朝鮮通信使: 江戸日本の誠信外交 (岩波新書 新赤版 1093)

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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004310938

作品紹介・あらすじ

秀吉による文禄・慶長役(壬辰倭乱)の後、国交回復や被虜の送還を目的として、江戸時代初めての朝鮮通信史が来日してから今年で四〇〇年になる。外交関係を担った対馬藩や雨森芳洲、新井白石のこと、旅程と饗宴の実態、文化人の多彩な交流などを描きながら、一二回に及ぶ通信使の今日的意義を考える。

感想・レビュー・書評

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  •  朝鮮通信使を軸とした江戸期における日朝交流は「誠信外交」と呼ばれる。誠信とは互いに欺かず、争わず、誠意をもって交わることだ。この言葉は、たしかに当時の日朝外交の特質を捉えたものではあるが、同時に誤解を生みやすい。まるで狭い国益から解き放たれ隣人愛に溢れた隣国関係が続いたように思ってしまう。現実には、当時の江戸幕府も李氏朝鮮もともに国益を考えて始まったのが朝鮮通信使であった。
     江戸幕府には豊臣政権を廃して新しい体制を確立し、その権威を国際的に定着させ、新たな国際交易体制を整える必要があった。一方、李氏朝鮮側には壬辰倭乱の戦後処理(捕虜の帰国)をすすめるという理由とともに、北方の脅威(満州族の台頭)に備えるためには南方の脅威を取り除く必要があった。つまり、通信使を始めるのに明確な実利的理由があった。
     といって、その事実が「誠信外交」の価値を貶めることにはならない。興味深いことは、朝鮮通信使が始まる頃も、そして続いているときも、日本と朝鮮の双方につねに通底音のように「小中華主義」が流れていたことだ。それをなんとかしのぐことに日朝双方は知恵を絞り、とにもかくにも12回もの通信使の派遣・受入をこなしてきた。放置すればむくむくと膨れあがる文化優越主義に蓋をする役割を、「誠信」の二文字が果たしていたのである。
     その蓋がはずれたとき、明治日本は朝鮮進出に乗り出し、朝鮮併合へと突き進んでいった。本書が扱っているのは江戸期の話だが、いまにも生きる内容である。

  • 江戸時代、列島に海外の物産や情報をもたらしていた窓口の一つで、文化往来のみならず地域の安定に寄与していた朝鮮通信使について。文禄慶長の役の戦後処理を主目的とした通信使の登場から1811年まで全12回の通信使の来聘までを通し、日朝が互いをどのように認識・理解し、少なくとも外交上対等の相手として看做すようになったのかということが書かれている。
    ●寛永年間の柳川一件(対馬藩の国書改竄がばれた)後、それまで対馬が比較的好きにやってきた朝鮮との通商と外交を幕府がほぼ一元的に取り仕切るようになり、将軍の他称を「王君」に変え、国書を明年号ではなく日本の年号を用いるようになったこの時期が日本が華夷秩序から自立し日本を中心にした?中華?外交をしようとしたとし、その方向性は、林羅山のような知識人の伝統的な日本優越意識を押さえて(もちろん朝鮮も日本に対する伝統的な優越意識があった)、対等な関係を朝鮮との間で作りあげようとしたとしている。そうした観点から著者は通信使の歴史を整理していること。
    ●一方で朝鮮側は、あくまで華夷秩序内での同格としなければいけない立場だから根本的に日本と違うけれど、両国はそれなりに上手くやってきたこと。
    ●例えば朝鮮のように名分と上下の秩序を重視する国の筋からすると矛盾している、天皇と将軍家の身分関係についての解釈、将軍が国内では王ではなく「御所」と呼ばれていることなどについてどう理解すればいいのか、通信使たちが観察したり聞いたりしたことをもとに、ああでもないこうでもないと言いつつ、それなりに正しい理解に達し(「官位と職掌が相去ること千里」ではないかと疑問を投げる通信使に対し、朝鮮について造詣が深かった対馬の雨森芳洲は、説明したって分からないだろうから言わない、というような返答をしている。ちゃんと教えてあげる人はいなかったのだろうか)、かなり強引な新井白石の聘礼改革や柳川一件の始末など朝鮮側から見れば日本が少々規格外の行動をとった時でも事を荒立てないぐらい賢明だったことなどが分かる。

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著者プロフィール

1936年生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。京都造形大学客員教授。日朝・日韓関係史専攻。
著書:『朝鮮通信使と徳川幕府』、『朝鮮通信使と壬辰倭乱』、『朝鮮通信使をよみなおす――「鎖国史観」を越えて』、『朝鮮通信使の足跡――日朝関係史論』以上、明石書店。『朝鮮通信使――江戸日本の誠信外交』(岩波新書)、『大系 朝鮮通信使』(全8巻、辛基秀との共編、明石書店)ほか、多数。
京都国際交流賞、京都新聞学術文化賞受賞。

「2017年 『ユネスコ世界記憶遺産と朝鮮通信使』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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