確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力
- KADOKAWA/角川書店 (2016年6月2日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041041420
感想・レビュー・書評
-
最初に一言。
題名に「確率」と入ってるし、副題には「数学」なんて入ってるし、持ったらズッシリと分厚いし読むのタイヘンソウダナ…と身構えて読み始めた割には、数式に重きがおかれて「いない」本だった。数式も出てくるには出てくるが、きちんと日本語に翻訳されていて、数式を無視しても理解できる作りになっていた。
数式を使いながら市場と対峙する「マーケター」と「リサーチャー」として長年ご活躍されているお二人が「日本社会のために」と書かれた著作。第一線のプロであっても試行錯誤しながら市場予測されてきた、ということがわかる生々しいエピソードと共に得られた知見がみっしり書かれていた。確かに日本はマーケティング弱いよなぁ…というのは全く関係ない仕事をしている凡人の私も感じるので、この本が広まるといいなぁ。以下、自分向けメモ。
・マーケターは数式を元に意思決定の提言をする人、リサーチャーは徹底的に客観的なデータを積み上げ分析する人
・自分自身に関しても会社の仕事としても、人間にできることは確率を「上げる」ことでしかない。最後は神様のサイコロ。
・Wisdom of Crowds、群衆の知恵、という現象があるらしい。予測に多様性と独立性があれば自ずと予測が正解に近くなる、という現象。だからダイバーシティが重要であり、多角的な視点から予測することが重要。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
市場構造の本質はプレファレンス(相対的な好意度)
∟ブランド・エクイティー
∟価格
∟製品パフォーマンスの3つによって決定されている
購入候補の組み合わせをエボークト・セットと言う。
※100%の内、50・30・20の比率のように
戦略、経営資源の配分先は
Preference(好意度)
Awareness(認知)
Distribution(配荷)の3つに集約される。
認知率は2つに分けられる。
・Aided Awareness(エイディッド・アウェアネス)
※USJを知っていますか?
・Unaided Awareness(アンエイディッド・アウェアネス)
※テーマパークや遊園地で思い浮かぶブランドは?
数字を判断する時はファクトに基づいて冷徹に。
伝えるフェーズでは熱量を持って。 -
今まで私個人として掘り下げたことのなかった「プリファレンス」の概念を学べたのが良かった。データアナリストではないので5-7は軽めに読んだが、1-4章はじっくり読むに値するものであった。以下読書メモ。
・エボークト•セットとプリファレンスの組合わせ
・経営資源の配分先は結局プリファレンス、認知、配荷に集約される
・消費者が認知している内容が単にブランド名だけなのかそれともブランドの戦略的ブランド・エクイティまで認知しているのかで消費者の購買行動に決定的な差を生み出す
・Aided AwarenessとUnaided Awareness。後者の中でもTop of mind brand awareness
・Store Keeping Unitの最適化という観点(パンテーンの種類の話)。消費者のプリファレンスに合わせたSKU数の種類配分の重要性
・マーケティングにおける大目的は自社ブランドの市場全体における魅力度(プリファレンス)の拡大であって、セグメンテーション、ターゲティング、差別化などはあくまでその手段に過ぎない。ここを勘違いしてはいけない
・プリファレンスの正体はブランド・エクイティ、商品パフォーマンス、価格
・1人目の恋人は忘れられなくても、2人目の恋人を忘れるのには苦労しないのが人間。一度所有した強固なエクイティはなかなか陥落しない
・手段として差別化が使われるが、これはあくまで市場全体におけるMを増やすためにやるもの。資生堂のTSUBAKIはあっぱれな商品であった
・水を売るマーケターにとって勝負になるのは製品パフォーマンスではなく、ブランド・エクイティの増強
・人間は意思決定を避ける生き物
・プリファレンスの構成要素のブランド・エクイティはそのブランドの提供する便益と市場への参入時期に影響される。同じような便益で、あまり製品のパフォーマンスが変わらないのであれば、既にエボークト・セットに入っているブランドの方が有利 -
読書メモ
・マーケティングには本書で紹介されているUSJのハリーポッター施設導入のような、本来絶対に失敗できない領域が存在する
・そのようなケースにおいて重要なのが、「合理性で担保されている領域を大きくすること」
・上記を加味すると、戦略として注力すべきなのは①プレファレンス②認知③配荷の3つ
・その中でも最も注力して取り組むべき項目が、プレファレンス
・プレファレンスはNBDモデルを使って分析,予測が可能
・NBDモデルは、「M(一定期間内の自社ブランドに対する一人当たりの投票数)」と「K((消費者の購入確率がどのような分布の形になるかを決めている指標)」で、マーケターがコントロール可能なのは、「M」のみ
・M=プレファレンスは、1)ブランド・エクイティー,2)価格,3)製品パフォーマンスによって決定される
・プレファレンスを決定する3つ要素で最も重要な項目は、1)ブランド・エクイティー
・ブランド・エクイティーは競合との相対で決定される。(消費者の重視点を押さえているブランドは何か?それを保有しているのはどのブランドは?)その為、消費者の頭の中を想像して、自社のポジショニングを規定する。
・ポジショニング設定後の戦略作成においてよくあるのは「差別化」だが、その目的は「M」を増やすこと。それを忘れずに。
・プレファレンスを延ばす方法は2つ。一つは、水平拡大(ファンの数を増やす)。もう一つは、垂直拡大(一人当たりの頻度を単価を上げる)。垂直拡大よりも水平拡大の方が成功する場合が多い(市場の大きさ故)
・戦略規定においては、まず目標を明確に規定する。その上で、目標達成時と現状のギャップを定量化し、必要な「M」の数量を明確にする
・上記のように目的および目的達成に必要な要素を定量化して規定すれば、各アクションの必要性を確立に基づいて規定できる。そうすれば、感情ではなく理性に基づいてマーケティング上の意思決定ができる(日本人はこれが苦手というのが森岡さんに主張)
・戦略家は、A)戦果最大化の為に自分の時間をどこに集中するか?B)戦果最大化の為に他人の時間をどこに集中するか?の思考に注力すべきで、戦術の実行に意図なく入りすぎるべきではない
・上記のような確率思考マーケティングを実現するためには、そのための組織になる必要がある。それはマーケターが会社の意思決定に入り込むこと、経営陣がそれを許容すること等。とにかく消費者志向。加えて、思考の異質化がなされたチーム構成が必要。調査部とマーケ部は直つなぎ。 -
著者の森岡さんの凄まじい脳内の宇宙を、とても我々に分かりやすい言葉に落とし込まれていて新しい発見ばかりだった。ビジネスを行う上で、そのどれもが数式で記述できることを知って、説得力しかない。
※数学が不得手、文系の方でも読めると思います。 -
P&G出身のとんでもなく大きな結果を残したマーケターによる数学的マーケティングの考え方がわかりやすく紹介されており非常に面白い。
しかし、私自身きになるところには線を引くタイプだが、本にすでにかなり太い下線が初期設定で付いていて、逆にすごい気になった。最近のビジネス本の流行でしょうか、、? -
著者の熱い思いが伝わってくる良書。
計画は感情を廃して、冷静に客観的に数値とファクトと確率論で打ち手の有効性を検討し、打ち手が決まれば強い思いをもって遂行することが大切とのこと。
正直、数式については理解しきれていない部分が残っているが、売上を構成する要素についての概略は理解できた。プレファレンス(好意度)が上限値となり、認知度と配荷率が制約条件になるということや、需要予測の考え方などは、言われてみれば納得だが、そんな角度で捉えたことがなかった考え方であり、面白かった。もう一度ゆっくり読んでみたい本。 -
素晴らしい良書でした。
マーケティングの本ですが、胸に刺さる言葉がたくさんありました。
個人的には、今西さんが担当されている市場調査などの部分などが理解するのが難しく、流し読みになってしまいました。私は文系で頭も良くないので、そこを読み解くのが困難でしたが、マーケティングに明るい方や数字に強い方は理解できると思います。
森岡さん、今西さんの熱意を感じる一冊でした。
今後も読み継がれていって欲しい名著だと思います。
この本を読んだ人々が会社、組織を発展させ、日本経済が発展していきますように。
-
とんでもない本だ。全マーケター必読だなぁ。
ど頭に明示される「市場構造の本質は消費者のプレファレンスである」を確率と数学的根拠を用いて立証し、実務とケースに落としながら詳説。概念としては単純だけど、膨大な思考と理論の轍が包含されていて、とにかくすごいの一言 -
マーケティングを行う際にどこの数値に注力しながら、グロースさせていくかという本でした。ネタバレをするとプリファレンスという数値を最大化することが重要と書かれているのですが、どちらかというとリアルマーケットだったり、中小から大企業に当てはまる話なのかなと思いました。 ベンチャーやweb業界はもう少し良い公式が存在しており(数あるサービスからプリファレンスを伸ばすというのはあっているはず)、組織の動かし方も変わってくるのではないかと思いました。