しろいろの街の、その骨の体温の (朝日文庫)

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  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022647849

感想・レビュー・書評

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  • ユカが母親にかけられた言葉。「あんたくらいの子は、じぶんのことを世界で一番醜いと思っているか、可愛いと思ってるか、どっちかなんだから。白雪姫の魔法の鏡が故障してるようなもんなのよ。大人になったらね…。」

    中学生
    『クラスカースト』
    クラスで下から2番目の「大人しい女子」のグループのユカ。「第二次性徴が途中で止まってしまった醜い身体。伊達眼鏡で隠す醜い顔。」そんなふうに自分の容姿にもの凄いコンプレックスを持っているユカ。

    「こんな見た目の私にコントロールできないほどの恋愛が宿っていることが、皆にとってどれほど笑える冗談だろう」

    「ちゃんと自分の点数を理解して、分相応の振る舞いをしていようと思った。教室の隅で、自尊心をなんとか守りながら、なるべくひっそりと暮らすこと。」それが自分を守る唯一の手段だと知っていた。」

    小学生4年生から中学生3年生までのユカの、心と身体の成長。ユカの住むニュータウンの成長と重ねながら描かれている。
    ✍︎┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

    《上のグループ》を心の中で見下したり、自分より《下のグループ》のあの子に、誰も見られていないところで話しかけて安心したり。
    あのころの私達はとても無邪気でとても残酷だったな。

    《上のグループ》の中心でいつもわらっている伊吹。
    教室の優劣があることをわかっていない幸福な鈍感さ、まっすぐさ。”幸せさん”。伊吹の黄色いTシャツ。オレンジ色のパーカー。ユカが伊吹に対してキラキラしたものを見ている様子がわかる伊吹の描写。

    夜の闇の中でしか 伊吹に話しかけることも触れることもできないユカ。

    クラスカーストという呪いで縛られているユカと、クラスカーストの存在すら気づかない素直さの伊吹。思春期の中で 変化する2人の心とカラダの関係。

    読んでいる間 呼吸が浅くなるような、胸がヒリヒリするような、そんな感じだった。



  • 思春期の息苦しさが巧みに表現された作品。後半は一気読みで、気が付いたら…涙が一筋流れていた。

    最近は教科センター型(教科毎に教室を移動)の中学もあるようだが、残酷なまでに教室を支配する価値観に縛られる女子たちが痛ましい。

    ・身分制度の外側に突き落とされていた私は、まだその渦中にいる若葉ちゃんを見ると、ちょっとほっとした。
    ・もうこれ以上落ちることはない、ということは不思議と私を安心させた。私は、いつの間にか呪縛の外にいた。教室を支配する価値観に見捨てられ、初めて、それから解放されたのだった。
    ・白い世界は光の水できていて、触ると波紋になって広がっていく、白い光の世界で、私は世界に少しずつ触れて、自分が作った水紋を見つめる作業に熱中しはじめていた。それが楽しいのは、今まで自分が一度もその水紋を見たことがないからかもしれなかった。

    自分の居場所に執着していた結佳が、白い世界に自分から触れていく、そして、真新しい駅のベンチで伊吹を待つ。この頃には、すっかり応援団になっていた(笑)。伊吹はいいやつだぁ。

  • 「しろいろの街の、その骨の体温の」
    村田沙耶香(著)

    2019 9/20 朝日新聞出版

    2020 1/20 読了

    村田沙耶香強化月間の最後に選んだのが
    この本。

    そして最高に素晴らしい作品でした。

    逃げ場の無い環境の中で闘い
    のたうち回りながら成長していく女子の物語。

    ぼくら男子は、ぼさーっとただ生きていたのが申し訳ないくらい

    女子はいろんなモノを抱えて生きているんだねー…

    本作も村田沙耶香は
    血を流しながら成長する女子を全力で応援していました。

    こうして今回「村田沙耶香強化月間」と称して
    集中して読ませていただきましたが

    いろんな意味で大変、勉強になりました。

    第26回三島由紀夫賞、第1回フラウ文芸賞受賞作品。

    単行本が欲しくてAmazonを見ると定価より高いとか嬉しいような悔しいような思いで

    ポチり。

  • ニュータウンに住まう主人公・結佳。彼女の小学生時代と中学生時代の二部構成の物語。ニュータウンの開発とその停滞、そしてまた開発が進んでいく様と、結佳の身体と心の成長のその様子が、静かにリンクして描かれていたりします。

    黒子に徹しているような文体。静かにそうっと丁寧に、物語を文字にして記していったかのようです。著者は、水槽の中に登場人物や舞台となるところがあって、そこで起こることを眺めて書き移しているというようなことをテレビでおっしゃっていたのを見たことがあります。水槽というか、箱庭みたいな感じなのでしょうか。著者は小説世界が動いている水槽(あるいは箱庭)の中をかなり引いたところから見ていて、自分がわずかにであっても影響を与えないように、息をするかすかな音さえもたてないように気配を消し、集中している感じがしました。自身が思い浮かべた世界の動きではあっても、私情をいれず書き写している感じなのかもしれません。あるいは、自分という文章を書ける存在を物語に捧げているかのような書き方なのかもしれません。そんな気がしてくる、まずは第一部でした。

    結佳は、若葉というおしゃれな女子と、元気だけれど少し子供っぽい信子という女子と、三人でよく遊んでいました。同じ習字教室に通う伊吹という男子への未熟な欲望に端を発する秘密の関係もそこで芽生えていきます。

    第二部に入ると、生々しいスクールカーストの現場が繰り広げられる。結佳、若葉、信子の関係性も変わっている。そして著者の、その現場のエッセンスを、紙へと文章でトレースする技術がベラボーに高いのでした。

    第二部に入って、ひりついた感じがするというか、スクールカーストの現場を想像することで胃が重くなりそうな感じがするというか。やっぱり生々しさが堪えるようなところがあります。僕個人の過去過ごした中学や高校のことが不意に想起されたりしますし、この作品を読むことで、10代の曖昧だった部分を清算することになるかもしれない、という予感もありました。

    性的な目覚めによってできた、性的な優劣による階級(でもその優劣はとても狭義で恣意的でいい加減なものです)。教室のなか、学年の中、学校の中などのくだらなくてあやふや価値観が絶対化されてしまって、息苦しさを生んでいる。そうやってできた既得権益にしがみつき、大人になっても同じ力関係を保持するのが当たり前だと考えているたとえば地方都市の住人は多いと思います。僕の住む町でも、そういった話を聞いたりしますから。

    そういったどうでもいい価値観すら秩序として守ろうとしてしまう保守性。自分を守るために、窮屈な世界に閉じた状態で我慢してしまっています。この小説では、そういった、性的な目覚めによってできあがったような階級が、その恋愛感情という性的な気持ちがどんどん高まっていくことで、そのあと崩されていくのかどうかが、ひとつの大きな読みどころです。

    物語の中盤から終盤にかけて、物語が、そして主人公の在り方が揺るがされていきます。進退が極まる局面へと、追いつめられていく。そしてその結果、
    __________

    身分制度の外側に突き落とされた私(p276)
    __________

    となってしまう。誰からも距離を置かれる存在に落とされてしまう。読んでいくと、カーストの底辺よりも価値が低いようなポジションです。

    教室の身分制度自体が、きわめて恣意的で、めちゃくちゃな価値観でできあがっている身分制度です(僕もかつて、そういったものから排除されたことを思い出します。また、僕の自作小説『ラン・ベイビー・ラン』に出てくる中学生が、ハッと気づきそうになる価値観の転換にひるむ場面があるのですが、この作品の終盤間際にちらっと主人公が気づくあらたな、そしてほんとうの価値観と同じもので、そこにはなんだか共感を持ったのでした)。

    階級の底辺にいる信子は、一番わたしを見下しているのは結佳ちゃんだよ、と言う。主人公がいちばん冷静に、客観的に、その階級をそのままのものと確定させて眺めている。階級上位の男子である井上や荒木は、主人公よりも階級意識について考えが浅いぶん、強固な教室の価値観に流されて信子ら階級の低い者たちをからかったり、いじめたりしている部分があるのかもしれない。しかし、結佳は、価値観の有り様をしっかり見据えて見破ってすらいるのに、それに自分の意志で従っている。考えが深い分、下の階級を下の階級と固定してみることへの意識は強いのかもしれない。

    著者の村田さんはグッジョブだと心が温かくなりました。たぶん、切り傷や打撃痕を負いながら、それでもこの閉じた世界観というか、大勢の人々の記憶に刷り込まれているであろう閉じた世界に、単身切り進んで世の中に開いてくれたような仕事が本書だと思います。

    また、こういう作品を書くと、自分自身が自分自身に立ちはだかる敵になったりもしているんじゃないでしょうか。負った傷痕は、自分が敵となって自らを攻撃したものも多数ある感じなのではないのか。聖人君子じゃなければそうなるし、聖人君子ならばこういう作品は書けまい。

    僕の、カーストから外れたケースは、学祭の演劇の役を一方的に押し付けられたので、セリフを覚えずにステージに立つということをしたんです。もちろん劇はめちゃめちゃで、それから階級の外に落とされたような状態に。まあ、教室では文庫本を読み、放課後は部活で汗を流し、という日々でした。かといって本書みたいにはっきりとした状態ではなく、もっとずっと曖昧なものでしたけどね。

    終盤、身分制度の外に落とされた結佳は、きもい、嫌い、などと言われたいと欲します。なぜなのかといえば、自分が大嫌いな自分自身と決別するためには、自分ひとりの力では足りなかったがためだと思えるのです。好きな人、嫌いな人、誰彼構わず、自分を否定する言葉を欲し、飲み込む。そうして、結佳はそれまでの自分と決別し新たな価値観を持つ自分へと再生した。

    そこには、性の欲求に押し出されるようにして、自分という個性ある身体性が発見され、大人の身体へと変化した自分の存在のリアルな感覚を不意に掴んだ経験が、大きな後押しになっていたと思う。たまたまそうなったのかと読めなくないですが、おそらくこれは性欲の根源的なエネルギーが強くなっていくことの必然なんだと僕は捉えました。性欲という根源的で強大な力の増大が、性欲の初期の段階である未熟な成長のスタート期に由来していてその段階で固まってしまったかのような身分制度とその価値観を打ち破る。

    ラストの部分。結佳と伊吹が結ばれるところ。その結ばれ方が、中学二年生の終わりのまだまだ子どもたちのやり方なのに、とても正当で本当で素直なところに、この物語が宿す大きなカタルシスがあるように思いました。コントロールが難しく、あらぬ方向へと暴れ出して行きがちな性欲を、きちんと開放する道筋、それも自然なかたちでの道筋が照らされ、その道程は開かれていて読者はともに歩んでいくことができる。そこのところは、頭でもわかるし腑に落ちもする感覚で描写されているのでした。

    もう一度いいますが、著者はグッジョブです。これまでで村田沙耶香さんの作品に触れたことがあるのは『コンビニ人間』のみでした。僕の読解力では、一作だけで作家を立体的にとらえることは無理で、そのことを本書を読んでよくわかりました。情けない話ですが、『コンビニ人間』だけでは、村田沙耶香という人の指先くらいしかわかっていなかったかも、なんて思うくらいです。

    そういった、作家の人となりみたいなところを知りたいか知りたくないかを別としても、つまりそういうところを抜きにしても、本書はしっかりとしたパワーを持った作品でした。しっかり自分を生きたい人には読んで欲しいと、つよくつよくおすすめしたい作品でした。

  • 小中学生のスクールカーストと、「胸に巣食った発情を処理できずに、体の中に初恋という化け物を育てていく」ような痛々しい恋心が、息苦しいほどの解像度で書かれている。
    教室を、「見下す側と、見下される側」に分かれていると思う結佳に対して、「幸せさん」の伊吹は、「自分からちゃんと楽しんでる奴と、何もしない奴」に分かれていると感じている。この感覚の差が、見事にカーストの上下を表していると思った。

    「上」の子も「下」の子も本当にリアルで、それだけでもすごいが、この物語は更に一歩上を行く。ラストで、教室内の差別の乗り越え方も示しているのだ。
    結佳は、「教室を支配するそれではない、私自身の価値観」で「世界に触れ」、「波紋」を広げることで、自分自身、そして自分を取り巻く世界と向き合い始める。
    その結果、由佳は伊吹から「嫌いだ」と逆告白をされるが、それをきっかけに、2人の距離は形だけでなく縮まる。

    外部の声や雰囲気に流されず、まずは自分自身の感性で周りを見て、発信する。
    このまっすぐなやり方を、私はできているのだろうか。出来合いの言葉や、なんとなくの空気に、安易に身を任せてしまっていないだろうか。
    考えさせられ、揺さぶられた。

  •  スクールカーストと呼ばれる中での息苦しい状況。しかしそれを変えようとするのではなく、自分の居場所、プライドを保つことに躍起になる。いやな気持ちは表面に出さないようにして、言いたいことは心の中にしまわれる。「言葉は色鉛筆に似ている。好きな色鉛筆を取り出して塗り上げていってよかったのだ。」「しろいろの街」を嫌っていた主人公は「まっすぐに戦う」信子ちゃんを「白い街で、一番綺麗だ。」と言う。伊吹との関係からも、ありのままの自分の価値観を肯定しようと決意できたということかな。

  • 村田沙耶香さんの作品を読むといつも自分の嫌な部分を晒されているような気分になる。その感覚がクセになり何とも魅力を感じる。

    本作も思春期の女の子の話でありながら、それに留まらず男性が読んでも共感できるドロドロした感情に満ち溢れていると思う。こうした拗らせ感は男性女性に関わらず存在するものなのか、自分自身が女性的なのか…

    またこういった内容を殊更に強調するような汚い言葉がよく出てくるが、綺麗な文章の中で語られるので何とも奇妙な品がある。

    ・この街は、驚くほど従順に、夜に飲み込まれていく。

    とかはとても詩的だし

    ・信子ちゃんの顔を見ていると、点数の悪い答案を見せ合いっこしているみたいで、なんだか落ち着いた。

    は言ってることは酷いが何だかユーモラス。
    こういった言葉選びのセンスが非常に心地良くこの人らしさを感じる。

    この作品に関しては最後はっちゃけることもなく、きっちりと締められていくことも良かった。伊吹くんというブレない清涼感の存在のおかげで主人公のズレ感をところどころで客観的に認識できる事が作品全体を読みやすいものにしているのかもしれない。

    村田沙耶香ワールドを堪能できる素敵な作品でした。

  • 圧倒的な筆力でぐいぐいと読ませる。

    主人公が女だからこそ、ぎりぎり成り立つエロティシズムだと思う。
    男女が逆転したら、ただのセクハラ小説になってしまうが、逆転することでアートになっているような。

    そんなぶっ飛んだ設定でいて、「結構かっこいい男子が、イケていない主人公を一途に好きでいてくれる」という、ある意味ベタな少女漫画のような設定が背骨になっているところが、物語を成り立たせているのだなと思いました。

    女子のめんどくさいドロドロした世界。それに対する男子のあっけらかんとした呑気さ。このリアリティ、世界観がとても迫力あり。

  • 小学校高学年から中学時代までのスクールカーストに巻き込まれながら、人を見る主人公の目線から見たストーリー。

    もう気持ちがわかりすぎる。
    すごくすごくわかる。
    好きだけれど嫌いで、自分を鏡で見るのがこれでもかというくらい嫌いだったあの頃。

    大嫌いだったスクールカースト。
    けど、大人になった今も社会はカースト制度に縛られ続けてる。
    読んでて苦しくて、息が辛くて、でもすごくすごくわかる。

    村田沙耶香さんの作品は本当暗いし、毒針みたいに身体に突き刺さる。
    その文章が全身に毒のように広がる感覚が、気持ち悪いようで気持ち良くて。
    すごくすごく不思議な感覚。

  • 視覚、とくに色彩と、触覚、しかも体内の感覚に
    秀でた文章がちりばめられた作品。
    旺盛にその範囲を広げるニュータウン建設と、
    成長期の少女との対比が見事。
    そしてある意味、この上なくエロティックである。

    ストーリーらしいストーリーは、あまり無い。
    言葉にできない恋という病、
    少年少女達の残酷な正義と政治、
    その中で揉まれながら、必死に自分の「居場所」を探る
    少女の心象を描き続けていく。

    好き嫌い、見た目の美醜、ヒエラルキーの上下。
    人は皆誰かと、何かと対比をすることでしか
    自分の座標を定めることができない。

    既存の価値観の枠から「外れよう」とすること自体が、
    既存の価値観に縛られているからこそ、という現実を、
    作者は容赦なく突きつけてくる。

    だが作者の視線は、冷徹な傍観者では無く、
    慈愛に満ちている、と感じられるのは何故だろう。
    作者が自らを慰撫するような、くすぐったい愛。
    最初から最後まで、そんなものが通底している気が。

    最後の展開は、果たしてハッピーエンドなのだろうか。
    いや、勝手にエンディングと思い込むのも失礼か。
    矢沢や伊吹の日常は、これからも続いていくのだから。

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著者プロフィール

村田沙耶香(むらた・さやか)
1979年千葉県生れ。玉川大学文学部卒業。2003年『授乳』で群像新人文学賞(小説部門・優秀作)を受賞しデビュー。09年『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、13年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島由紀夫賞、16年「コンビニ人間」で芥川賞を受賞。その他の作品に『殺人出産』、『消滅世界』、『地球星人』、『丸の内魔法少女ミラクリーナ』などがある。

「2021年 『変半身(かわりみ)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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