- Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062060813
感想・レビュー・書評
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前半の独白部分がよい。平凡な人生も村上春樹のモノローグがつけば文学になるんだろうか、と思った。しかし主人公がなぜこんなにもモテる!という気持ちがじゃまをしてくる…。
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見事な物語。登場人物に、誠意を感じる。あるべき人と人との距離感が描かれている。いまだ文庫本化されていない「海辺のカフカ」を除いて、村上春樹の小説を読破したが、彼は着実にその表現領域を発展させている。それも一作一作。これも学生時代に一度読んだ本だが、その時はどれぐらい内容を理解したのだろうか?おそらくよく分からなかった故に(経験不足から)、これで村上春樹作品への興味を失ったのだと思う。
P291「僕はこれまでの人生で、いつもなんとか別な人間になろうとしていたような気がする。僕はいつもどこか新しい場所に行って、新しい生活を手に入れて、そこで新しい人格を身に付けようとしていたように思う。僕は今までに何度もそれを繰り返してきた。それはある意味では成長だったし、ある意味ではペルソナの交換のようなものだった。でもいずれにせよ、僕は違う自分になることによって、それまで自分が抱えていた何かから解放されたいと思っていたんだ。僕は本当に、真剣に、それを求めていたし、努力さえすればそれはいつか可能になるはずだと信じていた。でも結局のところ、僕はどこにもたどり着けなかったんだと思う。僕はどこまでいっても僕でしかなかった。…ある意味においては、その欠落そのものが僕自身だからだよ。」ここからラストまで続く、主人公と妻の会話はすごい。クライマックスだ。相手を受け入れていく過程がすっと僕の心にも入ってきた。ここまで苦しんで始めて相手が分かる。 -
ここまでくると村上春樹の文章は圧倒的に洗練されていて、名文家という言葉が頭に浮かぶ。自分が書きたいと思ったことを自在に書けるようなレベルに到達したと言っていたけれどもまさしくそんな感じ。柔らかく平易だけれど、深さをきちんと伴っていてよく読ませる。ただ単に平易なのではなくて洗練されたからこそ飾る必要が無い、だから平易なんだとおもう。
扱っているものがいつもと少しだけ違っていて面白い。簡単に言えば不倫のはなしなのかもしれないけれど、毎度のことながらそれは形だけの問題であって本質的に扱っていることはもちろん別なのだけれど、その本質的な部分がいつもよりリアリズムを帯びているイメージ。いつもより少しだけ、私達の実際の生活に密接に関わってくる。いつもより少しだけ、分かりやすい。わたしは本当に村上春樹のリアリズムが大好きなので、この本は凄く読みやすくて久々にのめりこんだ。井戸を掘るということではなくて、さてあなたは明日からどんな風に生きますか、とダイレクトに伝えてくる感じ。たまらなく上手でたまらなく好き。一貫して村上春樹の本に見える孤独について何故こんなに議論に上がらないのかが不思議だったのだけれど、この本も孤独によって成り立っていて、わたしはいつかその一貫性を見いだしたいとおもう。 -
とりあえず物語に関係ない感想をいくつか。
まずこの本は表紙をとった状態が
一番落ち着いて美しい表情だということ。
もうひとつは、こんな風に文章を書けたら
どんなに素敵だろう。と、いつも思いながら
読み返してしまうこと。
読み返すのはこれで3度目か4度目で、
読む度にちょっとずつ薄まっている
感じがします。
他の村上作品はだいたい何度読んでも
最初の時のように読めるのに、この作品は
どこかそんな風に感じます。
それでもやっぱり面白くて手に取って
しまうから、良い作品であることに
間違いなさそうです。
すくなくともぼくにとっては。
そして雨がとてもよく似合う一冊。
もう一月くらい後に読んだ方が
シックリ読めたかもな。
読むのにかかった時間:3時間
こんな方にオススメ:不毛な恋にお悩みの方 -
途中この男が結局どうなろうと全く興味が持てなくなり
止めようかと何度か思ったけど悔しいので
早く終わりにしたくてあっという間に読んだ。
愚かな男が自分に酔ってるだけの退屈な話しだった。
でも、最後の4行はすごく好き。 -
僕の喪失感を取り戻すための不倫物語
僕の喪失感を抱くようになった子供の頃の記述などは、共感を持って読むことができるが、島本さんや妻との会話はすぐには分からなかった。言葉で表現が難しいことを、日常的な非論理の会話で想像させている節があるようだった。
日常の会話で僕や、島本さんのように一方的な会話で共感できることは難しいとは思う。ただ、誰しも持ち得るだろう充実した日常に潜む喪失感という幻想をいかに鎮めるか、という点は面白かった。妻も幻想を殺し、一方島本さんは最後まで現実を拒み、幻想の中でしか生きられなかった。いづみは僕の中の幻想の具体化ともいえる性欲の実現化が現実の他者を傷付け、ずっと解決されることのない例となる。彼女は現実と幻想の区別を出来ないまま苦しんでいる。
最終的に僕は、幻想の青に染まった夜明けの空が光によって消されていった後で、理解ある妻によって肩に手を掛けられて晴れて現実の世界で生きることを決めた。たぶんもしばらくもない世界に。
幻想はそこに浸るのではなく、眺めること、紡ぎ出すことで生活の充実感を満たすことが大事なのだという物語。 -
村上春樹の中でも評価の低い作品だと思うけど、実は僕は好き。
面白いわけではないけど、好き。
そういう感じなのです。 -
読んでみたら、以前にも一度読んでいたようだ。細かいところは覚えていないがあらすじは覚えていた。この話が面白いのかな?あまりぴんと来ません。一人っ子の幼馴染のお話。