カクテル・パーティー (岩波現代文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006021894

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  • 「亀甲墓」
    沖縄内陸への艦砲射撃が激化したことを受け
    先祖代々の墓に避難してくる一家の話
    亀甲墓と呼ばれる形態のそれは、一種のトーチカ状であり
    胎内のようでもあった
    砲弾の雨の降る中、先祖の霊から守られている気分にひたって
    捨てることのできない日常感覚へのこだわりが
    やがて彼らの首を絞めてゆく

    「棒兵隊」
    避難民の中からなんとか
    動けそうな男ばかり集めて編成された「郷土防衛隊」
    しかし武器も食料も無く
    敵の銃弾をかいくぐってする水汲みぐらいしか仕事がない
    やがて正規兵たちの不安が、スパイ探しの名を借りた内ゲバに発展する
    心ある少尉の機転で防衛隊員たちは脱出するが
    すでに戦線の崩壊した沖縄で行くあてもない

    「ニライカナイの街」
    沖縄戦を生き延びた少女が、大人になって米兵と結ばれる
    籍を入れてもらえないことに不安を感じつつも
    何が嘘で何が本当かわからないご時勢じゃ、「いま」を信じるしかない
    そんな気分が沖縄闘牛に託されてゆく

    「カクテル・パーティー」
    娘が米兵にレイプされるという事件があり
    しかも、事後に犯人を崖から突き落として怪我をさせたため
    相手から告訴を受けることになる
    父は、逆の告訴を試みるべく
    語学仲間で弁護士の中国人に相談するが
    一度はあきらめて泣き寝入りするしかなかった
    というのは
    父の信じたリベラルの理想がおためごかしで
    ある種の誤解にすぎないと思い知らされたからである
    当時、米国人と沖縄人の関係は支配者と被支配者のそれであり
    本質的に平等ということはありえない
    その冷たい現実には、父のヒューマニズムが耐え切れなかったのだ
    しかしそのヒューマニズムも崩れたとき
    父は敢えて負け戦に臨む決意をする

    「戯曲 カクテル・パーティー」
    早い話が、レイプ被害者は
    セカンドレイプを恐れることなく人権のために戦わねばならない
    という話になるんだが
    要点がなんとなく曖昧にされている印象もある
    つうか問題は
    それが娘の意思ではなく、父親の意思だっていう部分なんだよな…

  • それぞれの言い分が正しく、そのために議論は平行していく。各人とも優秀な人々であり、この沖縄において政治的な対立を議論することは得策でないことを知っている。しかし、いざというときになれば政治が取り沙汰され、不毛な言い合いへと発展する。沖縄にとっての不幸とは、なんてことはぼくには断定できませんが、その根源が人同士の軋轢にあり、そのリアリティを彼らの歯が浮くようなパーティーに垣間見るような、感じです。

  • これも夏の竹富旅の際、石垣島の書店で購入。占領、沖縄、芥川賞、基地問題。

著者プロフィール

大城立裕(おおしろ・たつひろ)
1925年沖縄県中頭郡中城村生まれ。沖縄県立二中を卒業後、上海の東亜同文書院大学予科に入学。敗戦で大学閉鎖のため、学部中退。’47年琉球列島米穀生産土地開拓庁に就職。’48年野嵩(現普天間)高校教師に転職し文学と演劇の指導にあたる。’49年『老翁記』で小説デビュー。’59年『小説琉球処分』連載開始。’67年『カクテル・パーティー』で芥川賞受賞。『恩讐の日本』、『まぼろしの祖国』、『恋を売る家』など著作多数。また沖縄史料編集所所長、沖縄県立博物館長などを歴任。

「2015年 『対馬丸』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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