優しい鬼

  • 朝日新聞出版
3.69
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本棚登録 : 273
感想 : 29
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022513137

作品紹介・あらすじ

南北戦争以前、横暴な夫のもとに騙されて来た女性が、二人の娘たちと暮らし始めると…。優しくて残酷で詩的で容赦ない長編小説。

感想・レビュー・書評

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  • 幼稚な語り口でありながら、それぞれの視点から描かれる残酷で美しい日々。毎回この本を開くと、深淵に引き摺り込まれるような恐さがある。傲慢な男、騙された妻、そして奴隷達それぞれの美しい語りが素晴らしい。

  • [メモ]
    語り手の過去と現在が交互に語られるような構成となっていて、そこから現実の中にも過去が張り付いている、過去は通り過ぎたものではなくて、今と交錯しているという印象を強く受けた。

    南北戦争や奴隷制などの時代的背景は物語の中で詳細な説明されることはなく、ちいさな楽園での出来事を、そこで生活するひとの目線で描いている。

    個人的に話の内容は重く苦しいと感じたが、それだけにはとどまらせないそれぞれの語り手たちの語りが幻想的で素敵だった。

  • 柴田元幸さんの訳と、タイトルに惹かれて読んでみた。
    冒頭から素朴で淡々とした文章で、すいすいと読むのだけれど、だんだん不穏な空気が漂ってきて、その展開の仕方に引っ張られて読み終わった。
    悲しく苦しく残酷な物語なのに、読み勧めてしまう物語だった。再会のシーンは言葉が少ないのがとても良かったと思う。

  • 最初の雰囲気から、こうなって行くんだと言う圧巻の作品。ラストに居たり、以前視た「カラーピープル」を思い出した。
    この作品、恐ろしいまでに感情を押し殺し、淡々と、事実を突き詰めて行く手法。
    残酷なシーンも寓話的に、擬人法を多用しているところが逆に寒気を感じさせる。

    選書する際「柴田さんの訳なら最高だ」とチョイスしてよかった。頭に残存する微熱がたまらない。いわゆる「文学」とは大きく異なり、骨組みが無い、ふわふわしていつつ、流れも掴めない。しかしひたひたと何かが起こり、収まって行くという本。

    邦題の「優しい鬼」=kind one
    よくつけたもんだと舌を巻く。
    アノニマスの「人」は本性むき出し・・それが故に無気味で真は冷たい・・んだと。

    善き神は私達を見下ろすとき、色なんか見ないと両親は言っていたわ」の言葉がこの作品のコンセプトか。

  • 文学

  • なんかこう……暗いな……

  • 何これ、すごい。
    と、読みながらずーっとビックリしてました。
    世界には、すごい作家がたくさんいるんだなぁ、と毎回思うことをまた思った作品。

    幻想的に描かれているのに、なんだかすごくリアリズム。
    人の記憶の持つ不思議な特性が生々しく再現されている。

    辛い思い出、苦しい記憶というのは、輪郭がボンヤリして、時間の前後も混沌として、後で振り返ろうとしたとき細部がよく分からないことって、実際あるよなぁ、と思う。
    そのボンヤリ具合、抜け落ち具合がすごくリアルで、読んでいると、まるで語り手が本当にそばにいて、少しずつ休み休み話しているのを聞いているような気がしてくる。
    自分の愚かさが原因で起こることは、思い出すのが苦しいから、特にあいまいになる。
    よくこんな作品書けるなぁ。人の罪を、こんなにも美しく。

    最初のうち、主人公が白人なのか黒人なのかも分からない。だから社会のどの階層の人なのかも正確に分からない。南北戦争より少し前の戦争で脚を失った、ってことは、たぶん白人? 「優しい鬼」って、誰のこと? いったい誰のことを指しているの? ねえ、あなたいったい何の話をしているの? と、頭の中をぐるぐる回る疑問。とにかく読むのがやめられない。

    作者がピンホールカメラで撮った、っていう写真もすごくいい。ピントがぼけていて、まるで登場人物の頭の中の風景を覗き込んでいるみたい。

    あとがきで言及されていた他の二作品、「インディアナ、インディアナ」と「ネバーホーム」も柴田さん訳で出ているなんて、くーっ、なんという幸せ。
    絶対読もうと思ってます!

  • 南北戦争以前のアメリカで、奴隷制度や教育の不足から倫理的には獣以下の暮らしを送る人々を、とある白人女性の視点で描いた、壮絶な寓話のような物語。作品の力は文句なしの星5つなのだけど、あまりの悲惨さにメンタルゲージが削られたぶんー1。

  • 次々と起こる残酷な出来事もただ過去の一ページとして、密やかに語られる。
    その言葉の余白にあるのは、後悔や恐れ、悲しみ、憎悪?

    時に小説はそこにある言葉以上に能弁になる。

  •  時系列と登場人物の相関に混乱、空をつかむような読後感。だったので、一気に2回読んじゃった。2回目で糸がほどけたようにスルスルと理解できた。理解できたら、なんという物語なんだと、ため息が出た。

     14歳で騙されるように「楽園」と呼ばれる農場に連れてこられたジニー・ランカスターは、ライナス・ランカスターと結婚し、2人の黒人の少女たちと4人での暮らしを始める。独裁的な夫は3人にとって加害者であり、ジニーは2人の少女たちにとって加害者であり、2人の少女たちはライナス、ジニーにとっての加害者となる。淡々と描かれる支配される側・支配する側がパタンと回転する様は不気味以外のなにものでもない。
     あとがきにて訳者はこう述べている。
    『支配する側・される側の両方に語らせることを通して、奴隷制の悪を「告発」するというような姿勢は作者にはない。といってむろん、奴隷制を肯定しているわけではまったくない。夫との関係においては被害者であり、奴隷との関係においては加害者であるジニーについて、被害者でもあったことによって加害者であったことが相殺されるわけでは決してない、とハントは強調している。』
     こういう図式は世界そのものにも当てはまるのかもしれない。ハントのように、静かで謙虚な目で世界を見つめたい。

     私は、私だけじゃなく多くの人は、言葉で正解を求めすぎるけれど、言葉になる前の何かをそのまま受け取ることだって尊い。ジニーの語りは拙いけれど、綺麗な言葉じゃないからこそ響くものがあった。

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著者プロフィール

一九六八年シンガポール生まれ。少年時代に祖母の住むインディアナの農場に移り、ここでの体験がのち小説執筆の大きなインスピレーションとなる。これまでに『インディアナ、インディアナ』『優しい鬼』『ネバーホーム』(以上、邦訳朝日新聞出版)、The Evening Road など長篇九冊を刊行。『ネバーホーム』は二〇一五年フランスで新設された、優れたアメリカ文学仏訳書に与えられるGrand Prix de Littérature Américaine第一回受賞作に。最新作Zorrie (2021)は全米図書賞最終候補となる。現在、ブラウン大学教授。

「2023年 『インディアナ、インディアナ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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