グローバル・タックス: 国境を超える課税権力 (岩波新書 新赤版 1858)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (214ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004318583

作品紹介・あらすじ

所得税のフラット化、法人税率の引き下げ、タックス・ヘイブン利用による租税回避・・・。GAFAはじめ巨大多国籍企業が台頭する中、複雑化し、苛烈を極める「租税競争」。その巧妙な仕組みを解き明かし、対抗していくためにEU各国などの国際社会で模索が進む、旧来の国民国家税制と異なる新しい「課税主権」の在り方を展望する。

感想・レビュー・書評

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  • グローバル化とデジタル化により今起こっていることふまえ、租税民主主義実現に向けたグローバルタックスへの道筋を示す、示唆に富む本。後書きも泣ける。筆者の志の高さに敬意を表したい。

  • 簡単ななまとめ

    情報技術の進歩とタックスヘイブンの登場によって、企業の利益や高所得者の所得への課税が困難になり、その穴埋めとして消費税等、移動制の低い税金に財源が傾斜しているのが昨今の情勢である。

    グローバル企業は商標権など、妥当な金額で評価することの困難な無形資産を、租税回避地に所在する現地法人に低額で譲渡する。別の現地法人にはその無形資産の使用料を高額に設定してそれを費用に計上して、租税回避地ではない現地法人の税引前利益を少なくする手法をとる。

    租税回避の解決策として 3 つの案が提案された。わかりやすく解説されていたのだが忘れてしまった。

    また EU といった超国家的な統治機構がこの歪な状況の是正に一役買うことも期待されている。

    感想
    グローバル企業の租税回避的行動等によって、中低所得層が割を食っている現状を是正することは必要だろう。

    しかし GAFAM 等大手テクノロジー企業や VC は貯め込んだ豊富な資金によって有力スタートアップに多額の資金を供給し、科学技術の飛躍的な発展を成し遂げたことも事実である。それは行政の包括的な企業の支援より無駄が少なく、効率的に資金を投入することを可能にさせただろうと思う。

    また株主の利益の最大化を目指すことが使命である株式会社や、競争環境に置かれている会計事務所はそれぞれの目的を達成するため最良の手段を取るだろう。そして、現状、租税回避ができる環境である以上、それを利用するのは必然である。

    課税の強化を図る必要があるのは、累進性の喪失による中間層の生活苦から極右の台頭を許し、民主制そのもの危機が生じたことや、政府の役割を強化することによって一般的な経済学でよく用いられている、市場の失敗や独占への対処の強化が必要だからであろう。

  • タックスヘイブンとか国際課税について興味がある人向けの本。

    グローバルに事業を展開する主にデジタル分野の多国籍企業に対して現在の国際課税の制度が追いついていないことがよくわかった。

  • パナマ文書の公開依頼、GAFAを中心としたグローバル企業の露骨な税金対策が話題となり、その対策のために各国がGAFAへの課税方法を検討している。

    基本的にこうした企業は、無形資産(システムなど)をタックスヘイブンに安値で売却し、その無形資産が価値を生み出しているように見せることで、利益移転をしている。

    無形資産は固定資産などとは違い、正確な価値の算出が難しいため、この戦略に対する対策は現状ない。

    そうした状況下で、OECDを中心とした世界各国が個別課税ではなく、グローバルで共通に課税するスキームを検討している。

    元々課税権は国ごとに個別に規定されており、まさにこの課税権こそが国家権力の大きな部分であったが、新たな時代に対応するため、国家の枠組みを超えた超国家での課税が検討されている。

    こうした取り組みは連邦制のドイツ帝国でもかつて見られており、基本的に各国の反対に合うものの、第一次世界における敗北により、緊急事態に陥ったため一気に進んだ。

    今回のコロナパンデミックで同様の歩みが見られること、特にEUではその萌芽がみられるが、そこに期待である。

  • 多国籍企業が租税回避を行っていること、およびそのやり方については、日経新聞等から知ってはいたが、本書を読むとその実態がよく分かる。

    制度上可能であれば当然やるだろう。本書でも触れている通り、常に収益を上げなければならないし、収益に対する株主のプレッシャーもあるからだ。

    しかし税逃れは、税負担の公平性という観点からも決して許されることではない。そこで各国政府または政治経済同盟が、課税の仕組みを作る。それに対し多国籍企業がと、いたちごっこが続いているさまは興味深い。

    この問題を解決するための手段が、タイトルにもなっているグローバル・タックスである。しかし、各国の思惑もあり、うまくまとまっていない。

    それでも筆者は、課税権力のグローバル化が不可逆であると主張しているが、果たして。

  • 第1章 資本主義とともに変わりゆく税制
    はじめに
    1 グローバル化/デジタル化で問われる課税権力ーー本書の主題
    2 資本主義経済と政策課税
    3 問われるグローバル化への対応能力

    第2章 グローバル化と国民国家の相克
    1 グローバル化の税制へのインパクト
    2 「租税競争」の進展と税負担のシフト
    3 不公平性を強める税制

    第3章 立ちはだかる多国籍企業の壁
    1 タックス・ヘイブンへ持ち出される所得と富
    2 租税回避のメカニズム
    3 利益移転のカラクリ
    4 無形資産ーー租税回避という錬金術を可能にするもの
    5 どれほどの規模の租税回避が行われているのか
    6 租税回避を助け、国際協調を妨げる者

    第4章 デジタル課税の波
    1 グローバルに広がるデジタル課税の波
    2 なぜ国際課税ルールの見直しが必要なのか

    第5章 新たな国際課税ルールの模索
    1 新たな国際課税ルールは可能か
    2 OECDによる新しい国際課税ルールの提案
    【コラム】 税収効果を試算する

    第6章 ネットワーク型課税権力の誕生
    1 ネットワーク型課税権力とは何か
    2 多国籍企業課税ベースの共有化ーー「独立企業原則」から「定式配分法」へ
    3 歯止めとしての「グローバル最低税率」導入提案
    4 「課税権力の新しい形」をめぐる攻防

    第7章 ポスト・コロナの時代のグローバル・タックス
    1 新型コロナウイルス感染症がもたらした衝撃
    2 国境を越える課題とその財源調達ーーグローバル・タックスの理念と可能性
    3 EU財政同盟への途?

    終 章 租税民主主義を問う
    1 国境を超える課税権力
    2 歴史から将来を照射するーードイツの事例に学ぶ
    3 多国籍企業・国家・租税民主主義

  • 東2法経図・6F開架:B1/4-3/1858/K

  • 345.1||Mo

  • 20201204-1230 所得税のフラット化、法人税率の引き下げ、タックスヘイブン利用による租税回避など、現代の税制の抱える問題点を列挙しつつ、旧来の国民国家税制と異なる新し「課税主権」の在り方を展望している。具体的にはEU、国連などの従来の国家の枠組みを超えた国際機関による「グローバルタックス」の現状を紹介している。国際連帯税や金融取引税は自分が税制担当だったころに導入が取り沙汰されていたけど、現在は浸透しつつあるみたいだ。
    後、あとがきにあった志賀櫻氏がなくなっていたことを知り、ちょっとショック…よくレファレンスで利用させていただいたなあ。ご冥福をお祈りいたします。

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著者プロフィール

諸富 徹(もろとみ・とおる):1968年生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士課程修了。現在、京都大学大学院経済学研究科教授。専門は財政学・環境経済学。『グローバル・タックスーー国境を超える課税権力』(岩波新書)、『人口減少時代の都市』(中公新書)、『私たちはなぜ税金を納めるのか』(新潮選書)、『資本主義の新しい形 (シリーズ現代経済の展望)』(岩波書店)他著書多数。

「2024年 『税という社会の仕組み』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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