怪獣記

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (294ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062140775

感想・レビュー・書評

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  • ちょっと重苦しい読書が続いたので、気分を変えるのに高野さんのを再読する。ガハハと笑ってすっきり。

    アジアとは違うトルコの風景の美しさとか、人なつこい人々の様子が活写されていて楽しく、同時に、クルド人問題のややこしさも他の何を読むよりよくわかる。それだけでも十分一読の値打ちがあると思うが、高野さんには珍しく、それらしきものを「見ちゃう」終盤が大いに盛り上がる。

    高台から見た、ワン湖に浮き沈みする大きな黒い影は、はたして未知の怪獣ジャノワールなのか? それとも、ビデオを見た大学教授が言うように「岩か植物」なのか? それを確かめようと、ワン湖にこぎ出す高野さんの勇姿が傑作。

    「今年四十歳の私は、Tシャツにビニール袋をまきつけ、下は短パンに裸足、右にパドル代わりの板切れ、左にカメを従えて、水辺に浮かべた幼児用ボートに乗り込んだ」
    「見守る仲間たちが大爆笑しているのを聞きながら、必死で漕ぐが、『あれ~』とマヌケな声が出るばかり、舟はくるくるとミズスマシになっている」

    役に立たないパドルを捨て、手で水をチャプチャプかきながら、なんとか湖の沖合まで出て行く。この場面が本書の白眉だろう。

    「雑音が消え、静けさが増す。両側には反射で銀色に見える岩山。前はただただ水。それが西日を受けて、黄金色に輝いていた。ときどきすーっと一陣の風が吹き、止む。 
     なんだか『もっていかれそうな』気分だ。 
     そのなかをひとり、ほとんどすっ裸の私は幼児用ボートでただひたすら前進していく。
    何の因果かわからないが、こんなところでこんなことをやっている自分がいる。それは奇妙な幸福感に満ちていた。自分はなんと自由なんだろうと思った」

    うーん、これぞまさに高野さん。他の何よりも、この幸福感と自由こそが大切なんだね。私もそうだが、ほとんどの人は秤のもう片方に載せたもの(安定とか、世間体とか、そういうモロモロ)の方が圧倒的に重いのだけど、それで心から満足しているわけではない人も多いだろう。だから、この身軽さに快哉を叫びたくなるのだ。大笑いしながら。

  • ノンフィクション

  • 「取材者」としての立場から、一転「目撃者」になってからの、感情の変化が面白い。初めて知った「目撃者」の心の動きというものが。
    その他は、気楽に読める辺境旅エッセイ。

    (本文より引用)
    この期に及んで、私は今回の旅で、私たちに目撃談を語ってくれた人々を思い出した。せっかくわざわざ記憶を掘り起こして話してくれているのに、曖昧だとか熱意が感じられないとか「また同じ話かよ」などと受け流し、事務的にメモをとっていたことを心から詫びたい気持ちになった。
    話を信じてもらえない、あるいは笑って受け流されるというのは、すごくむかつくことなのだ。しかも、こっちが本気になればなるほど、バカみたいに見られる。その結果、私もへらへらと照れ笑いなど浮かべてしまい、あー、もう最悪だ。

  • トルコの湖に未知の怪物を探しにいく道中記。本筋はタイトルどおり怪獣探査の旅行記だが、市井の人々を通じて、クルド民族の社会、トルコの政治状況などの観察がつづられる。ダラダラと少しずつ時間をかけて読むのによかった。

  • 未知の動物(UMA)を探す本でデビューした筆者だから、別のUMAを探す探検記である本書は正統本である。今度はトルコのワン湖が舞台である。現地スタッフとともに、普通の旅行者は行かないような村々を訪ねて目撃談を探すのである。クルド人の生活や風景の描写は旅行記としてもおもしろい。かつて現地でも話題になった怪獣をまじめに探す筆者らは、現地人にも笑われるほどだ。一見馬鹿らしいことを大真面目にやるのを見ることほど面白い物はない。おちゃらけ物というか、お気楽本というか、ヘラヘラ笑いながら読めるが、最後にあっと驚く展開で、出来過ぎな感もある読後感が味わえる。

  • ファンなのでとってもひいき目。何かを得る読書じゃないけど、読んでる時間が好きで自分にとってはある意味「本当の」読書ができる。
    著者が飲んでる場面がワンシーンしかないので、結構まじめな印象。
    自分の事を書くブログから出版が流行っているけど、それらとは一線を画する本です。

  • イラク国境近く、トルコのワン湖に住むと言われる未知生物・UMA怪獣ジャノワールを探す旅。
    ホテルの人には馬鹿にされ辛酸を舐めるが、ワン湖周辺の住民たちや目撃者へのインタビューでは、捏造疑惑や政府の陰謀説、プロバガンダ、民族問題など、怪しく物騒な話も出てくる。しかし、さすがは辺境ハンター、着実に真相に迫っていく。
    怪獣ジャノワールと決着をつけるため、パンツ一枚上半身裸で、幼児用ボートに乗り込み、ワン湖を突き進む高野氏。これこそ憧れる冒険家の姿だ。

  • まさかこういうオチだったとは。
    貴重な話だとは思う。
    だけど、私がこういう未知ものに燃えないのがいかんのだろう。

  • 辺境作家、高野秀行さんのUMA本。

    コンゴへモケーレ・ムベンベという怪獣を探しに行ったのは「若気の至り」ではなかった。今度はトルコ・ワン湖にいる(と言われている)ジャナワールを探しに。

    冷静に、アカデミックに、でもどこか滑稽に。高野さん独特のテンションでワン湖を一周した果てに一行が見つけてしまうとは。

    UMAを通して見えるトルコの内情、美しい風景、おいしそうなお食事たち。同行カメラマン、森氏によるいろんな写真にも価値あり。

    オススメです!!

  • トルコでUMA(未確認不思議動物)ジャナワールを探す。学生時代にコンゴで怪獣ムベンベを追った著者である。ミャンマー、アヘン王国に潜入した著者である。何も起こらないはずがない。エンタメ・ノンフの佳作、といっていいだろう。

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著者プロフィール

1966年、東京都八王子市生まれ。ノンフィクション作家。早稲田大学探検部在籍時に書いた『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)をきっかけに文筆活動を開始。「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書く」がモットー。アジア、アフリカなどの辺境地をテーマとしたノンフィクションのほか、東京を舞台にしたエッセイや小説も多数発表している。

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