作品紹介・あらすじ
「あの日、あの瞬間がすべて。時間よ、止まれ」あたし、月夜は18歳。紫の瞳、狼の歯を持つ「もらわれっ子」。ある日、大好きなお兄ちゃんが目の前で、突然死んでしまった。泣くことも、諦めることもできない。すべてがなんだか、遠い-そんな中、年に一度の「UFOフェスティバル」が。そこにやってきた流れ者の男子・密と約。あたしにはどうしても、密がお兄ちゃんに見えて-。少女のかなしみと妄想が世界を塗り替える。そのとき町に起こった奇跡とは。
感想・レビュー・書評
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表紙に惹かれて手に取ったけど、読み始めたら物語にどんどん引き込まれていってあっという間に読み終わってしまった。主人公の月夜にイライラしてしまうところもあったけど、月夜と同化?できる文章で物語が書かれていたから、不思議な感じで面白くてスラスラ読めた。月夜の秘密は想像通りだったけど、奈落が見た最後の夢が切なすぎて涙がポロリ。
とにかく密と月夜の関係性がすごく好き。密と約のも。お父さんも兄貴もお兄ちゃんもイチゴ先輩も高梨先輩も約も好き。個性的な人たちがいっぱい。
ハッピー・エンドゥとか苺苺苺苺苺とか所々笑える要素もあった。死と向き合って認めて、終わりがはじまり。桜庭一樹の他の作品も読みたくなった。(2023.8.)
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ある日突然目の前で愛する兄奈落が死んでしまった月夜。喪失感と罪の意識で亡き兄の幻が見える。秘密を抱えて生きる葛藤。
アーモンド味のキスが切ない。
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受け入れられない死。
誰かに懺悔したくとも、何から伝えればいいのか一人では考えきれないだろうな。
忘れることなど出来なくても、想い出にしていくことは出来るだろう。
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幽霊系のお話は、前向きになれた時点でお別れが来てしまうから本当に切ない。
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酒井駒子さんの表紙に惹かれたものの
個人的に一人称での文体が好みではなかった。
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作風がファンタジー寄りなせいか、ライトノベルのようで自分には合わなかった。
何を読まされたのだろう…と考え込んでしまう。
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読了後、なんとも言えない気持ちになる。
兄の死の原因は何となく予想がついたが、それをどう明かして行くのか、オチをどうつけるのか、その進め方が私にはハマった。
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可愛くて切なくて真っ暗の中にキラキラしたのが散らばってるみたいな小説
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いろんな思い出があった。その一つ一つが、思いだすごとに強く胸に響いたけれど、その痛みは、昨日まで抱えていた、空虚で出口のない、あのおそろしい苦しみとはもうどこかちがっていた。悲しみの中にもあきらめが、痛みの中にも消えることのない愛情が、失った過去の情景の中にも未来への希望があったのだ。この悲しみはずっと胸にあるけど、きっと止まることなく歩いていけるはず、と思った。(本文より)
読んでいてシンクロするところが多い。フッと死にたくなるけど、この美しい世界にずっと居させて欲しいとも思う、そんな世界観。
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桜庭さん、たぶん二冊目?
周りを砂漠に囲まれた小さな町。忘れ去れたような、少し寂れた町。そこはUFOがくることで少し有名になった町。夏にはそのお祭りでたくさんの外の人たちがやってくる。みんなが浮足立つ、夏の暑い日に、中学三年生の女の子、月夜の兄は死んだ。「ぼく、ずっと月夜にいいたかったことがあるんだよ」そう言ってアーモンドによるアレルギー発作を起こし死んでしまった。19歳の、誰よりもかっこよくて、優しくて、明るい男の子、すてきなあの男の子。先生をしているお父さんが遠足先で見つけた月夜を拾って前嶋家の一員にした。紫の目をして鋭い犬歯をもった女の子、発育不良だと笑われることも、演技っぽいと友達に喧嘩になっても、変わらず優等生をやってきた月夜。月夜は、えいえんに奈落がだいすき。父も兄も、おにいちゃんの奈落の恋人で月夜とは宿命的に合わないイチゴ先輩も、誰もが奈落の死を悲しみ、それでも前に進もうとしているなか、けしてそれを良しとしない月夜は、なりふり構わず悲しみを吠える。
それが現実を歪めていく。
そして起こる、UFO祭りの本番、死者は生者に目を合わす。「ぼくの、パープル・アイ」
桜庭さんの、独特の文体がまるで月夜への感情移入を拒絶しているように思えた。町の全体像も、砂漠の真ん中にポツンとあるという町の設定も、御伽噺めいていて距離を置くように感じる。月夜の、大切な人が死んだことを受け入れたくない、前に進みたくない、未来も、希望もいらない、たったひとり奈落が、おにいちゃんがいてくれたら。そういう感情が振りまく、マイナスを様々な人たちが振り払っていく。私は月夜の気持ちが痛いほどわかった。分かった、と言ったらきっと月夜はきょとんとするだろうけれど、誰よりも大切なひとが死んでしまったら、自分の世界がどんなに残酷に変質するのか私は知っている。そこから這い出ることが、どんな苦しいことか。生者に助けてほしいと叫んでいるのか、死者に一緒に連れて行ってくれと悲鳴を発しているのか、分からなくなる毎日がを送りながら、やがて迎える月夜の夏の終わりが、とても穏やかで本当に良かった。
著者プロフィール
1971年島根県生まれ。99年、ファミ通エンタテインメント大賞小説部門佳作を受賞しデビュー。2007年『赤朽葉家の伝説』で日本推理作家協会賞、08年『私の男』で直木賞を受賞。著書『少女を埋める』他多数
「2023年 『彼女が言わなかったすべてのこと』 で使われていた紹介文から引用しています。」
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