砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784044281045

感想・レビュー・書評

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  • 砂糖菓子という甘ったるい言葉とは裏腹にそこにある現実がなんともいえない。甘ったるい弾丸は甘ったるくなくて、それでもなお撃ち続ける藻屑とリアリストな主人公の対比が好き。

  • 実弾にしか関わらないと決めている主人公なぎさと、嘘に塗れた砂糖菓子の弾丸を撃ちまくる海野藻屑、場を乱す花名島、紳士の友彦、そして狂人雅愛。序盤は藻屑をおかしな女としか思わなかったけど、終盤、なぎさが藻屑を真似てミネラルウォーターを飲み、鉱物っぽい変な味がして、「いつまでもこれを飲んでものどの乾きは収まらない気がして、あたしはミネラルウォーターのペットボトルから唇を離しながら、ああ、これが海野藻屑の正体だったのだと思った。」という描写に強く共感した。
    この世が嘘だったら良かったのに。生まれた"後"、赤ん坊の時点で片足の股関節が障害になり、片耳の鼓膜も破れ、どんな幼少期を過ごしてきたか。
    当たったらヤバイクイズも正解した雅愛。
    ストックホルム症候群。

  • "ぼくはですね、人魚なんです"
    "その子は砂糖菓子を撃ちまくってるね。体内で溶けて消えてしまう、なぎさから見たらじつにつまらない弾丸だ。"
    "ぼく、おとうさんのこと、すごく好きなんだ"
    "好きって絶望だよね"
    "山田なぎさは、飼育係"
    "あたしたちにはまだ、自分で運命を切り開く力はなかった。親の庇護の元で育たなければならないし、子供は親を選べないのだ。"
    "あたしは藻屑にはまっていた。かわいそうで、苛立たしくて、きれいで、汚くて…。"
    "もうずっと、藻屑は砂糖菓子の弾丸を、あたしは実弾を、心許ない、威力の少ない銃に詰めてぽこぽこ撃ち続けているけれど、まったくなんにも倒せそうにない。
    子供はみんな兵士で、この世は生き残りゲームで。"
    "あほな評論家みたいなこと言うな!なにが病魔だ、歪みだ。関係ねぇよ!子供を殺すやつなんて頭がおかしいんだよ!それだけだろ?現代も糞もあるか、ばか"
    "だけどなぁ、海野。おまえには生き抜く気、あったのかよ……?"
    "生き残った子だけが、大人になる"
    "砂糖でできた弾丸では子供は世界と戦えない。"


    初めて読んだ時はかなり衝撃を受けた作品。
    まずこのタイトルのつけ方がすごい。「どういうこと?」と思うが、このタイトルには残酷なまでの現実が意味として込められている。

    子供は無力だ。だから大人が守らなければいけない。その守るはずの大人が敵だったら子供はどう戦えば良いのか。
    何の力もない武器を持って戦うしか方法がない。それが、現実。

  • その日、兄とあたしは、必死に山を登っていた。見つけたくない「あるもの」を見つけてしまうために。あたし=中学生の山田なぎさは、子供という境遇に絶望し、一刻も早く社会に出て、お金という“実弾”を手にするべく、自衛官を志望していた。そんななぎさに、都会からの転校生、海野藻屑は何かと絡んでくる。嘘つきで残酷だが、どこか魅力的な藻屑となぎさは序々に親しくなっていく。だが、藻屑は日夜、父からの暴力に曝されており、ある日―。直木賞作家がおくる、切実な痛みに満ちた青春文学。

  • 「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」は、 直木賞作家桜庭一樹の出世作(世間から注目されるきっかけとなった作品)。

    主人公の名前(海野藻屑)が悲惨。

    元々、富士見ミステリー文庫(2004/11)から刊行されていたが、桜庭一樹が「私の男」で第138回直木賞(2007年下期)を受賞した後、角川文庫(2009/02/25)から再刊された。

    • mayutochibu9さん
      遠い昔に読んだのですが、少女(女性)の心が少しわかった気になりました。
      今、子供たちに役立っているとは言い難い面もありますが。
      遠い昔に読んだのですが、少女(女性)の心が少しわかった気になりました。
      今、子供たちに役立っているとは言い難い面もありますが。
      2019/12/07
  • 桜庭一樹さんの描く少女って、何でこんなに惹かれるのでしょうか。少女たちが魅力的で、だからこそ、とても苦しくなりました。

    語り手山田なぎさと転校生海野藻屑は、二人とも、中学二年生の少女です。そして二人とも、“不幸”でした。山田なぎさの不幸は“海野藻屑とは比較にならないぐらい平凡でありきたりでよくある貧窮”ですが、二人には“一つの共通点”がありました。それは、“十三歳ではどこにも行けない”、“自分で運命を切り開く力は”(p136)ないことです。

    “子供はみんな兵士で、この世は生き残りゲームで”、“藻屑は砂糖菓子の弾丸を、”なぎさは“実弾を、心許ない、威力の少ない銃に詰めてぽこぽこ撃ち続けているけれど、まったくなんにも倒せそうにない”(p139)のです。

    “生き残った子だけが、大人になる。(p188)”そんな当たり前のことを、思い知らされました。

  • 読書好きでちょっと狂気的な趣味を持つ子が当時一番好きだった本。
    おもしろくってこわかった。
    こういう形もあるんだと、衝撃だったと思う、中学三年。
    ただ、あの子の書いた書評というか紹介はグッドクオリティだった。と思う

  • 何年か振りの再読。
    海野藻屑という名の、それだけで親からの扱いが想像できる中2の少女が、バラバラの遺体で発見された新聞記事で、物語は始まる。藻屑はなぜ殺されたのか、主人公の目を通して語られていく。

    主人公は、彼女のクラスメートで唯一の友人でもある少女。引きこもりの兄を抱えた貧しい母子家庭に育ち、中卒後はお金を稼ぐために自衛官になることを決意し、あえて心に蓋をして日々を過ごしている。
    厳しい現実と向き合っている彼女が切望しているのは、実弾(お金)だ。

    一方の藻屑は、家では父親からの深刻な暴力にさらされる日々。おそらく、歪んだ愛情に心身ともにがんじからめにされていたのだと想像される。たかが13歳、無力で太刀打ちできるはずもない。
    学校で繰り返す嘘と奇行は、砂糖菓子の弾丸であり、藻屑の悲鳴であり、SOSでもある。未来には徹底的な破滅しかないことがわかってはいるけれど、何とか助かってほしいと願わずにはいられなかった。

    作者は、この無残でやりきれないストーリーを、さらさらとした文章で進めていく。最初はラノベとして発表されたそうだが、今では高い評価を受けて代表作のひとつとなっている。粗削りだけれど、キャラクターも秀逸で、ぐさぐさと胸をえぐる強烈な印象を残す作品だ。

  • 奇妙だと思った藻屑は綺麗な人間だった。

    私は、藻屑は綺麗な人間だと思った。綺麗で気高く………だけど、愛に飢えてるどこにでもいる女の子で人間だった。

    虐待を受けた子供の古典的な姿が書かれていたと思う。作者さんはとても上手に書いてくれたと思う。


    イメージは海。夜の海岸。紺色のような黒のような少し青い夜の海の水。雨。厚い灰色の雲。雨に濡れそぼった森。読んでて頭の中にパッと浮かんだ。

    安心ってなんだろう?藻屑となぎさの疑問は私も一緒になんだろう?と考えた。
    安心ってなんだろう?その通りだと思う。私も安心がわからなかった。藻屑もなぎさも無意識に安心を探しているのだろうと思った。

    美しい藻屑像は簡単に想像できた。だけど、あんまりにも呆気ない終わり方だった。友彦も何かに苦しんでいた事が嘔吐により暴露された。泣きじゃくるなぎさが本当の十三歳らしさが現れた気がした。この本に出会えて良かった。勧めてくれた先輩に感謝。

  • モラトリアムの話。読み終えて自分はそう解釈した。

    山田なぎさは母子家庭に育ち、しかも兄が引き籠もりという困窮した家庭環境のため、一日でも早く自立して家族を養う手段を求める。過酷で厳しい現実の人間社会に立ち向かう武器、つまり安定した収入や地に足の着いた生活手段が彼女の言う「実弾」であり、それ以外の普通の中学生が経験する青臭いものは自分には享受する余裕はないから不要と割り切っている。

    一方、海野藻屑は自分を人魚だと言い放ち、奇行と嘘の限りを尽くして周りを煙に巻く。なぎさの目には最初は自分から最も縁遠いブルジョワの道楽にしか映らなかったが、言葉を交わして時間を共有するにつれて、藻屑もまた過酷な闘いを続けていることを理解し、惹かれて行く。親からも愛情を寄せられず、それどころか日常的に虐待を受ける身にとって、自己のおかれた境遇を受け入れ、精神の均衡を保つためには自分自身の精神構造を変形させる、つまり進んで狂人になる他なかったのだろう。それは食べるための闘いではなくとも、ある意味それよりも過酷な生きるための闘いには違いない。

    だけどそうして切実な狂気を包んだ砂糖菓子の弾丸はあまりにも弱く、結局藻屑は大人達にそれを届けることなく、悲劇の最後を迎えてしまう。
    そして、一時なりとも心を預けた藻屑=砂糖菓子の敗北を知ったなぎさは、自分が大人になり実弾を手に入れたときに、砂糖菓子しか持たない子供を大人の感傷から他人事として懐かしむではなく、彼らが実弾を手に入れるその日まで砂糖菓子の弾丸を大事に守って行くことの助けになってやろう。そういう大人になろうと強く願うことになる。

    別に虐待された過去など無いが、自分の経験に照らしても、社会人になる前と後では悩みの種は全く違う。そして、前者の悩みは後者から見れば「贅沢な悩み」なのかもしれない。それでも誰もが真剣に悩んでいる。自分自身、子供時代の取るに足らない悩みだって、当時は世界の全てと思うくらいに真剣で本気だった。そのときの気持ちを忘れてはいけない。幼いままでいる必要はないが、幼い日の自分を自分の中で否定するのではなく、懐に抱えて成長していかなければ。

    そんなことを益体もなく考えた一冊だった。

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著者プロフィール

1971年島根県生まれ。99年、ファミ通エンタテインメント大賞小説部門佳作を受賞しデビュー。2007年『赤朽葉家の伝説』で日本推理作家協会賞、08年『私の男』で直木賞を受賞。著書『少女を埋める』他多数

「2023年 『彼女が言わなかったすべてのこと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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