悪人

著者 :
  • 朝日新聞社
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感想 : 819
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  • Amazon.co.jp ・本 (420ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022502728

感想・レビュー・書評

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  • 吉田修一という作家は、うすっぺらーい文庫本の「パーク・ライフ」をちら見して、あまり好みじゃないな、という印象だった記憶があるだけでちゃんとは読んだことがなかった。
    でも、この本は少しは分厚かったし推理もの?だったので手に取ってみた。最初は正直、それだけの理由だった。

    最初は正直、なんだか読みにくいなぁという感想。
    なんだろう、まるで新聞の記事を読むように、地の文の説明が少ない。作家が映画でもとっているかのように、誰の立場にも立たない、全員からイーブンのスタンスで書いているというのか、誰に対する思い入れも感じられずに、すごく固くてしらじらした印象。

    かちかちになったトーストを噛むような印象で読み進む。
    ・・・あれ?
    そうして途中から急に、ストーリーが加速する。
    印象はあくまで深入りせずの等間隔なのに、自分もそれに慣れてきたのか、ページをめくる手がスムーズに。そうして止まらなくなる。

    最後の一行を読んだとき、ほうっとため息。
    主人公の立場にあえて踏み込まなかったのは、この一文を際立たせるための技巧だったのか?
    もしそうなら、この作家、コワイ。そうしてスゴイ。

  • ものすごくよかった!
    つらくて切ない。まさかこの作品で泣けるとは思っていなかった…。他の吉田修一作品も読んでみよう。

  • <あらすじ>
    幸せになりたかった。ただ、それだけを、願っていた。

    保険外交員の女が殺害された。捜査線上に浮かぶ男。
    彼と出会ったもう一人の女。加害者と被害者、それぞれの家族たち。群像劇は、逃亡激から純愛劇へ。
    なぜ、事件は起きたのか?なぜ、二人は逃げ続けるのか?
    そして、悪人とはいったい誰なのか?

    <感想>
    読み始めも、途中も、読み終わった今も「最高傑作!」と言い切れる力作。
    吉田修一氏、進化した。まさに真骨頂。
    会話部分を九州弁で書かれいるので文章が生きているようで温度がある。
    読んでいるうちに耳に会話が聞こえてくるようだ。
    「ランドマーク」と似た空気感だが、本作品は登場人物の皆に対して
    より深く描くことで、哀しい物語なのに本書には優しさと温かさが漂っている。
    しかし、けして感情的ではない。少し距離感を持って書かれている為より切なくて哀しくなる。
    本書の中ほど。祐一がファッションヘルスの女性に入れあげるシーン。
    そのくだりのなんて切ないことか。胸が詰まった。
    ある人には人生を壊され、恨んでも恨みきれずどんな謝罪をされても許せない「悪人」だけど、目線を変えると心からその「悪人」を愛する人もいるのだ。
    吉田氏の筆力を感じたのはサスペンスでありながら早い段階で犯人はわかるのに
    そこから最後まで読者の関心をそらすことなく最後まで読ませるところだろう。
    サスペンスなのに人間ドラマを描いている。サスペンスで泣けるのだから。

    この小説で言いたかったのはきっとこの部分なのではないだろうか。



    「大切な人がおるね?」
    「その人の幸せな様子を思うだけで、自分までうれしくなってくるような人たい」
    「おらん人が多すぎるよ」
    「今の世の中、大切な人もおらん人間が多すぎったい。大切な人がおらん人間は、何でもできると思い込む。自分は失うもんがなかっち、それで自分が強うなった気になっとる。失うものもなければ、欲しいものもない。だけんやろ、自分を余裕のある人間っち思い込んで、失ったり、欲しがったり一喜一憂する人間を、馬鹿にした目で眺めとる。そうじゃなかとよ。本当はそれじゃ駄目とよ。」


    この小説は吉田氏の現代社会へのひとつの提言でもあるのだろう。
    素晴らしい作品にRespect!

    • aida0723さん
      nagiさんのレビューをもっとよみたくなりました。
      nagiさんのレビューをもっとよみたくなりました。
      2015/10/27
  • 岐阜聖徳学園大学図書館OPACへ→
    http://carin.shotoku.ac.jp/scripts/mgwms32.dll?MGWLPN=CARIN&wlapp=CARIN&WEBOPAC=LINK&ID=BB00358921

    福岡市内に暮らす保険外交員の石橋佳乃が、出会い系サイトで知り合った土木作業員に殺害された。
    二人が本当に会いたかった相手は誰なのか?
    佐賀市内に双子の妹と暮らす馬込光代もまた、何もない平凡な生活から逃れるため、携帯サイトにアクセスする。
    そこで運命の相手と確信できる男に出会えた光代だったが、彼は殺人を(出版社HPより)

  • とても切ない気持ちになった。
    「悪」の意味を考えさせられる内容だった。

  • 「2008本屋大賞 4位」
    九州産業大学図書館 蔵書検索(OPAC)へ↓
    https://leaf.kyusan-u.ac.jp/opac/volume/633318

  • ある殺人事件にまつわる人々を並行しながら描く。「悪人」は誰か。各々の負の事情が重ね合わさった時一番表層に位置した人間が刑事事件犯人となるが、すなわちその人物が悪人といえるほど単純ではない・・・ということか。映画も見てみようかな。

  • 冒頭では祐一はぱっとしないうだつの上がらない男だな、とおもっていたけれどヘルス嬢とのエピソードあたりで、本当は一途な男なのかなぁと見方が変わっていった。
    つかみどころもなく、衝動的に行動にでてしまう部分もあり、善いところと悪いところの二面性があるところにひきこまれていった。
    光代との逃亡シーンは、ラストを迎えるのが儚く悲しかった。
    そして最後に光代の首を絞めたのは、「本当に愛していたのなら首なんて絞めない」と後で光代は振り返っていたけれど、そう自分を悪人に仕立て上げるところまでが祐一の計算だったのだろう。祐一が初めて本気で愛した女であったことに、間違いはないはず。
    光代と祐一の揺れ動く心にところどころ涙しそうになった。

  • 映画「悪人」はひきつけられる作品だったけど
    どうにもおさまりが悪かった。

    改めて原作を読んでみて思ったけど、
    この主人公祐一はほんとに「悪人」なのか?
    確かに罪もない女性を殺し、その後の逃亡生活も含め、
    脈絡のない行動は「弱さ」にあらがえない意思の弱い「悪人」そのものだ。

    だけど実の母に捨てられ、自分に自信を持てないままに
    先の見えない不安定な仕事を田舎で続けるしかない彼。
    そんな彼を決定的に傷つけたのがなんだったのか。
    そして罪を犯した彼の逃避行についていった光代の「動機」も
    救いがないながらもこの絶望的な物語の「ひかり」となる。

    原作のほうが面白かったかな?

  • 「大切な人はいるか?その人の幸せな様子を思うだけで、自分まで嬉しくなってくるような人はいるか?今の世の中大切な人もおらん人間が多すぎる。そういう人間は失うものがないから自分が強くなった気になり、何でもできると思い込む。失うものもなければ、欲しいものもない。だから自分を余裕のある人間と思い込み、失ったり欲しがったり一喜一憂する人間を馬鹿にする。そうじゃない。」
    ここの場面が、映画で見ても本で読んでもひどくつらかった。

    「どっちも被害者にはなれんたい」
    最近読んだ小説の中で最も心に残る衝撃的な発言。

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著者プロフィール

1968年長崎県生まれ。法政大学経営学部卒業。1997年『最後の息子』で「文學界新人賞」を受賞し、デビュー。2002年『パーク・ライフ』で「芥川賞」を受賞。07年『悪人』で「毎日出版文化賞」、10年『横道世之介』で「柴田錬三郎」、19年『国宝』で「芸術選奨文部科学大臣賞」「中央公論文芸賞」を受賞する。その他著書に、『パレード』『悪人』『さよなら渓谷』『路』『怒り』『森は知っている』『太陽は動かない』『湖の女たち』等がある。

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