流れ行く者―守り人短編集 (偕成社ワンダーランド 36)

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  • 偕成社
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  • Amazon.co.jp ・本 (275ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784035403609

作品紹介・あらすじ

父を王に殺された少女バルサ。親友の娘を助けるためにすべてを捨てたジグロ。ふたりは追手をのがれ、流れあるく。二度ともどらぬ故郷を背に。守り人シリーズ「番外編」にあたる短編集。

感想・レビュー・書評

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  • タンダとバルサのほのぼのとした幼い頃の物語と、
    ジグロとバルサの
    用心棒として暮らす張り詰めた旅の暮らし。
    ほんわかしたり緊張したり、
    忙しい一冊。

    そして、この頃から2人はなんとなく相性が良く、
    お互いを大切に思い合っていたんだなぁ、と感動。

  • バルサのシリーズの番外編の短編集だった。
    一番おもしろかったのが、小さい頃のバルサとタンダのお話の「浮き籾」。タンダのお母さんが、家のお手伝いにいったバルサに、脛当てを貸してくれて、遠慮したバルサに結んであげたところがすごくよかった。
    でも、タンダの家は、タンダをいらない子みたいにするのが嫌だ。悲しいし、寂しい。おれだったら、キーッて叫んで泣いちゃうけど、タンダは遠慮しているところがあるから、できなくて、かわいそう。
    ジグロは、迫力があって、厳しいけど、バルサのことを思いやっているのが印象的。バルサががんばって生きているって、伝えてあげたい。槍舞で会えたとき、きっとうれしかっただろうな。(小6)

  • 守り人シリーズの外伝とも言える短編集。
    タンダやバルサの幼いころの日々が綴られている。

    本編を読んでからだいぶ時間が経ってしまっていたけれど、
    1ページも読み進まないうちにふたたび、バルサやタンダ、トロガイ師の暮らすあの世界へ心は戻っていく。
    独自の言葉には「カッル(マント)」というようにカッコ書きで注釈がつけてあり、違和感なくこの世界の暮らしに想いを馳せられる。
    相変わらず、食事に関しての描写は特に秀逸。
    「汁気の多い鳥肉をこんがりと焼いたもの」とか、
    「無醗酵のパンを焼いたもの」ですら、
    特別な言葉なんて使っていないのに、すごくおいしそうで。
    あぁ、空腹のときに読むものではありません!!

    死地を何度も潜り抜けて。
    自分の命は自分で守らなくては、誰も守ってくれない。
    バルサの毅さは、そうして育まれたんだろう。

    タンダの優しさは、生まれついてのもの。
    彼の健気さは、大人になっても変わることなく、私はタンダのそういうところがすごく好きだ。

  • ちくしょー、また泣いてしまった。「くやしー」って感情は「好きだ!!」って気持ちに「等しい」って学界に発表したいよ。

  • 守り人シリーズを全て読み終わった後の、極上のデザートのような短編集です。

  • 守り人短編集です。
    浮き籾、ラフラ<賭事師>、流れ行く者、寒のふるまいを収録。
    バルサとタンダの子ども時代のことが書かれています。
    久々に守り人の世界を堪能できました。

    ラフラは雑誌ユリイカで掲載されたものを加筆したそう。
    だいぶ前に読んで記憶が薄れかけていたので、今回改めて読むことができて懐かしかったです。

    バルサが過酷な暮らしをしていることは簡単に想像できたけれど、タンダもなかなか生きにくい子ども時代だったことを感じられたのは大きな収穫でした。

    二人が魚釣りをする場面がとても印象に残っています。

    流れ行く者の結末は壮絶で読みながら震えてしまいました。
    バルサの気持ちはもちろん、ジグロの気持ちも痛いほど伝わってきて涙が出そうになりました。

    『炎路を行く者』の発売も近々のようで読めるのが楽しみです。

  • ●浮き籾ほか
    十三のころのバルサの獣っぷりと、実は年下だったタンダの泣き虫っぷりが微笑ましい

    ●ラフラ
    この話はすごくいい
    私の理解力では一読しても足りなかった
    感想サイト2カ所程読んでから再読して、理解し直した
    (人によってずいぶん解釈違うもんだ)

    守り人シリーズ読んでなくても問題ないので、この話はぜひ。感動というのとは違うが、「解夏」と並べてオススメしてもいい、心理のこまやかさ。

    以下、少し本文を抜き書きとメモ。

    ------------------------------------------------------------
    バルサが、ラフラ(賭博師)の老女アズノに気にいられて、ススット(スゴロクとチェスを組みあわせたようなものと思われる。タイ・ススットという2時間くらいで終わる賭博場向きのと、ロトイ・ススットという、記録をつけて何十年でも、相手と再会したときに続きを始められるものがある。こちらは武人や貴族が好む)

    アズノのお供として、バルサがターカヌ(氏族の偉い人)の屋敷に行く。

    ターカヌ「顔をしっかりと見せよ」
    アズノは恥じらうように小声で笑った。


    ターカヌ「公開とし、金を賭けた勝負にしようではないか」
    アズノの、燃えさかっていた火に、冷水をふりかけられたような、唖然とした表情


    ターカヌ「サロームに勝って、勝利の栄光と賞金を受けとってくれ」

    アズノ「(ターカヌ様は私に)贈り物をくださりたいのさ。五十年の長い楽しみの、褒美にね」

    公開賭け話を持ちかけられたあと、アズノは今世話になっている酒場の主人の部屋に入って話をする。


    ラフラの賭金は賭博場の主人からの預り金
    買っても負けても主人の金になる。

    ラフラは賭博場と、上がりの上納金を得ている連中の持ち物

    公開賭け試合では、ターカヌとのススットで見せた果敢な攻撃とは打ってかわって、守りか、脇からの攻め
    ターカヌの孫であるサロームに領土を与えて、アズノは負けたが、領土を取られるたびに銀貨を得る狡猾な手で、逃げ切った。

    試合に負けたアズノ。
    ターカヌはアズノをちらちらと見たが、試合場を去るアズノはターカヌに視線を向けることはなかった

    ------------------------------------------------------------

    大事と思われる部分が、以上。
    これっくらいしか書いていない。ものすごく簡潔で、行間を読まないといけない。
    私がわからなかったのは、サローム以上の技量があるアズノが、何故わざと負けたのか。

    アズノがターカヌに思いを寄せていたことは間違いない。五十年の長い間、ともにススットをしてきた間柄、ということは、出会った当初はふたりともまだ二、三十代。
    ススットの記録は、長い長い戦いの記録であり、アズノにとっては、ターカヌとのときを過ごした記録、恋文のようなものではなかろうか。
    様々な戦いの分岐が見てとれるとあるから、決して現実では見られない夢を、ススットの盤上に、アズノはぶつけてきたのだと思う。

    氏族の長と、流れ者の賭博師では、本来は口もきけないような間柄。おそらく独り身のアズノは、盤上では対等にターカヌと渡り合うことで、ひとりの人間どうしとして、そのときだけはあれた。もしかしたら、ターカヌとともに過ごす人生を空想した分岐もあったのかも知れない。

    そのターカヌが、自分の孫をススットのゲームにくわえた。
    ここまではいいが、最後の勝負を老い先短い自分とではなく、孫とやってくれと言う。
    そして孫を負かしてくれと。負かして、かわりに賞金を受け取ってくれと。


    ”ターカヌ「公開とし、金を賭けた勝負にしようではないか」
    アズノの、燃えさかっていた火に、冷水をふりかけられたような、唖然とした表情


    ターカヌ「サロームに勝って、勝利の栄光と賞金を受けとってくれ」

    アズノ「(ターカヌ様は私に)贈り物をくださりたいのさ。五十年の長い楽しみの、褒美にね」”

    金がかかっていないからこそ、ラフラのアズノは、賭博師ではなくススットで戦う自分としてターカヌと勝負してこられた。
    それが、突然、自分はしょせんひとりのラフラだと思い知らされるような仕打ちだ。
    お互いがお互いを認めてきたから五十年も戦ってきた筈なのに、ターカヌは、アズノを賭博師に戻した。腕がよく、礼儀もわきまえていて、自分の孫の(つまりはラフラでは夢見ても得られないもの)教師のようなものに出来るもの、としてしか見られていなかったと、アズノは自覚する。

    長い楽しみを与えた、褒美。
    褒美をくだされるのは、対等な相手ではなく臣下だ。


    ターカヌが賭けるのは自分の金だが、アズノが賭けるのは、酒場の主人の金。
    もしラフラが負ければ、酒場の主人の金が失われる。ラフラは役立たないものとして捨てられ、どこの賭場にも出入りできなくなる。老女のラフラがやり直せる時間はない。

    アズノは自分で賭ける金も持てない。
    負けて、自分を預かっているナカズや酒場の主人の面子、金を潰すわけにもいかない。
    そしていかにターカヌが「孫を負かしてくれ」と言っても、それはあたり一帯をおさめる時代の領主のようなもの。
    そんな相手を負かしてしまえば、もしかしたらサロームは気にしないかも知れないが、周囲の臣下らは主人の体面を気にする。睨まれたラフラ、ひいてはそのラフラを預かったり雇っている人々は、圧力を加えられるかも知れない。

    アズノは、勝つわけにはいかない。
    公開の場で、自分とターカヌの間でだけ続けてきた戦い方、自分の望む生き方を、さらすわけにもいかない。それは彼女の矜持だろうから。

    バルサに「逃げ切ること」も大事なことだと教えたラフラは、決別することにしたのだろう。
    もう、ターカヌの前に出ることはない。
    大事な思い出もターカヌによって、本人は好意のつもりであっても、潰された。
    自分がこれからも生きていかなければいけない以上、勝ってはいけない。しかし損害をこうむってもいけない。

    だから、ラフラとして身につけている、もっともラフラらしい「金を稼ぐ」という面を、全面に出した。
    領土という名誉は、氏族に。
    流れ者のラフラは、金を。

    自分で、対等でいられた過去の自分を切り捨てたアズノは、ターカヌに見せる顔はない。
    彼女は、ラフラではなく、対等に向きあう自分でいたかったから。
    すべてを捨てて堂々と戦うことも出来ない自分を悔やみ、けれどラフラとして生きるなりの誇りもあったに違いなく、彼女は、自分の思いを捨てたんだろう。



    感想サイトで読んだところの
    「ターカヌの金を酒場の主人に渡したくなかった」
    「バルサに「逃げきること」の技術を伝えたかった」
    は、私にはしっくりこなかったけれど、同じものでも、読む人によってこうも違うのか。と思ったものでした。
    私には金と恋も大事だが、彼女の矜持の部分なのかと思えた。

  • 守り人シリーズの主人公である女用心棒、バルサの幼少時代の短編集。
    バルサが、本当にまだ子供なのが面白い。
    養父ジグロの影響はすごく大きいのでしょうね。
    ジグロとの関係性がすごく好きでした。ジグロがこの後どうなるかを知っている分、彼がふと笑いをこぼす瞬間や、言葉が胸に響きます。
    まんまバルサのお父さんです!という感じ。
    『ラフラ<賭事師>』と『流れ行く者』が特に印象的でした。
    ラフラのおばあさんの胸の内ははかり知れません。
    最後、ジグロがバルサを抱きしめるところ、熾き火の詩がやりきれないと同時に、温かくもありました。

    あと、ちっこいタンダが異常に可愛かったです^^

  • バルサとジクロとで旅してた頃の話が読めて良かった。
    バルサ、ジクロのこと父さんって呼んでたのね。
    最後死ぬのかと思ったが、タンダと再会したんだろう終わり方。
    ジクロは死期を悟って、トロガイにバルサを預けようとしたんじゃないのかな。

  • バルサとジグロの、流浪の旅・・・も含めた短編集。

    人を殺すということ、人の中で生きていくこと、未熟なバルサにはあまりにも重い課題が降りかかる。様々な泥にまみれながらも、屈指の短槍使い、バルサの育つ様が見られるのは、興味深い。

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著者プロフィール

作家、川村学園女子大学特任教授。1989年『精霊の木』でデビュー。著書に野間児童文芸新人賞、産経児童出版文化賞ニッポン放送賞を受賞した『精霊の守り人』をはじめとする「守り人」シリーズ、野間児童文芸賞を受賞した『狐笛のかなた』、「獣の奏者」シリーズなどがある。海外での評価も高く、2009年に英語版『精霊の守り人』で米国バチェルダー賞を受賞。14年には「小さなノーベル賞」ともいわれる国際アンデルセン賞〈作家賞〉を受賞。2015年『鹿の王』で本屋大賞、第四回日本医療小説大賞を受賞。

「2020年 『鹿の王 4』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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