冊!。ホッブス、ルソー、カント、モンテスキュー、ロールズ・・・。昔、教科書で学んだ名前が次々に登場、正に根源から考えさせられた。「憲法9条による軍備の制限も、通常の政治のプロセスが適正に働くための規定」(P12)「従来の政府解釈で設けられている制約-たとえば集団的自衛権の否定-を吹っ飛ばそうというのであれば、その後、どう軍の規模や行動を制約していくつもりなのかという肝心な点を明らかにすべき。その見通しもなく、どこの国とどんな軍事行動について連携するつもりなのか-米が台湾を実力で防衛するとき、日本は米と組んで中国と戦争するつもりはあるのか-さしたる定見もないままに、とにかく政治を信頼してくれでは、そんな危ない話にはおいそれと乗れませんとしかいいようがない。そこまで政治が信頼できるという前提に立つのであれば、憲法などもともと無用の長物。」(P20)あまりにも的確な予言ぶりに驚き、快笑!成立を急いだ杜撰な国会の裏面を見た。「憲法改正」そのものの哲学的意味について論じる。2度の大戦も、冷戦も憲法の掲げる国の基本秩序を巡る戦いだった!日本は立憲主義の理念を持つ国。まずは日本をどういう国にしたいのかを基本的に決定することの重要性が力説される。(P59)著者は議院内閣制が優れ、大統領制が例外的に真に巧く機能している国は、独特の政治文化が存在する米国だけだとする。従って改憲による日本の首相公選制を否定する。また憲法改正の特別多数決の護持も主張する。憲法改正、或いは解釈の変更が必要だとの主張は全く見えてこない!確かに解釈で変更の余地があるような記載もあるが、少なくとも9条等の基本理念に関わる部分ではない。最後に、世界唯一国家の誕生は果たして理想か!この点も「魂なき専制」が齎され、無政府状態への堕落が予測されるとの著者の論理は明快。

  • 社会の授業でのことです。憲法と法律が区別して書かれていました。憲法は法律ではないのだろうか? という疑問がわいてきました。世の中では憲法改正、第九条は絶対守り通す、など様々な意見が飛び交っています。私の中では、現日本国憲法は第二次世界大戦後、アメリカ人の手によって作られたと聞いたこともあるし、ここらで、自分たちの憲法を作り替えてもいいのでは、と安易に考えたりもしていました。それで、本書を読んでみることにしました。法学も政治学もほとんど予備知識の無い人間ですから、もともとの三権分立の意味や、大統領と首相との違いが書かれているところを見て、なるほどと感心してしまいました。これで、フランスになぜ大統領と首相の両人がそろっているのか納得できました。そして、憲法というのはすべての法律の大元になっているものだということが理解できたと思います。そこの解釈の仕方が常に国会で議論になっているのだということも。こういうことって常識なんでしょうか? ひょっとして、中3生などはすでに教わっていることなのかもしれません。もし、自分も中学生のころに習っていたとすると、何にも身についていなかったということになりそうです。さて、本書には憲法改正についての手続きについてもくわしく書かれています。近々、そういうことが必要になるのかもしれません。国民の一人として、しっかり考えて投票したいものです。(この本を読むころまでは、本当に情けない状態だったんだよな。自分がです。)

  • 第1章 立憲主義の成立
    第2章 冷戦の終結とリベラル・デモクラシーの勝利
    第3章 立憲主義と民主主義
    第4章 新しい権力分立?
    第5章 憲法典の変化と憲法の変化
    第6章 憲法改正の手続き
    終章 国境はなぜあるのか 

  • 題名からすると、大学の勉強関係の本だと思われるかも知れないが、本当のところは以前読んだ「それでも、日本人は『戦争』を選んだ」の参考文献に取りあげられていて、面白そうだから読んで見ようと思った本だ。

    憲法と言っても「日本国憲法」の話ではなく、一般的な「憲法」の話で、憲法で戦争や冷戦解決の話をしたりするもんだから、なんか目から鱗というか、それまで考えもしなかったことだから、ものすごく興味深く読んだ。「国」とは何か、とかね。この「国」というのは、自然の国土やそこに暮らす人々のことを指してるのではない、それは「憲法」、いわゆる「権利の正当性」を指しているのだ、ということとかね。そして戦争というのは、一方が一方の憲法を書き換えさせることなんだ、と。

    こんな調子で途中まではね、4章まではすごく面白かった。なんかね、今までに考えたこともなかった概念が植え付けられたというか。

    だけどこの本、国民投票法ができる前の本だったんだよね。。そしてまだ(民主党に)政権交代するなど考えもしていなかった頃で、ある意味、これらのことが起こったあと、この人は今、どう考えてるんだろう?と思った。

    今は既に憲法改正論議は下火だが、例えば国歌国旗法の成立で、教職員が国歌を歌ったり国旗に対して立たなければならなかったり、という「勧告」(でいいのかな)が出来ている。国歌国旗法自体には全くそういうことは書いていない。しかし、こういう法律からではないもので、ある一定層をしばり、それによって国民に対して国歌は歌うもの、国旗に対しては立つもの、という「世論」を作り上げようとしている、そしてそれはいつか「憲法改正」へ繋がってくることが予想される。こういうことに対して、著者は一体どのように考えているのだろう?ということが気になって仕方ないのよね(笑)

  • 〜p.67。憲法の理解に役立つ。でも、憲法学者の交友関係は、狭そう。

  • 近代立憲主義・公私区分・硬性憲法・憲法改正・現代までの国家の形態の変遷・国境の意義などについて書かれていた。

    上記のことについて学ぶには良書だが、新書で文字数が多くない。
    内容に物足りなさを感じる人もいるはず。
    また、近代立憲主義などの前提知識が無いと多少読みにくいと感じるかもしれません。

    ただ、非常に分かりやすく面白い本です。

  • 筆者は、立憲主義は人間の本性にそぐわないと考えている。誰もが共通の真理や正義を信じ、それにしたがって生きることができる、「正義の味方」が悪を斬る時代劇のような分かりやすい世界に比べ、自分の思うように考えたり行動したりできる「私的空間」と、異なる考え方や利害を異にする立場の者と生活を共にしなければならない「公共空間」を区別し、法によって利害を調整しつつ生きることを選ぶ立憲主義に基づく近代以降の世界は、たしかに中途半端で、すっきりしないかもしれない。

    しかし、二度の大戦とそれに続く冷戦の時代を経て、世界の多くの国がリベラル・デモクラシーの世界を選択していることはまちがいのないところだ。憲法が明記されている日本のような国も、明記されていないイギリスのような国も、立憲主義に基づくリベラル・デモクラシーを維持し続けようとしている。特定団体間の利害調整に明け暮れる現代の議会制民主主義は、本来のデモクラシーから見れば頽落した体制であると考えるカール・シュミットのような人もいるが、ファシズムや共産主義のその後の運命を考えれば、現実問題として、今の世界に立憲主義に替わるものを提示することは難しかろう。

    しかし、憲法は、ただ我々の生活や安全を保証する有り難いものではない。憲法さえ変えればすべてうまくいくというような風潮が今の日本にはあるようだが、立憲主義の世界で、守るべき「国」というのは、現実に我々が暮らす土地や自分たちの生命を意味していない。「国」とは、その憲法に基づく法秩序の体制である。その意味では、先の戦争は旧憲法下の「国体」を護持するために戦われ、人々の暮らしそのものが成り立たなくなった時点で、旧憲法に代わって新しい憲法を得たのである。

    憲法改正問題で最も大きな問題と考えられるのが、九条をどうするか、という点である。日本国憲法の中心とは、言うまでもなく立憲主義と平和主義である。それを大事だと思うなら、憲法はいたずらにいじらない方がいい、というのが筆者の考えだ。法学者らしく、論理的に導き出された結論が、日本国憲法は「準則」ではなく、「原理」であるというものだ。長くなるが大事なところなので原文を引用する。

    自衛のための実力の保持を全面的に禁止する主張は、特定の価値観・世界観で公共空間を占拠しようとするものであり、日本国憲法を支えているはずの立憲主義と両立しない。したがって、立憲主義と両立するように日本国憲法を理解しようとすれば、九条は、この問題について、特定の答えを一義的に与えようとする「準則(rule)」としてではなく、特定の方向に答えを方向づけようとする「原理(principle)」にとどまるものとして受け取る必要がある。こうした方向づけは、「軍」の存在から正当性を剥奪し、立憲主義が確立を目指す公共空間が、「軍」によって脅かされないようにするという憲法制定権者の意図を示している。

    憲法が主権者の暴走に歯止めをかける役割を果たしているという点から考える時、もし、九条を字義通りにとらえ、自衛権も認めないとするなら、国家に帰属することによって自己の生命や財産を保全しようと考える多くの国民にとって、その解釈はデモクラシーの原則を踏みにじった決定を押しつけるものととらえられるだろう。その一方で、「軍」を明文化し、その存在を明確化しようとする提案は、公共空間の保全を目指す憲法の機能を揺るがしかねないものとなろう。

    目下のところ、教育基本法「改正」が国会論議の中心であるが、それが成った暁には改憲論議が高まるに相違ない。思ったよりも過激ではなく見える政府自民党案だが、改正手続きの段階で国会議員の「三分の二の賛成」が必要というところを単純過半数に改訂しようという動きがある。国民投票のあり方も含め、現実に論議されるべき問題は多い。

    改憲派にも護憲派にも、自分たちの考え方こそが正しいのだから、という「分かりやすい世界」観の上に立った物言いが目立つ。価値観を共有できない者たちが共に暮らす社会なのだからこそ、難しい問題を易しく解説してくれる、このような本が多くの目にふれることを望む。あまり手にすることのない新書版だが、このような重要な問題であるからこそ、誰にでも気軽に手にとることのできる新書という形態が望ましいのかもしれない。

  • 憲法があるのは、立憲主義に基づいているためである。すべて決まりごとがあり、成立しているのだが、後はよくわからず。
    法律関係の本を読破には、まだまだ、基礎が足りないようだ。


    異なる価値観、世界観は、宗教が典型的にそうであるように、互いに比較不能である。

  •  もうすぐ選挙ですが、首相公選制と憲法改正ところが参考になりました。
    制定されて何十年もたつ憲法を改正しても意味がない。あとは、解釈の問題だ。環境権やプライバシー権は、法律で十分守れる。改正のハードルが高いのは、政治家が改憲論議に労力を使って通常の仕事をしなくなるからだ。みたいな事が書いてあったと思います。
     そりゃそうだ。

  • 冒頭は、テンポ良く読みやすい文章ではあったが、後半はあまり読み進まなかった。内容は、立憲君主制を中心に現代と過去の統治制度を比較し、これから憲法改正や国境問題等の一般的に求められる知識を養う上では十分な本であったと感じた。

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著者プロフィール

早稲田大学教授

「2022年 『憲法講話〔第2版〕 24の入門講義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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