少女地獄 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041366059

感想・レビュー・書評

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  • まずこの本は短編集です。
    その中でも表題の「少女地獄」の感想になります。
    「少女地獄」は「何んでも無い」「殺人リレー」「火星の女」の三作で構成されています。この中でも「殺人リレー」は先に発表され、後から「何んでも無い」と「火星の女」と共に一つの本となって刊行されました。
    書簡形式で書かれた作品ですが、同じ書簡形式をした短編は同じ著者だと「瓶詰めの地獄」がありますね。

    閑話休題。

    私がこの中でも一番好きな話は「何んでも無い」になります。私自身、虚言癖があります。なので、この「何んでも無い」のユリ子という彼女の嘘とその末路が美しくも鮮やかで寂しくて大好きです。
    嘘つきにはロクな死に方は求められません。ユリ子は自殺“したことになっている”のです。ユリ子は主人公への書簡の中で死んでいます。これはユリ子という人格の死に他なりません。
    実際に“ユリ子”にあたる人物が死んだかはわかりません。そこが、この話の美しさなのです。
    嘘という言葉で構成されたユリ子の、最高の結末は、言葉による嘘でなければ、物語は終わることができないでしょう。

    なお、この「何んでも無い」は映画化されたようです。気になる方はそちらもどうぞ。

  • 暑さに噎せ返るような感覚を覚えた。背中を撫ぜるような不安感。だけど話はするする読めるし情景も想像しやすい。『ドグラ・マグラ』を読んだ時はどこまで何を読んだか思い出せなくて苦労したけど読みやすさに驚いた。

  • 初めて夢野久作氏の作品を読みましたが、とても良いですね、全てにおいて美しいと感じます。
    谷崎潤一郎が好きなので、夢野久作の作風にも見事にハマりました。
    こう書くと色んな所から批判を浴びそうですが、まずサブカル女(私も含め)は、この手の作品が好きでしょうね。サブカル女をもっと分かりやすく伝えると、岡崎京子の漫画をバイブルにしているような人間といえば分かりやすいでしょうか。

    複数の短編作品が収録されていますが、1番読みたかった目当ての作品は「何でもない」でした。
    ですが、いざ読み終わってみると…うん、どれも好きだ!!!!
    何処か物悲しく、けれども愛らしさもある作品ばかりでどストレートに揺さぶりかけられました
    これを機に色々彼の作品を読んでみようと思います

  • 妖しい雰囲気。この年代の小説は、だから面白い。

  • 表題作含む4作品が収録されているのだが、特にこの少女地獄が面白い。というか…ぉおという声が漏れるこの後読感。比べるのもアレだがドグラ・マグラより好みである。夢野久作は短編の方が良い感じです。

  • 短編集なので、内容的にも長さ的にも読みやすかった。
    ところどころで大正~昭和初期の世相が描写されているのが、なかなかよき。
    一番のお気に入りは「鉄鎚」。
    ラスト一文の解釈が気になるところだけれども、主人公の名前が「愛太郎」というのが一番面白い気がする。

  • 巻末の解説では手厳しく言われていますが「火星の女」と殿宮アイ子の関係が私は好きです。

  • 「少女地獄」という、タイトルだけ見ると誤解されそうな作品。
    まあでも夢野久作だから誤解もなにもその通りというか。

    ともかく少女地獄、地獄のような少女だったり地獄に落とす少女だったりと、表題の中に3つの短編「何んでも無い」「殺人リレー」「火星の女」が含まれている。
    これが割と分かりにくく、特に「殺人リレー」は同じページで「何んでも無い」が終わるので、あれ?続くの?でも内容が違うなぁとか無駄に混乱してしまった。

    ドグラ・マグラから入った人に分かりやすいのは最初の「何んでも無い」だろうか。騙し騙されの繰り返しで脳髄がやられていく感じ。あれを求めて自分は夢野久作を読んでいるのだが、そういう人は多いだろう。
    でも、嘘がバレそうになって恥じる姫草ユリ子はすこしばかり可愛いなと思うのです。

  • 表題作が一番面白かったな。不利な状況になってもそれを利用して新たな嘘を作り上げるのが、巧みで面白かった。
    殺人リレーや火星の女は、女性の心情の描写がありえなくて冷める。ストーリーは、読んでいる間はなかなか複雑で面白い気がするのだが、後で整理してみると、この要素要る?ってのが多い。解説にも書いてあったが、殿宮アイ子の存在が蛇足だったような。
    女坑主は、女傑と理想に燃えた美青年という組み合わせがなかなか良かったな。「畜生…覚えておれッ」とか言われるの、かっこいい。

  • 「何んでもない」という短編が良かったです。

    何処にも桃源郷がないのなら 
    お創り致しませう

    上は椎名林檎の曲「葬列」の歌詞ですが、そんな感じのお話。
    夢野久作では「ドグラ・マグラ」も大好きな作品ですが、この作品が一番好きかもしれないです。
     まず、言葉遣いが良い。まさに大正ロマン。
    文章にしっとりとした可憐な色香を感じます。
     ドグラ・マグラが逸脱した「キチガイ地獄」ならば、少女地獄は元来人間なら誰しも持つような日常的な感情が肥大して生まれた狂気を描いています。その感情とは、『人によく思われたい』。
     姫草ユリ子は、すべての人間に好意を抱かせる、生まれも育ちも良い、噂の天才美人看護婦。だけどその実態は天才的な虚言癖。
     ユリ子が自分のイメージを獲得するために必死な様子は人間くさくて哀しく、それだけにいっそう不気味です。ユリ子ほど天才的とはいわずとも、真の狂気とは人間らしい欲望の中にあるのかもしれません。
     多くの人間が持っている要素と、狂気への紙一重に戦慄しつつそれがクセになる…そんな不思議な感覚を覚えます。
     嘘をつけばその嘘を守るために嘘を重ねなければならず、限界に達したときユリ子は自殺する。すべてを虚構で塗り固めたユリ子にとって、その仮面が剥がされるのは自ずと、自分が死ぬのと同じことだったのだと思う。囚われたらさいご命すらあやうい魅惑の地獄。
    少女というのも実は嘘ですが。
     ユリ子はすべての人を虚構で魅入らせ、自分自身も虚構に魅入られて、虚構のうちに散った。何が幸せかは人それぞれで、「何んでもない」それも、寂しいですがひとつの生き方だったのかもしれません。築き上げた桃源郷を守ろうとした姿は哀しくもいじらしく、周りの人間も、嘘をつかれているのを分かっていて、その桃源郷を一緒に守ろうとした。狂気めいているのにこの温かさはなんだろう、不思議な世界観です

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著者プロフィール

1889年福岡県に生まれ。1926年、雑誌『新青年』の懸賞小説に入選。九州を根拠に作品を発表する。「押絵の奇跡」が江戸川乱歩に激賞される。代表作「ドグラ・マグラ」「溢死体」「少女地獄」

「2018年 『あの極限の文学作品を美麗漫画で読む。―谷崎潤一郎『刺青』、夢野久作『溢死体』、太宰治『人間失格』』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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