夜の淵をひと廻り

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店
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本棚登録 : 108
感想 : 24
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  • Amazon.co.jp ・本 (351ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041035580

作品紹介・あらすじ

職務質問と巡回連絡が三度の飯より大好きで、管轄内で知らないことがあるのが許せない、良く言えば“街の生き字引”、率直に言えば“全住民へのストーカー”。ある街のある交番で住民を見守るシド巡査のもとには、奇妙な事件が呼び寄せられる。魔のバトンが渡されたかのように連鎖する通り魔事件、過剰すぎる世帯数が入居したロッジ、十数年にわたって未解決のご当地シリアルキラー。市井の片隅には、怪物の巣食う奈落がひそかに口を開けている――。

感想・レビュー・書評

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  • 西東京の主要都市に挟まれたエアポケットのような街・山王寺。事件のトラウマでパトカー恐怖症となり、専ら自転車で巡回する交番警官・シド巡査。職質と居住調査が三度の飯より好きで、地域のことは全て知らずにおれない、「全住民のストーカー」シドが、その卓越した情報収集能力と鋭い洞察力で事件を解決していく9つの連作短編。

    冒頭の話でいきなり気の合う相棒が殉職するや、普通の警察小説なら死なないのに〜という人物さえ惜しげもなく殺される。殺され方も痛めつけられ具合もその描写に手加減はなく、超絶グロいんだけどどこか文学的。作品を覆う不穏な空気は藤田新策さんの装画がピッタリ。

    何より登場人物の造形がいい。
    主人公のシド(彼だけが漢字がわからない)巡査をはじめとし、同僚のアイザワ(相澤)巡査、本庁のクラマ(蔵間)警部補(のちに警視監)などみなキャラが立っていて魅力的。
    街で起こる事件があまりにも多い、しかも大事件、それも無関係と思えたものまで連続殺人だったりと気を許せない。この作品、警察小説ともミステリともカテゴライズできない不思議な趣き。

    シドと彼が追い続けた老紳士との哲学的とも言えるやりとりに、人の心の本質や悪の連鎖の奈落を覗き見る恐怖、しかしそれを断ち切るのも人の言葉や交わりということに安堵する。
    こんなに気持ち悪くて、だけどゾクゾクする作品のラストがこんなにも爽やかなことにちょっと戸惑いながらも決して悪い気はしない読後でした。

    面白かった〜

  • 来たー!あきらめずに真藤さんを追っかけて良かったです。これはいいよ。連続ドラマWOWOWでお願いします。主演は佐藤二朗さんあたりで。監督は小林義則さんでお願いしたい。

  • 真藤氏の作品を順不同で読んでこれで3作目。通底している部分は共通なものを感じるが、書き方のスタイルが毎回実験的に変わるし、勿論題材も相当違うので好悪がはっきりしてしまう。本作は嵌った。私は新警察小説として捉えて今野氏の「隠蔽捜査」以来の衝撃を受けた。短編として発表された各章に単行本用の書き下ろしを加えた体裁だが違和感なくまとまっているし、何より偏執的交番勤務巡査のキャラクタが最高にクールで面白い。本作だけでシド巡査がいなくなるのはあまりにも寂しいと感じているのは私だけではあるまい。切に続編を期待するものです。

  • 「庵堂三兄弟の聖職」がなんだか合わず途中断念を
    してから、まったく見向きもしなかった作家でしたが、
    ある程度のあらすじと書評を読み、
    ものは試しに読んでみたら。
    あら、不思議、
    惹き込まれる引き込まれるシド巡査とともに、
    山王寺の黒くて厭らしい因果律に
    飲み込まれそうになった。
    「庵堂三兄弟の聖職」から10年を経て、
    真藤順丈氏の魅力にハマってしまったかも。
    凄惨な事件が絡み繋がっていくなかで、
    涙あり笑いあり、まるで短編とは思えない濃厚さ。
    読んで良かった。
    もう一度、真藤順丈氏に出会えて良かった。
    他の作品も読んでみたい。

  • 奇妙な読み心地の連作ミステリ。ある街で起こる数々の奇妙な事件。それを解き明かすシド巡査は、なんと「全住民のストーカー」。しかしそうなるに至った経緯は分からないでもないのですが。そりゃあ警察官だって怖いものは怖い……とはいえ、この偏執っぷりもやや怖く思えるのは確かです。
    ところが。読み進むうちにどんどん好意がわいてきますねシド巡査。最初はその情報通っぷりがあまりに凄まじくてドン引きでしたが。ある意味とっても有能。そして確かに愛があると言えるのかもしれません。一方で穏やかな悪意を感じられるあの人の方に恐怖させられました。何者なんだろういったい。
    お気に入りは「新生」。とんでもない曲者ぞろいの特命捜査対策室の活躍にわくわくさせられました。物凄いチームだなあこれ。ただ、とんでもなく扱い難そうではありますが。

  • 職務質問と巡回連絡が三度の飯より大好きで、管轄内で知らないことがあるのが許せないという交番の巡査が出会う事件の連作短編集。
    設定から想像したようなほのぼの系ではなく、かなりダークでホラーな話だったが、主人公の飄々とした語り口で読後感は悪くない。本の厚さのわりに読み応えあり。
    初めて読んだ作家だが、気に入ったので他の作品も読んでみたい。

  • 徘徊老人の解釈に
    時間がかかってしまいました
    読んだ後は 解釈もふくめて
    しばらく 悶々としました

    街の意思
    潜在的な悪

  • 巡査が主人公のミステリ。巡査ってだいたいモブで、主人公になっているものは少ないように思う。その勤務内容から想像してしまうような「落とし物からはじまるちょっとした謎と、町の人々のきずなを感じるハートウォーミングなストーリー」では・・ない。主人公シド巡査は担当区域山王寺を愛している。それはほぼ狂気に近く、住民からストーカー扱いされている。そんな彼だからこそ住人の変化や小さな違和感に気付けるのだ。シド巡査が出会う「街の意思」がなんなのかちょっとつかみきれず、SFのような話でもあった。

  • 異能のお巡りさんの半生を短編で描いた作品。他の作品とも共通する、真藤順丈ワールドが全開。実際の事件を下敷きにした物語が多い。この作品、二回ほど発売日が延期になっていたけれど、ひょっとして、「スターテイル」を書いていたの?と思うくらい、タイムリーな描写。発売日に本屋に走って正解だった。

  • 担当する山王子のことは全て把握していないと気が済まない地域課巡査シド。彼が記す山王子で起きた事件の数々。警官を襲って拳銃を奪おうとした犯人は狂人なのか。祭りで起きた通り魔殺人。地域で連続して起きる不審死。失踪した旦那を探す妻。闇を飲み込んでいるかのようなアパートの扉の向こう。ある衝動を抑えられない青年の告解。星を空に返す少女の幸せ。不良息子の行く末。山王子で起きる事件に彼は何を思うのか。

    えぐくて奇妙で変態で、でも切ない連作短編集。1話のインパクトがすごくてここからどうするんだと思ってたら普通に仕事してて笑ってしまった。つまりそういう話。全編サイコパスな事件だしシド巡査は変態だと思うけど為すべき仕事を普通にしてるそのギャップが面白かった。「悪の家」あたりでテンポもわかってすごい面白くなってきたから、「新生」読んで、いやこれもったいないから二冊目からこの設定でやろう!もうちょい巡査物語しよう!って思ったのにやっぱりあっさり終わってまたしても笑った。後半の3編は全部切なくて悲しくてでも希望があってすごく良かった。キャラも皆魅力的だったから、やっぱり回顧録みたいにして続編だそう!

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著者プロフィール

1977年東京都生まれ。2008年『地図男』で、第3回ダ・ヴィンチ文学賞大賞を受賞しデビュー。同年『庵堂三兄弟の聖職』で第15回日本ホラー小説大賞、『東京ヴァンパイア・ファイナンス』で第15回電撃小説大賞銀賞、『RANK』で第3回ポプラ社小説大賞特別賞をそれぞれ受賞。2018年に刊行した『宝島』で第9回山田風太郎賞、第160回直木三十五賞、第5回沖縄書店大賞を受賞。著書にはほかに『畦と銃』『墓頭』『しるしなきもの』『黄昏旅団』『夜の淵をひと廻り』『われらの世紀』などがある。


「2021年 『宝島(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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