日本人のしつけは衰退したか (講談社現代新書)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (214ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061494480

感想・レビュー・書評

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  • 良い本ではあったのでしょうが、ちょっと古い知見・・・問題定義なので、
    いま読むと、教科書以上のことが書かれている気はしない、というところです。

    問題提議本の常套であり、またその為に「教科書的」に感じられるわけですが、この本では
    「"過去との比較において"、現代の「家庭の教育力」は低下しているのか?」
    という通時的な比較検討を行っています。

    比較対象になるのは、戦前(ざっくりと明治の学制導入後)~高度経済成長期までの「家庭の教育」です。

    (比較分析としての甘さが感じられるのは、学校教育に対置される村(地域)社会による教育を語るときの、「学校」、「村」が大分曖昧であること。
    このあいだ『試験の社会史』を読んでいて(あれは読み物としては細か過ぎて疲れましたが)、「小学校」も、特に「中学校」は短い期間に大きく位置づけを変えていることが書かれていたせいですが・・・)

    後に挙げる本田先生の著書のように一一データの前提が示されるようなものではなく、卒論くらいのノリでザクザクと「その時代の本・雑誌の題名」とか「その時代の学者はこう言っていた」ということが並べられるだけなので、ちゃんと学問的に見たら突っ込みどころがあってもおかしくはないんじゃないか、という気がしないでもないです。

    ただ、
    「きちんと歴史的な変化をふまえると、いま一般に言われているような「家庭の教育力の低下」、「むかしのしつけはしっかりしていた」という言説はノスタルジックな事実誤認を多く含んでいる。」ということ、
    そしてあまり「家庭の教育力の低下」を言い立てることは、「パーフェクト・ペアレンツ」への脅迫観念を多くの親たちに植えつけ、追い詰めることになるのではないか?

    また「家庭の教育力」を言うとき、それぞれの「家庭」により異なる状況、とくに階層格差が無視されている。
    実際には(主に階層に相関して)家庭ごとに可能な「教育」には違いがある。
    「家庭の教育力」を問題にするとき、それは「昔といま」の違い以上に、
    「中流」意識のもとで見えなくなっていた、階層ごとの違い・格差をこそ問題にする必要があるのではないか?

    といった問題提議は、その後の教育社会学において主に議論されている内容につながっているのではないかと。


    本当のとこ因果関係は分かりませんが、恐らく前後としてはこの本で提議された問題を踏まえて「では『いま』の実際は?」を突っ込んだところで、
    共に本田由紀先生主著ですが、
    統計データに基づく分析を行ったものとして『女性の就業と親子関係―母親たちの階層戦略』、
    インタビューを主とした質的調査を行ったものとして『「家庭教育」の隘路―子育てに強迫される母親たち』が挙げられるのではないかと思います。
    (殊に『「家庭教育」の隘路―子育てに強迫される母親たち』については、力作であり、実際に母親になろうという一主体としては死にたくなれる本です)

    それに時期的にはこの本の以前~同時期から論じられていますが、教育政策の面から階層問題を扱ってきたのが苅谷先生、なので・・・

    そんなわけで、もうちょい早く読んでいたら感動したかもしれない本でした。

著者プロフィール

1959年生まれ。現在、日本大学文理学部教育学科教授。研究領域は、近現代の教育を広く社会科学的な視点から考察する教育社会学。1997年、『陸軍将校の教育社会史』(世織書房)で第19回サントリー学芸賞受賞。著作に『教育は何をなすべきか――能力・職業・市民』(岩波書店)、編著に『歴史としての日教組』(名古屋大学出版会)など多数。

「2022年 『学校はなぜ退屈でなぜ大切なのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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