悪魔が来りて笛を吹く (角川文庫)

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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  • Amazon.co.jp ・本 (472ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041304044

感想・レビュー・書評

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  • 横溝正史でも特に有名な作品のひとつだが、個人的には陰鬱さや得体の知れない恐ろしさではトップクラスではないかと思う。人物達の関係性は時代を考慮すればありそうな話ではあるし、実際にあったことでもある。それをフィクションとして練り上げまるで実際に起きた事件のように錯覚してしまうほど現実的だが、ある意味「小説のような終幕」によってこれはやはりフィクションなのだと再認識する、これが作家の力なのかと思い知った。
    作中の密室殺人やその他のトリックは捻りがあり難解という訳ではなく、あくまでこの作品の最大の魅力は人物同士の複雑な関係性や人の心の奥底にある恐ろしさや浅ましさといった負の側面の塊が要所要所で垣間見えるところではないかと思う。

  • 横溝正史の面白さがわかって6冊目が本作です。最初は展開がゆっくりで、なかなか読み進めなかったが、金田一耕助が西に行くあたりから、どんどん読み進めました。生きているはずがない人が、生きているかもしれないという不気味さがじわじわと感じられてきて、新しいことがわかると、○○と○○は、本当の親子なのだろうかとか、○○の素性がはっきりせず怪しいとか、いろいろ考えながら読めました。そして、クライマックスも、想像を上回る展開でした。また、ラストで、犯人の手記が出てくるところで、島田荘司の「死者が飲む水」を思い出しました。犯人がそうしなくてはならなかった事情が丁寧に描かれています。その一方で、事件の舞台が田舎の閉鎖的な村ではなく、都会の華族社会である分、怖さはあまり感じませんでした。それでも、至る所に事件の伏線が隠されていて、読みながら考えられる面白さがあると思います。

  • 横溝正史らしい血縁関係の乱れに起因する動機でした。
    大体そうですがこういった話が出てくるとホント好きですね……という感情になります。金田一シリーズってこの味を求めて読んでるとこあるな〜

  • #読了 キャラクターも時代背景も舞台設定もとても好みだった。夢中で読んだ。
    読んでいる途中で「自殺へ追い込むほどの秘密って何?」って見当もつかずに読んでいたんだけど、途中でもしかして……と思い始めてからは、ますます重苦しい気持ちになってしまう。
    自覚をもって一線を越えてしまう二人はどうかしてるし、知らずに踏み越えてしまった二人はただただ悲しい。前者の二人だったら「そういうことをしそうだね」って読者を納得させる描写はすごいなー。

  • 金田一耕助シリーズ5冊目。タイトルは知っていたが、内容は全くの初見である本作、『悪魔が来りて笛を吹く』を手に取ってみた。

    「美禰子よ。父を責めないでくれ。父はこれ以上の屈辱、不名誉に耐えていくことは出来ないのだ。由緒ある椿の家名も、これが暴露されると、泥沼のなかへ落ちてしまう。ああ、悪魔が来りて笛を吹く。父はとてもその日まで生きていることは出来ない。美禰子よ、父を許せ。」―――娘・美禰子へこのような遺書を遺し、命を絶った椿元子爵。しかし、美禰子の母・秌子は夫がまだ生きているのではないかと疑っており、その疑惑を裏付けるように、元子爵に似た人物が周囲で目撃される。そして不気味に流れるは、元子爵が最期に遺したフルート曲「悪魔が来りて笛を吹く」。退廃した旧華族が生み落とした"悪魔"による惨劇が幕を開ける―――。

    戦後日本の混乱期を舞台に起こる惨劇、明かされるは旧華族の忌まわしき罪業。ざっくりとした事件の全体像は予想し易く、そこまで意外性のある展開ではなかったが、「悪魔が来りて笛を吹く」―――この曲に込められたメッセージは全く予想できなかった。これが明かされるラストシーンには総毛立った。読者の記憶に刻みつける至高のラスト。

  • 東京のお屋敷が舞台だから、おどろおどろしい雰囲気は無いなぁと思っていたら、とんでもなくおぞましく悲しい結末が待っていた。後味の悪さでは他を凌駕しているかも……。
    すべて終わった後に、椿元子爵の遺したメッセージの意味が分かったのが切ない。特定の指を使わずに演奏できる曲というのはまったく想像していなかった。正にタイトルの通り、最後にこの曲の謎を解いて死んでいく治雄が哀れだ。

  • 一番おぞましい話だった。想像とどうか違ってくれ~と思ったら当たってしまい最悪な気分。ていうか過ちを知らなかったならまだしも、現在進行形でやってるところが本当に気持ち悪い。そりゃ椿子爵も病みますわ!
    すごい読み進めるの遅かったのは、なんででしょうか。
    誰のことも好きになれなかったからかしら。

    最後の笛を吹くシーンはぞくりとしました。
    すごい……。

  • 爛れた人間関係の中で殺人事件を起こすことでは右に出る者がいない横溝正史。今作も見事なまでに、いくら創作とはいえ、ここまでケダモノじみた人間ばっかり出てくる世界を終戦直後の日本に置いていいのか?というような状態になっている。この人の小説だけ読んで、戦後の没落、衰亡しつつある華族の生活を読み取ろうとすると、歴史をひどく読み違えてしまうのではないか、と不安になったりもする。

    今作は、実際に起きた天銀堂事件という毒殺事件もストーリーに織り込まれているので、余計に「本当に起きた事件なのではないか」という気にさせられてしまう。舞台は70年以上も昔の日本なので、事実と創作が交じり合い、真実を読み切れないという意味で、当時のことが全く分からない2022年の今になって読むのがちょうどいいのかもしれない。

    フルートを吹くことぐらいしかできず、戦後の世の中に馴染めない旧華族の子爵の失踪。子爵が失踪前に作曲したフルートの曲が流れるたび、子爵の家の者が次々と殺されていく。殺人は子爵の家に留まらず、遠く関西にまで広がっていく。金田一耕助は殺人を追い、子爵の家族の来歴を追い、姿の見えない殺人犯を追っていく。

    今作の登場人物たちはほとんどが子爵の家に限られているのと、かなりの人数が殺されて姿を消していくのがあり、終盤になれば殺人犯を指摘するのはそう難しくない。序盤から中盤にかけ、殺人犯を特定できる「あるヒント」が何度か出てくることもあり、「犯人を探し出す」という推理小説の目的の一つは達成できる読者も多いと思う。
    しかし、犯人の生い立ちや子爵家の人々を殺していく動機までを読み切るのは難しいだろう。それぐらい、この作品には横溝正史の尋常ならざる想像力と「エグさ」が満ち溢れている。

    最後の幕引きの場面は、いかにも金田一耕助モノらしい犯人の末路が描かれる。というか、横溝正史は「この幕引きの仕方」しか知らないんじゃないか、というぐらい、他の作品と同じような運命を辿っていく。この儚さが、ややマンネリとも言えるが金田一耕助モノの読後感を寂寥としたものにする一つの理由だろう。

  • はじめての横溝正史。犬神家の一族を読みたかったが、図書館になかったので、タイトルだけ聞いたことのある本作を読むことにした。舞台が戦後であり文体も少し古いが、今も衰えない名作だな、と思った。
    伏線だろうな、というところが分かりやすく、それをきちんと回収してくれて読んでいて楽しかった。
    斜陽一族というのがミステリーとの相性がいいのか面白かった。他作品も読みたい。

  • 中盤に場面が明石、淡路に移ったあたりから盛り上がってきて、怒涛の展開で一気に読んでしまいました。
    終盤、人間関係が複雑で混乱したけど、細かい設定も凝っていてとてもおもしろかったです!

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著者プロフィール

1902 年5 月25 日、兵庫県生まれ。本名・正史(まさし)。
1921 年に「恐ろしき四月馬鹿」でデビュー。大阪薬学専門学
校卒業後は実家で薬剤師として働いていたが、江戸川乱歩の
呼びかけに応じて上京、博文館へ入社して編集者となる。32
年より専業作家となり、一時的な休筆期間はあるものの、晩
年まで旺盛な執筆活動を展開した。48 年、金田一耕助探偵譚
の第一作「本陣殺人事件」(46)で第1 回探偵作家クラブ賞長
編賞を受賞。1981 年12 月28 日、結腸ガンのため国立病院医
療センターで死去。

「2022年 『赤屋敷殺人事件』 で使われていた紹介文から引用しています。」

横溝正史の作品

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