神樹

著者 :
  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (595ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022574282

作品紹介・あらすじ

中国山西省の山村で、樹齢数千年の「神樹」が突然開花した。神樹がよみがえらせた親、子、兄弟や八路軍の亡霊たちは、過去を再現し、語りはじめる。抗日村長を斬り殺した日本軍、神樹に守られた八路軍、土地改革で虐殺された地主、国家規模の"大躍進"・製鉄運動のために餓死し、あるいは生き延びた村人、文革時に失脚した村の書記、宗教結社弾圧に巻き込まれ処刑される娘…、神樹は歴史のすべてを見てきたのだ。開花の奇蹟に御利益を求め人々が押し寄せたため、共産党政府は危機感を覚え、迷信を根絶すると称し、神樹伐採に中央から戦車の大部隊を出動させる。神樹を守るため、村人は亡霊の八路軍に加勢し、戦車隊に立ち向うが…。

感想・レビュー・書評

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  • 中国の農村を舞台とした、驚異の物語。

    何百年来村のシンボルとして存在し続けた古木「神樹」。その神樹が初めて花を咲かせたその時から、過去と現在、夢と現、生者と死者が渾然とした、壮絶なる伝説が幕を開けた・・・。

    中国版マジックリアリズムの真髄と呼んでも差し支えなかろう。カルペンティエルやマルケスら南米のマジックリアリズムは自然現象自体に驚異的な現実を多く見出しているのに対し、こちらは政治・社会現象に驚異的な現実が多く見出されている。この小説を読んだ最大の感想は、この小説は中国人にしか書き得ないものだということ。マジックリアリズムの影響を大いに受けつつも、中国伝来の小説文化が脈々と受け継がれているように思える。中国の小説でしか感じられない熱気が流れている。

    中国の歴史は、いつの時代も農民こそが主役であると再認識した。

  • 三十二回目の六月四日が巡ってきた。
    香港では追悼集会が禁止され、六四記念館が閉鎖された。
    ならば、「ひとりでも六四」ということで本書を手に取った。
    僕の中では、石牟礼道子の『苦海浄土』が水俣病の記憶遺産であるように、この本が天安門事件の記憶遺産だ。/


    一天にわかに掻き曇り、現れましたるかの「神樹」。
    「神樹」、「神樹」と一口に云っても、
    そんじょそこらの「神樹」とは、ちと「神樹」が違う。
    幹に登って葉叢に潜めば、日本軍さえ手が出ない。
    「神樹」の落ち葉を拾って炊けば、煙の中から現れ出ずるは、過去の幻影、魑魅魍魎。
    荒蕩無毛、全姦近艶、淫色厳金、もろびとこぞりて劣情発情。
    抗日、建国、土地改革、大躍進に大飢饉、文革、六四、「神樹」暴乱。
    大中国の光も闇も、総て観せます乾坤一擲、こんな文学何処にある!


    《『神樹』よ、ありがとう。一年半もの間、私は太平洋の彼方にある祖国で暮らし、わが太行山の長老や村の衆のあいたで暮らせたのだ。》(鄭義)/


    鄭義は、もう書くのをやめただろうか?
    アメリカでの暮らしは、彼の抵抗を風化させただろうか?
    2011年に公開された翰光監督のドキュメンタリー映画『亡命』では、作家兼主夫業にいそしむ鄭義の元気な姿を垣間見ることができたが……/


    僕には一つの懸念がある。
    中国からの亡命作家の小説の翻訳出版が、この所ずっと等閑視されているように思えて仕方がないのだ。
    天安門事件後、93年にアメリカに亡命した鄭義(47年生)の作品は、99年に本書が刊行されて以来出版されていない。
    2000年にノーベル文学賞を受賞した高 行健(1940年生、90年にフランスに亡命)の本でさえ、『霊山』(03年)、『母』(05年)以来出ていない。
    最後の作品が出てから、鄭義で22年、高 行健で16年が経過している。
    現在、鄭義は74歳、高 行健は81歳になるが、国を捨ててまで自由を選んだ彼らが、いくら母国語の読者が激減したからといって、簡単に筆を折ったとは到底思えない。
    どうしても、僕はそこに、彼らを生きたまま葬ってしまおうという超大国の意思を感じてしまうのだ。
    おそらく、彼ら亡命者の作品を世に出すには、翻訳者にも、出版社にも相当なプレッシャーがかかるだろう。
    だが、彼らにしか伝えられない言葉がきっとある。
    英語やフランス語からの重訳という方法もあるかも知れないし、インディペンデントの出版社から出すという方法もあるかも知れない。
    いずれにしろ、絶対にしてはならないことは、彼らの声を圧殺しようとする者の言いなりになることではないだろうか?
    それとも、もはや彼らの声に耳を傾けようとする者は、僕の様な変人しかいなくなってしまったのだろうか?

  • (後で書きます)

  • 樹齢千年を超える大木を祀る村「神樹村」の、趙、石、李、それぞれの一族3代をめぐる物語。というと歴史大河小説のようだが、一筋縄ではない小説。
    神樹が何百年ぶりに咲かせた花の霊力により、死者を蘇らせるあたりから、過去と現在が入り乱れ、物語は好き放題に蛇行し始める。この蛇行が、慣れてくると癖になる面白さ。
    また登場人物も500頁を超える紙数の割には多くないのに、それぞれの相関関係は複雑であり(系図は冒頭に掲げられている)、深みがある。

    中国という舞台は、作者もあとがきで述べるように、起こらないことが無い驚異の世界。それを魔術的リアリズムとして捉えて愉しむという読み方は、長閑な解釈のようである。むしろ現実の過酷さの発露という見方、あるいは民族の業のようなものを訴えた結果、たまたまそれが魔術的に見えてしまう、そんな読まれ方を望んでいるようだ。

    中国という国家・文化の測れなさ、途方もなさに触れることができて満足。良書。

  • 久しぶりに読むのが苦痛な本に出会った。
    結末は知りたい。でも、読んでても気分悪い。
    人生2度目。出来れば3度目は無いほうがいい。

  • 樹齢四千年の巨木が鮮やかな幻想をふりそそぎながら開花して死者が蘇り、過去と現在を交錯しつつ抗日戦争から現代に至る大河物語の扉が開かれる。神樹にいだかれた土地で営まれる欲情と死が神話に次々と飲み込まれるさまが、幾重にも重なった豊穣なイメージの波となって怒濤のごとく降り掛かって息苦しい程の読後感。

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