タックスヘイブンの闇 世界の富は盗まれている!

  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784023310025

作品紹介・あらすじ

タックスヘイブン(租税回避地)が、犯罪の世界と金融エリートたちを、外交・情報機関と多国籍企業をつないでいる。紛争を促進し、金融の不安定を生み出し、大物たちに莫大な報酬をもたらしている。それは、まさに世界を支配する権力の縮図なのだ。

感想・レビュー・書評

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  • こんな世界があったのかと驚く、ノンフィクションを読む醍醐味が味わえる本。

    タックスヘイブンというと犯罪絡みのカネがケイマンなどで回されるという、経済全体からすると「例外」だと思っていたが、実は、世界経済全体に大きな影響がありそうな存在だということだ。

    東京をロンドンや香港と同じような、金融都市にしようというアイデアがある。この20年間、世界は金融業で稼ぐ時代になっているので、日本もその流れに乗るべきだ。単純にそう思っていたが、それは、ロンドンと同じように、税金を払わなくて済む秘密法域を生み出すことと紙一重の話なのかもしれない。それでも、乗った方がいいように思うが、その副作用を考えておかなければならないということだろう。

    また、仕事に絡めた話では、移転価格税制を使っての「節税」は、単純に「善」と思っていたが、それが各国の税収を下げて、結局、住み心地の悪い社会環境につながっているのではないかという指摘には、はっとさせられる。以前のCEOが「利益をあげなければならない理由は、事業の成長のため、従業員に報いるため、そして、お国に税金を納めるため」と言っていたが、この本を読んで改めて思うのは、「税金を納める」のは、義務ではなく、意志の問題だということだ。

    いずれにせよ、本当に金儲けしようと思ったら、こういう手段を使わない手はないんだなと、これまた改めて思った次第。世界は広くて面白い。

  • とりたてた産業を持っていないイギリスが、何故これほどまでにグローバルマーケットで力を持っているのかがようやく理解できました。
    その理由は、ロンドン中心部のたった二キロ平方メートルに位置する「シティ・オブ・ロンドン」を中心とした世界に広がるタックスヘイブンネットワークにあります。
    シティでは企業に投票権が与えれれており、それは住民の9,000票をはるかに上回る23,000票であり、しかも従業員の意思を考慮に入れる必要がないことが法律で決められています。
    シティは金融企業によって運営されている世界最古の自治都市なのです。
    グローバル企業の有価証券報告書(M銀行とか、Sバンクとか)をみてみると、非課税である「英国領ケイマン諸島」に所在する関連会社がいくつも存在していることが分かります。これらが、「シティ・オブ・ロンドン」の収入源になっているのです。

  • 言うまでもなく、タックスヘイブンは租税回避地のこと。この耳慣れない言葉も、オリンパスやAIJの事件で有名になってしまった。
    そんなタイミングでこの本を読んだのだが、世界の経済の仕組みがよくわかるというか、驚くべき内容が書かれている。かなり長い本で、詳細が記されているので、かなり経済通でなければ読みこなせないかもしれない。しかし、話題になったケイマン諸島がどういう場所なのか。ここをイギリスはどのように使っているのか。このあたりの仕組みはなんとなくわかる。
    第一次大戦中に欧州におけるエリートたちの秘密預金をあづかったスイスの話は有名だが、今はロンドンとニューヨーク・マンハッタンを中心とするグループが企業の資金を集めている。結局、企業存続のためには必要な存在であり、その陰で一部の富裕層を除いた人たちの富が盗まれているという悪循環があることがわかる。我々もこの中にいるということがやりきれない。

  • タックスヘイブンは現代資本主義におけるクラインの壺かつパンドラの箱のような存在。

    規制で徹底的に潰すと金融システムにどのような影響が出るのか。果たして代替システムを構築できるのか…
    規制と監視を厳しくしつつ、必要悪として存続させるしか、現在の資本主義体制を維持させることは不可能なのだろう。

  • パナマ文書という言葉が世を席巻する前ぐらいに買ったと思う。
    2回読んだけど、なかなか理解は難しい。
    が、また読んでみたくなる。

  • 【由来】


    【期待したもの】


    【要約】


    【ノート】

  • ユーロドル市場の意味が目からウロコのようにようやくわかった。シティがなぜ今も金融の中心なのか、ケイマン諸島という言葉だけしか知らなかったオフショアの世界が、歴史や背景を知ることで実感できるようになった。

  • 歴史の嘘がまかり通るのはカネの流れを明かしていないためだ。人類の歴史は「戦争の歴史」といってよいが、戦争にはカネが掛かる。武器を購入し人を集めるには融資を必要とする。その負債の流れを辿らなければ歴史の真相は見えてこない。
    https://sessendo.blogspot.jp/2016/07/blog-post.html

  • 世界の貿易取引の半分以上が、少なくとも書類上はタックスヘイブンを経由している。全ての銀行資産の半分以上、多国籍企業の海外直接投資の1/3もオフショア経由だ。タックスヘイブンと言うとケイマン諸島のような産業のない島国が思い浮かぶ。本書の原題はTreasure Islands、宝島だ。しかし現代の宝島があるのは意外な場所だった。

    税率が低いと言うことだけがタックスヘイブンの要件ではない。むしろ法人の設立が容易で「誰が」その法人の実質的な持ち主なのかわからない守秘法域であることが金を呼び寄せている。世界の守秘法域で中心的な役割を果たすのは3つの地域で1つめはスイスに代表されるヨーロッパ、2番目はシティ・オブ・ロンドンと大英帝国につながるネットワーク、3番目がアメリカでそれ以外の地域はあまり重要ではない。多国籍企業はタックスヘイブンに利益を落とし、租税条約にもよるがタックスヘイブンの低い税率を払った後で配当金を送れば企業にとっては合理的で合法的な税金対策になり、配当に課税されるとしても少なくとも送金しなければ税金の繰り延べ=政府からの借金と同じ効果を持つ。銀行もオフショアを利用して準備金規定や他の規制を回避し借り入れを増やし信用を拡大した。オフショアからの借り入れと利息の支払いがプライベート・エクイティのビジネスモデルの根幹になっている。コスト(利息)はオンショアで課税所得から控除し、利益は税金のかからないオフショアにおちる。

    スイスは大戦中英米の反対をよそにナチス・ドイツとの取引を続けた。戦争資金を貸し付けるだけでなく、アウシュビッツで殺されたユダヤ人やロマから略奪した金塊を保管し秘密を守った。1938年エステル・サピールと言う女性が収容所内で亡くなった父親の預け入れ伝票を持ってクレディ・スイスに行った際に言われたセリフがこうだ。「お父上の死亡証明書を見せてください」。サピールが遺産を手に入れたのは98年だ。スイスは依然としてアングラマネーの世界最大の保管場所の一つであり2007年には3兆ドルを受け入れたがヨーロッパからの資金の80%が申告されていない金だ。

    第二次世界大戦終了時に7億人以上の外国人を支配していた大英帝国の領土は1965年にはわずか500万人に縮小していた。経済の中心はアメリカに移るが57年の時点ではポンドは世界の貿易の40%を占めていた。イングランド銀行の外国為替部門の責任者ジョージ・ボルトンがやったことは傍目にはわかりにくい。55年頃からミッドランド銀行(現HSBC)が為替管理令に違反する米ドル預金を受け入れていた。政府が銀行に対してポンド建て国債融資に制限をかけられるように規制をかけた際、銀行は単に融資をドルに切り替え、そしてイングランド銀行は規制をせずなおかつ他国からの規制も防いだ。これがユーロ市場というオフショアの誕生だ。1986年の金融ビッグバンはこのビッガーバンの付け足しだというほどだ。そして大英帝国が崩壊した後に残った海外領土は守秘法域としてシティのネットワークにつばがり、金融帝国がひっそりと生残った。

    アメリカの銀行は2005年まで海外の犯罪資金を自由に受け入れることが出来た。マイアミは中南米向けのスイスだった。アメリカは従来貸し出し金利を厳しく規制していたのだが78年に新しい時代が始まる。州ごとに決められた上限金利に関して税率18%のネブラスカの銀行が12%のミネソタ州の住民に貸し出す、つまり金利を輸出することが合法だと裁定がおりたのだ。つまり一つの州が上限金利規定を廃止すればそれは事実上全米に波及することになる。これに眼を付けたのがデラウェア州知事のピート・デュポン、80年に再選されたデュポンはデラウェア記入センター開発法に署名し(レーガンの大統領選の争点にはならずデラウェアの民主党も協力した)クレジットカードやローンの上限金利は撤廃され、住宅差し押さえの権利を手に入れた。事務所はオフショアの守秘法域に守られさらには逆進的な税制度も受けられる。アメリカの公開企業の半数以上、フォーチュン500企業の2/3がこの州で登記されている。つまりデラウェアの州法に従って社内のしくみが作られ得ていると言うことだ。アメリカで2番目に小さな州のデラウェアは1899年の時点でデュポン一族の圧力を受け寛容なビジネス規定を制定している。

    自由貿易に賛成しながら資金の自由な移動には規制が必要だと考えていたのがケインズだ。アメリカがお膳立てしたブレントウッズ会議でケインズはIMFと世界銀行を自分の望む姿ーグローバルな金融不均衡を自動的に是正するしくみを監督し、政治(アメリカ)の介入を排除するーには出来なかった。会議では国際記入から高利貸しを追い出すことには成功し、国境を越えた資本の移動への規制は70年代までは守られた。1940年から70年まで途上国での金融危機は一度もなく、16回の通貨危機に見舞われただけだった。73年以降では金融危機は17回、通貨危機は57回におよぶ。アメリカの平均的な労働者の賃金はインフレ率を補正すると2006年には70年より低くなっており CEOの年収は30倍から300倍に跳ね上がった。金融の自由化が経済成長を支えたという証明は出来ていない。資金逃避はOECDではなく実際には発展途上国で起こり、ODAの一部はオフショアに消えている。タックスヘイブンのブラックリストも自主的な改善目標の公約だけで骨抜きになっている。

    結局のところ現代の宝島の所在地はシティとマンハッタンだった。中国は上海に続いて天津、福建省、広東省にも自由貿易区を作ろうとしているが実際に進められているのは金融の自由化だ。この本を読むと汚職の金を送金しやすくするのが目的のように思えてくる。

  • ケイマン、バハマといったエキゾチックな島の話ではなく、イギリス、スイス、そしてアメリカといった先進国が作り上げた巨大なシステムであり、文化である、といった主張を具体的な(推計ではあっても)データ・事例・インタビューによって裏付けている。そのシステムの根幹が「守秘」であるという事実は、「タックスヘイブン」という言葉にボンヤリともっていた「ルールの裏を書いて節税」というイメージを根底から覆した。(原著をダラダラ読んでたら翻訳があることに気がつき図書館で借りて読んでしまった)

  •  タックスヘイブンの仕組みなどに触れた本はいくつもあるが、この本ほどその実態に切り込んだ本はないだろう。それでも全貌は皆目分からず、闇と題しているのだ。
     大金持ちと一般人の資産格差が広がるのも、大金持ちほど税率が低いのも、すべて合法的なタックスヘイブンを利用しているからであるという。ときどき、海外の資産把握を高めたとか、スイス銀行の悪人の口座を明らかにさせたなどの報道が出て、タックスヘイブンが解消ないしは内容を把握する方向にあるのかと思いもあったが、資産格差の広がりがさらに進む現状は、実は逆に闇が広がっていると考えるべきなのだ。
     富を貧しいものから富んだ者へ流れるこの仕組みは、外国貿易の頃から始まり、先進国も途上国も政府高官が得をするので解消するのは容易ではない。この本でもその方法を提案しているが、実現できるのだろうか。
     これほどに内容が充実していて興味深いにも関わらず、読みにくいというか、頁が先に進まないのはどうしてだろう。慣れない言葉が多いせいだろうか、自分に縁のない世界の話だからだろうか、それがマイナスポイントである。

  • もしこの世界が何百年も前から「あるシステム」の下で、「ある一定の人たち(一族)や利害関係者」によって、動かされている世界であると考えれば、納得出来る事が多い。資本主義そのものについて考えられるし「そもそも」という観点から金融以外の物事も考えられる。

    現代の金融、世界経済、政治動向、貧困、戦争やテロリズム、その他を語る上で、タックスヘイブン(オフショア)を知らずに語られると実にチープに聞こえるし「あぁ、この人は何も分からず目先の事だけを語ってるんやなぁ〜」という印象を持つことになる1冊。

    直近のG20でも議論されたタックスヘイブンについて記述されている。ジャーナリスト視点からの本なので、書き方がアンチタックスヘイブン。

    善し悪しはあるものの、少し穿った見方がされているなぁ〜という印象。タックスヘイブン自体は合法で、そこを活用するかどうかは企業や個人、投資家の判断にしか過ぎない。また、これは歴史が証明している事で、「歴史的に」連綿とタックスヘイブンは続いているという事実。

    また、日本の投資家が日本の投資信託で運用しているものも、元々はタックスヘイブン(オフショア)を経由してきているので、タックスヘイブンそのものを無くす無くさないという議論自体は実に不毛である。

  • オフショア取引やタックスヘイブンに関する知識がなければ、この読みにくく分かりにくい膨大な文章は、結構キツい。このシステムが世界の富裕層をさらに富ませ、貧困国の窮状を助長していることは、なんとなくわかったような気にはなるのだけど。

  • あらゆる形で抜け道があり富が収奪されているのはわかったけど、全部整理するのは難しい。。話題の本にしてはとっつきにくすぎる。必要になったらもう一度読めばいいかなという感じ。

  • 日本経済新聞社エコノミストが選ぶ2012年経済図書ベスト10 第六位

  • なかなか読み通すのに苦労しましたが、新自由主義が行きすぎるとこれは批判されるべき問題ではないでしょうか。必読。

  • イギリスからアメリカへ、ヘゲモニーが移行していく過程や
    ブレトンウッズ体制の確立など。ブレトンウッズ体制は、
    1.経済運営の国際協調体制、2.国家間の資本の自由移動の禁止、
    が重要。面白い!

  • タックスヘイブン 租税回避地
     オフショア法人を通じて合法的に租税を回避
    オフショア 4
     ヨーロッパ、シテイオブロンドン、米を中心とする勢力勢、ソマリアやウルグアイなどどこにも分類できない群

    HSBC ホンカーズアンドチャンカーズ
    日本 1986 IBFモデルに自前のオフショア市場を生み出す

    映画 ロードオブウォー

  • ニコラス・シャクソン (著), 藤井清美 (翻訳)
    世界中で行われている金融取引の半分はケイマン島やバージン島などのタックスヘイブン(租税回避地)を経由している。世界三大バナナ会社からマードック率いるニューズコーポレーションまで、タックスヘイブンを利用しない大企業などなく、そこを経由した資金が様々な政治腐敗を生み出し、途上国の貧困をますます悲惨なものにしている。世界金融の中心地に君臨するニュヨークのウォール街やロンドンのシティ、また近年著しい発展を遂げているドバイ、上海、香港などの振興金融都市は、いたるところに存在するタックスヘイブンをどのように利用し、世界から巨万の富を「盗み取って」いるのか? 『フィナンシャル・タイムス』紙、『エコノミスト』誌などの名門メディアで活躍する国際ジャーナリストが、タックスヘイブンの闇に迫る渾身のノンフィクション。
    〈目次〉
    プロローグ 表玄関から出て行って横手の窓から戻って来た植民地主義
    第1章 どこでもない場所へようこそ・オフショア入門
    第2章 法律的には海外居住者・ヴェスティ兄弟への課税
    第3章 中立という儲かる盾・ヨーロッパ最古の守秘法域、スイス
    第4章 オフショアと正反対のもの・ジョン・メイナード・ケインズと金融資本に対する戦い
    第5章 ユーロダラーというビッガーバン・ユーロダラー市場、銀行、および大脱出
    第6章 クモの巣の構築・イギリスはどのように新しい海外帝国を築いたのか
    第7章 アメリカの陥落・オフショア・ビジネスに対する姿勢を危惧から積極的参加に切り替えた変えたアメリカ
    第8章 途上国からの莫大な資金流出・タックスヘイブンは貧しい国々をどのように痛めつけるか
    第9章 オフショアの漸進的拡大・危機のルーツ
    第10章 抵抗運動・オフショアのイデオロギーの戦士との戦い

  • 【レビュー】
    これは今年読んだ中で最大の良書だ!!今のところ星五つしかみんなつけていないが、それは納得。タックスヘイブンの関係するAIJ投資顧問の問題は、日本のマスメディアだけでは全体像をつかむことは決してできない。この本を合わせて読むことで、世界にはいかに腹黒い裏社会があることを知ることができた。これはすべての日本人が読むべき必読書であろう。
    【特記事項】
    ・なぜ貧困国は貧困のままなのか。それは、そういう国のエリート層が報酬をタックスヘイブン(オフショア)に回すことで税収入を減らしているから。
    ・オフショアとオンショアの対決は、要するに、金持ちから税金をふんだくるか優遇するかの問題と言える。
    ・ガボンには、大統領の公邸とトンネル一つでつながっている兵舎にフランスの空てい部隊数百人が駐留していた。これによる、フランスはガボンで裏取引を有利に遂行することができた。
    ・オフショアが問題なのは、その守秘性である。それゆえ犯罪捜査もできない。(つまり、その守秘性さえ突破できればオフショアは瓦解する、ということか!)
    ・オフショアは地元経済とは切り離されており、地元を潤すことはない。
    ・ルパード・マードックの会社の利益の数字は、同じ数字が続いている。これは明白な作為があって、会計士がざまあみろ、と政府を小馬鹿にしているものだ。
    ・ポルトガルのマデリア島、ルクセンブルク、ベルギー、オランダなどもタックスヘイブンとなっているが、歴史的にはスイスが長い。スイス銀行の守秘性は、第二次世界大戦時のユダヤ人保護のために、というのが長らくの説だったが、それは真っ赤の嘘。なぜなら、ユダヤ人の迫害がはじまる前に守秘性はできていたから。
    ・オフショアを支える理論の一つはグローバル企業の二重課税回避だが、オフショアは課税そのものをなくしてしまうので問題。
    ・日本の会社法改正で先日導入されたLLPも、元をただせば租税回避のためのスキームの一つであった。

  • 全く税金を払っていない、巨大金融資本。。

  • 米国ではここ数年、茶会派と呼ばれている保守派が、「減税をすれば税収は増える」、「政府に金を預けると無駄使いするから減税が必要」、と日替わりで主張を変え分裂症気味な議論を展開しているのをノーベル経済学者の P. Krugman が NYC Timesのコラムで痛烈に批判しているが、その主張に論理性は無く単に自己利益の最大化だけが目的となっているようでもある。

    そうした主張が目に付くようになった90年台以降の米国で「小さな政府」を標榜するブッシュ政権のブレインとしてのネオコンの台頭について、ノーベル経済学者の J.Stiglitz が随分前の著書で「彼らは税金を一円たりとも払わないことを究極の目標としており、それは”静かなる革命”である」というように書いていたと記憶するが、当時は何て大袈裟なと思っていたが、今まさにその言わんとしている革命が進行中であることをつくずく実感するこの頃だ。

    税金を払う事に異を唱える保守派の最大のスポンサーである金融業界が、その主張する「自由」な取引を謳歌した揚句が金融危機であるにも関わらず、その損失は何故か関係の無い国民の税金とは理不尽な話だし、世界中でそして日本でも一握りの所得上位層だけが減税の恩恵もあり益々豊かになる一方で中流層以下が益々貧しくなる傾向も目に付くのは何故か?

    残念ながら本書はそうした現象に対する直截的な回答をするものでもないが、その背景として「もっと古く、もっと深いものを取り上げた本だ。大手金融会社が世界各地の政治権力を乗っ取る戦いで使ってきたこの上なく強力な武器についての重要な語られざる物語なのだ」と著者が書くように、合法性の名の下に税金を逃れ社会システムを守るために必要とされる規制を逃れ、匿名性・守秘義務を盾に怪しい金を洗浄する「オフショア」「タックスへブン」の成り立ちからそれらを推進する背後の活動について包括的に解きほぐものだ。

    オフショアと言うと南の島々を想像するのだが、実はその始まりが英国にあるというのは驚く事実だ。第二次世界大戦でポンド覇権を失った英国は1950年代後半に凋落するポンド経済圏を守るために非英国居住者のために便宜を図る目的で従来の為替管理の外での通貨取引を認めたの始まりだという。サッチャー政権時代の1980年台半ばの金融ビッグバンが金融拡大の契機になっているのではと思っていたが、実は既に膨大なユーロドル市場が形成されていたのだ。

    そして本書の中で最も驚くのがロンドンの一区画に過ぎない「シティ」の成り立ちとその特権だ。単なる「兜町」や「ウォール・ストリート」と並ぶ金融街の名称と思ったら大間違いで、女王陛下が「シティ」を訪問する際には女王陛下を待たせてから迎えに出るほどの権威の源泉がどこにあるのか、そして底知れぬ資金力についてはある意味ではオフショアよりもミステリーだ。

    ともあれ本書は経済書というかノンフィクションなのか判然とはしないが、読み応えが有りいろいろと考えさせる本であり、個人的には2012年のベスト3にはランクするであろう最有力候補と言って間違いないだろう。

    蛇足だが2月27日付けの朝日新聞の一面で民主主義の手続きの煩雑さに異を唱え、全ての規制を排し税金を無くす社会に賛同する市民と企業だけからなる競争的な行政区域を目指す米国での活動話が掲載されていたが、これなども社会制度、民主主義の「オフショア」を作る狙いなのだろう。恐るべしオフショア思想だ。

  • ジャーナリストによるタックスヘイブン告発?の書。タックスヘイブンのダークサイドがこれでもかと書かれており若干辟易。もっとも、これでタックスヘイブンへの中途半端な羨望を払拭出来るという意味では意味はあるか。やはりタックスヘイブンは敬して?遠ざける存在か・・・。

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