- Amazon.co.jp ・本 (32ページ)
- / ISBN・EAN: 9784034351604
作品紹介・あらすじ
おばあちゃんの部屋には、女の子の絵がかざってある。「この子はだれ?」って聞いてみたら、「この子は、あたしよ」って教えてくれた。
びっくりするわたしに、おばあちゃんが話してくれたのは、海辺のアトリエに暮らす絵描きさんと過ごした夏の日のこと、おばあちゃんにとって、いつまでも色あせない、特別な思い出だった。
少女がのびのびと心を開放することができた宝物のような日々を、まるで映画のシーンのように見応えのある絵で描いた魅力的な絵本。
感想・レビュー・書評
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第31回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を絵本として初受賞。
賞の選考委員は江國香織さん。
コメントは「一人で選んでいいというこの贅沢な文学賞に、これ以上なくふさわしい、贅沢な絵本だと思う」。
主人公のわたしは、おばあちゃんの部屋にかざってある女の子の絵についておばあちゃんからとくべつな思い出の子どものころの話を聞きます。
おばあちゃんは、こどものころ、学校にいけない時期があり、おばあちゃんは、おかあさんのむかしからのともだちの、海のそばにひとりですんでいる絵描きさんのところに1週間たいざいしました。
海のみえるてんじょうのたかいアトリエ。
しっぽのながい黒猫。
名前のわからないテーブルの上の料理。
スイカの香りのする水でかんぱい。
絵描きさんといっしょに本を読む時間。
虫の声をききながらアトリエのすみのベッドで眠る。
庭にせんたくものをほすのは仕事。
そして、ふたりで、水着をきて海にさんぽ。
車で近くの美術館にも連れていってもらい、お互いの顔を描いた。
かいものにいって、いっしょに料理をつくり、パーティをした。
パーティのはじまりはライムをひたしておいた水にミントをうかべたのを飲んでかんぱい。
さいごの日も海にいった。
等々。
こんな素敵な夏休みをすごした、おばあちゃんの話を聞いたわたし。
私も、こんなにお洒落ではないけれど、素敵な夏休みの思い出をたくさんつくってくれた両親に感謝しています。
ブルーとグリーンを基調とした、爽やかな夏の1週間の絵がとっても素敵です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
一枚の絵から、おばあちゃんが孫に子ども時代を語る。学校に行けない時に、母の友人である絵描きさんの家で過ごした一週間の話。
そこは「海のアトリエ」。絵を描き、海辺を散歩して泳ぎ、スイカの香りのする水で乾杯して、夜は一緒に本の時間。夜一人アトリエで寝ても怖くない、猫が一緒にいてくれたから。
絵描きさんも子どもを子ども扱いしない大人で、静かな優しい時間が流れた。
絵は水彩画だろうか、柔らかくてきれい。
聞き手である孫が優しくて好き。おばあちゃんの部屋が好きで、二人でおしゃべりもする。
おばあちゃんの部屋の壁に飾ってある女の子の古い絵を見て、「この子だれ?」「おばあちゃんだったのか。どこかで会ったことがある子みたいだなと思ったよ」と。よく気づき、言葉が優しい。
「海のアトリエ」のような非日常な場所や時間でなくても、忘れられない出会いや出来事がある。このおばあちゃんが言うように、覚えていたいものだ。そして私自身が誰かの思い出の一人としてありたいとも思った。 -
本書は、なんといっても、Bunkamuraドゥマゴ文学賞、初の絵本による受賞という快挙を成し遂げたことでも話題となっており、過去には、川上弘美さんの『神様』や、米原万里さんの『オリガ・モリソヴナの反語法』等、錚々たる顔ぶれの一員となったことを考えると、これがどれだけ凄いことなのかが分かると思う。
とは言いつつも、絵本って文学なのか? と思われた方へ、本書の選考委員、江國香織さんの選評の中に、こんな文章がありました。
『絵本はもちろん文学である。文章がついているからではない。絵本においては、絵が言葉だからだ』
私が読んだとき、絵本の割には文章が多めだと感じ、絵本というよりは絵物語だなと感じていた、そうした文学性とは全く異なり、ここでは文章による言葉と、絵による言葉の二重奏となることで、読み手それぞれが、物語をより広がりと深みのあるものへと変換させることが可能となり、そこから絵本ならではの文学性が滲み出てくるのではないかということだと、私は思う。
そしてそれは、文章の無い表紙を見ているだけでも、女の子を描いている女性の、決して遊びではないような真剣な眼差しと、それを女の子が緩やかに微笑んで描き手を見つめている、それだけで二人の信頼性は充分に読み取れて、右手のソファーにちょこんと座っている猫は、今こそ空を飛んでいるカモメを眺めているようだが、床に散らばっているカラーボールを見ると、おそらく、ついさっきまでは、それで遊んでいたんだろうなと推測出来たり、少し窓が開いている描写ひとつだけで、そこから入り込んでくる風まで感じられそうな、開放的で涼やかなアトリエの様子が分かったりと、一枚の絵から、早くも物語が形成されようとしているのが実感出来て、そんな絵本ならではの文学性には、二人の台詞まで浮かんできそうな言葉が確かに潜んでいるようだ。
また、堀川さんの絵には、水彩ならではの、淡くぼやっと滲んだ不鮮明さと、一つ一つの小物まで丁寧に描いた鮮明さの境目を、上手いこと維持しているような絶妙さがあり、それはまさに、おばあちゃんの心に、今も鮮やかに描かれようとしている、遠くとも決して忘れることの出来ない思い出のようでもあり、それが如何に大切なものであるかを感じさせてくれる。
そう、その大切さが私にはよく分かるような、現代から始まる、そのほっと寛げる場面から一転して、回想されるおばあちゃんの思い出の始まりには、とても繊細なものがあった。
『そのころ、あたしは、ちょっといろいろ、いやなことがあって、学校にいけなくなっててね』
理由など問題ではない。
これだけで充分、おばあちゃんの心に抱えたものを慮ることが出来そうで、そもそも内容を話せるくらいなら、学校に行けなくなるところまではいかないであろう、この感覚的な苦しみは、おそらく本人にしか分からないし、曖昧な書き方からも、この物語は、自ら気付きを促して前を向いてゆくようなものであることが、推測出来る。
そんな時に誘ってくれたのが、小さい頃から好きで、海の側の家に一人で住んでいた、おばあちゃんのお母さんの友達である、絵描きさんで、おばあちゃんはそこで一週間滞在することになる。
別に悩みを抱えていたからといって、それに対して、直接的に関与するわけでは無い。
ただ、一緒に暮らしていくだけ。
しかし、ただそれだけのことが、おばあちゃんには、とてもリラックスして楽しんでいるように感じられて、それはまるで、同年代のお友達と一緒に遊んでいるような、ごく自然なやり取りから生まれており、そこには、堀川さん自身の過去の体験に基づいた、『子どもを“子どもあつかい”しないおとな』との初めて出会いがもたらした、おばあちゃんにとって、初めての『あたしの居場所』が出来た嬉しさだったのだと思い、そう考えると、子どもにとっては、学校という閉じられた場所だけが、生きていく為の全てでは無いことへの励みとなり、大人にとっては、自分を必要としている人がいるのかもしれないといった、年齢など関係ない心のやり取りから気付かされる喜びは、きっと良き思い出となることに加えて、自身にとっても得るものがあろう、そんな相互にとっての気付きを促してくれる、この絵本の素晴らしさである。
そして、そんな二人の対等性には、一緒に食事をしたり、本を読んだりといった楽しさもそうだが、それ以上に印象的なのが、おばあちゃん自らに感じ取ってもらうような絵描きさんの付き合い方にあり、それは、二人で水着を着て海で泳ぐ時、絵描きさんが、おばあちゃんが泳ぐのをただ眺めているだけなのは、万が一、溺れるようなことがあったときに、すぐ助けに行けるように着替えていたことを、後になって気付いた、その海の絵の、どこまでも大らかで果てしない広がりを見せる様には、まるでおばあちゃんが安心して泳げるように見守っている、絵描きさんの心の広さを表しているようで、その二人だけの世界を描いたような幸福感に満ち溢れた絵には、たとえ二人がどんなにちっぽけに見えようとも、確かな生きている思いが伝わってくる。
また、絵描きさんに連れて行ってもらった美術館で見た、ロダンの『花子のマスク』は、その辛そうに見える表情ではあっても、その内面が感じられることの素晴らしさを知ったことから、おばあちゃんが気付くことが出来た、『つらそうでもすばらしい』に宿る思いには、たとえ、どんな瞬間でも、その瞬間瞬間が、その人の生きてきた立派な証であることを教えてくれたように感じられ、それは、おばあちゃんが今後、辛い目にあうことがあったとしても、それは素晴らしいんだと思えることで、きっと生きることへの確かな希望となったのだと思う。
更に、二人でお互いの顔を描く場面は、おばあちゃんにとって初めての、絵描きさんという、他の誰でもない、たった一人の人間を知るということでもあり、それは、まゆはこんな形なんだとか、耳にほくろがあるんだなとか、些細なことに感じられそうだが、人を知るということは、そこから始まるような気がして、それがやがて、その人のその人たる素敵な個性や内面を知っていくきっかけとなるのであれば、それは、おばあちゃん本人にしか持ち得ない、かけがえのない個性や内面も、絵描きさんから知ることが出来るということでもある。
要するに、体験したものの素晴らしさ以上に、本書では、そこから何を得たかという、気付きの大切さを教えてくれたように、私には感じられて、その気付きが、今の自分にしっかりと息づいている、おばあちゃんの泰然とした、その優しさを纏った佇まいには、その話をずっと聞いていた、孫の「わたし」の心にも、きっと何かの気付きを促してくれたことを感じさせる、その絵はまさに言葉を宿しているようで、その二人が通わす真摯な眼差しには、
『だれでもない、ここにしかいない、あたしだっていう感じ』の大切さを、確かに継承していたのであった。 -
大人になってもひとつくらいは、子どもの頃の夏休みの出来事を覚えていると思う。
このお話は、おばあちゃんの部屋は居心地がよくて大好きだと言う孫娘が、かべにかけられた女の子の絵を見て、「おばあちゃん、この子はだれ?」と聞いたことから始まる。
おばあちゃんが、「この子は、あたしよ」って言い
子どもの頃に夏休みに海のそばにある絵描きさんの家へ1週間泊まりに行ったことを話しだす。
おばあちゃんの語る内容は、どこかへ遊びに…というわけでもなく、朝一にさか立ちをして1日のはじまりに、世界をさかさまに見ることからスタートする。
ゆったりとした時間のなかで、水着を着てさんぽして、海をながめたりする。
そして、心の中に思い浮かべたいろんなことをうすっぺらい紙に、水彩で何枚も絵を描く。
手や足に絵の具をつけてスタンプしたりして、自由に思いのまま描くのは楽しくて…。
一度、近くの美術館に行き「花子のマスク」っていうかなしそうな女の人の顔の彫刻にひかれた。
つらそうに見えるのは、内面が感じられる顔だからすばらしいよねって絵描きさんが言った。
そして、お互いの顔を描いてみようって。
最後の日にも海に行き、風にふかれて、波の音をききながら、ふたりで岩の上から海をながめてた。
孫娘にとても楽しかった夏休みの思い出を話したおばあちゃん。
話しながらあのときに描いた絵のことや海の景色を思いだしたはずだ。
それは、きっと楽しくてすてきな1週間で嬉しい気持ちが今も心の中に残っているのかもしれない。
何年経っても忘れることはない最高の思い出なんだろう。
絵描きさんと子どもだったおばあちゃんが、水着を着て岩の上で風に吹かれながら遠くの海を見つめている絵が、いちばん印象に残った。
紺碧の海が、子どもの頃の夏休みを思い出した。
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ブグ友さんたちの素敵なレビューに惹かれて、この作品を読むことができました。いつもありがとうございます。
一枚の絵から、おばあちゃんが少女だった頃のひと夏の思い出が語られる。それは、宝物のような素敵な思い出だった。
海が見えるアトリエ、スイカの香りのする水、本棚にあるたくさんの絵本や画集や写真集、とても静かな朝の浜辺、…少女だった頃のあたしの目に映るものすべてが新鮮で特別で…
当時、学校に行けなくなっていたあたしは、絵描きさんと毎朝体操したり、散歩したり、自由に絵を描いたりしながら、硬くなった心を少しずつ解して広げていくような、そんな日々を過ごす。
美術館で惹かれた小さな彫刻を前にしたときの、絵描きさんとの会話が印象的。
辛そうでも素晴らしいんだって思えたことは、あたしにとって大きな意味のあることだったんだろうな。
そして、お別れの日に一日かけて準備して行ったふたりのパーティ…なんて素敵なんだろう。
絵描きさんと過ごした一週間。そのひとつひとつが特別な思い出となり、おばあちゃんになってもこんなにも鮮明に覚えている。
おばあちゃんの部屋が居心地がいいのは、きっとこの絵のように、大切な 思い出に囲まれているからなんだろうな。
私も絵描きさんみたいに、子どもを子ども扱いせず、対等に接することのできる人でありたいなと思った。
絵本を読み終えると娘が「きれいなお話だねぇ。」と小さな声で言った。-
ひろさん、こんにちは。
「おばあちゃんの部屋が居心地いいのは、きっと大切な思い出に囲まれているから」…なるほど!素敵です。
そしてひろさんの...ひろさん、こんにちは。
「おばあちゃんの部屋が居心地いいのは、きっと大切な思い出に囲まれているから」…なるほど!素敵です。
そしてひろさんの娘さんの「きれいなお話だね
え。」のひとことが穏やかで優しくて、この本の聞き手である孫に重なりました(⸝⸝o̴̶̷᷄ o̴̶̷̥᷅⸝⸝)2023/08/20 -
なおなおさん、こんにちは♪
なおなおさんのレビューに書かれていたように、この本の聞き手である孫がまた優しいんですよね~(*ˊ˘ˋ*)
おばあ...なおなおさん、こんにちは♪
なおなおさんのレビューに書かれていたように、この本の聞き手である孫がまた優しいんですよね~(*ˊ˘ˋ*)
おばあちゃんの家ではなく部屋が好きとあるから、子どもたちの家におばあちゃんが越してきたのかな?と思いながら読みました。
だから必要最小限の大切なものだけを持ってきたのかなと。
自分が読みたくて借りた絵本でしたが、娘も気に入ったようで、まだまだ読むことになりそうです~♪2023/08/20 -
ひろさん、お返事をありがとうございます。
お子さんと一緒に読んで、娘さんの素直な気持ちが聞けるのがいいなと思いました。
これからもレビューを...ひろさん、お返事をありがとうございます。
お子さんと一緒に読んで、娘さんの素直な気持ちが聞けるのがいいなと思いました。
これからもレビューを楽しみにしております(^^)2023/08/21
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はまだかよこさん、こんにちは。
読んで下さったのですね。
ありがとうございます(^^)
一枚一枚の絵から感じられるものが多かったようで、...はまだかよこさん、こんにちは。
読んで下さったのですね。
ありがとうございます(^^)
一枚一枚の絵から感じられるものが多かったようで、何よりです。
その中でも、海の風は私も印象に残りまして、それはアトリエ内だけでなく、外の海の、どこまでも果てしなく広がる中での二人きりの絵にも感じられまして、そこからは色々悩みがあると思われた、おばあちゃんにも自由がちゃんとあるんだなといった、海と風にも見守られている感じが、とても印象的で胸に迫るものがありました。2023/08/23 -
たださんへ
いい本を教えてくださってありがとうございました。
あの水彩画!ずっと見つめていたいです
そうですよね、見守られてる感じ
...たださんへ
いい本を教えてくださってありがとうございました。
あの水彩画!ずっと見つめていたいです
そうですよね、見守られてる感じ
絵から感じました
コメントありがとうございました2023/08/23
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ベルガモットさん。こんにちは♪
素敵な絵本ですよね。
こんな素敵な1週間を過ごせた子どもはきっと、大人になっても忘れませんね!
今...ベルガモットさん。こんにちは♪
素敵な絵本ですよね。
こんな素敵な1週間を過ごせた子どもはきっと、大人になっても忘れませんね!
今のこどもたちも、同じだと思うけれど、コロナが流行ったり、地球温暖化で、とにかく暑くて、なんかちょっと可哀想かもと思ってしまいます。2022/08/13 -
まことさん、コメントありがとうございます!
残暑お見舞い申し上げます。
勝手にまことさんのお名前出しちゃいましたが、
素敵な絵本の...まことさん、コメントありがとうございます!
残暑お見舞い申し上げます。
勝手にまことさんのお名前出しちゃいましたが、
素敵な絵本のご紹介ありがとうございました。
確かにこの数年の夏休みの過ごし方は、考えちゃいますね
周りの大人も含めてちょっとした工夫やアイディアで想い出作りができるといいなとも思います。
といいつつ、お盆も帰省できず、図書館かスーパー買い出しの日々です~2022/08/13
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『海のアトリエ』が第31回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞! | 偕成社 | 児童書出版社
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【編集長の気になる1冊】おぼえておきたい夏。『海のアトリエ』 | 絵本ナビスタイル
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海のアトリエ | 偕成社 | 児童書出版社
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江國香織×堀川理万子の対談ライブ配信決定!
Bunkamuraドゥマゴ文学賞メールマガジン 2021年10月号
https://mm.bun...江國香織×堀川理万子の対談ライブ配信決定!
Bunkamuraドゥマゴ文学賞メールマガジン 2021年10月号
https://mm.bunkamura.co.jp/mailmaga/bungaku_211020/2021/10/20
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まず、私が子どもの頃何人かの大人の人と関わった
いい経験を思い出してみました。
そして、大人になってこれからも小学生と関わることがあると思いますが、私と会ったことがその子たちにとってちょっとでも良い思い出になるような、そんな大人になりたいと思いました。
あ、そういえば、この3月でお別れした子と、4月に偶然会って
向こうから「凪紗さん?」と声かけてくれて
すごく嬉しかったです。よし。