鉄のしぶきがはねる

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 379
感想 : 78
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  • Amazon.co.jp ・本 (242ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062167611

感想・レビュー・書評

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  • 楽しい

  • まはら三桃青春3部作。
    専門用語が多く、いまいち感じがつかめないことも多かったのですが、まはらさんの書く主人公らしく困難にぶつかっても負けないまっすぐな感じが良かったです。
    最後の原口先輩の告白は読者へのご褒美!

  • 世界に誇る日本の「ものづくり」。それが生まれる職人芸の世界に飛び込む女子高生。なんと話題性のある設定、と思ったら、そこで苦悩する主人公の姿が丁寧に描かれていて深いな、と思った。恋の予感?みたいなラストは甘いけど、YAだしな。

  • 旋盤という我々の多くにはあまり縁がないものを題材として扱っているが、彼らの熱気がこちらに伝わってきてとても読みやすいものだった。一つのことに向かう素晴らしさを強く感じた。そして、読み終わってから本を閉じたときに見える表紙の題名がとてもかっこいい!!(^^)

  • 北九州の工業高校に通う高校生のお話。
    主人公は1年生の三郷心(みさと・しん)。
    電子機械科唯一の女子。

    コンピューター研究部で、
    マイコンカーのプログラム作りに打ち込んでいたはずの心は、
    ひょんなことで「ものづくり研究部」に関わり、
    「鉄を加工する」魅力にとりつかれ、
    旋盤で「高校生ものづくりコンテスト」を目指すことになる。

    「鉄を正確に削って、何かを作る」という工程が丁寧に描かれるんだけど、
    その作業ひとつ一つが、もの珍しい。
    工業高校では普通なのかもしれないけど、
    わたしなんかからしたら、へー、ほー、と思うことばかり。

    もっとも、さすがに鉄とのやりとりだけじゃあ「お話」にならないのか、
    おじいちゃんおばあちゃん世代の、北九州の熱気や鉄への思い、
    工場を失った苦い記憶、
    卒業生で世界を目指す女性技術者、
    同級生の脱線や、先輩の恋の行方などなどが描かれ、
    なかなか爽やかな感じで終わった。

    物語の中心は「ものづくり」なので、
    全体に地味な仕上がりではある。
    もっと人間関係があれこれあるのを期待したら、あれれ、と思うだろう。

    でも、これは「ものづくり」の楽しさというのかしら、
    奥深いよろこびに触れる感じがいいと思う。
    そういうのが好きな子には、嬉しい一冊だろう。
    中学と高校生におすすめ。

  • 入試によく出てくる作者の本ということで読んでみました。

    工業科の話だったので、分からない機械の言葉ばかりでしたがおもしろい一冊だと思います。

  • 工業高校に通う女子高生の、挑み励んでいる姿がまぶしく描かれていてよかった。
    自分には馴染みのない金属加工の話も、仕上がりの美しさを想像したら主人公の熱中する気持ちが分かったような気分になる。
    ほんの少しの恋愛要素もにやにやできるいい雰囲気だった。

  • 面白かった!
    工学部に進もうかと思うほど。
    ものづくり、いいよね!

  • 工業高校機械科唯一の女子・心
    クールにみえて内は熱い
    かっこいい女の子にキュンキュンときめきました

  • 北九州工業高校の電子機械科1年で女子は心(しん)一人。通学以外は作業服姿の心は、長身でもあって、男子のなかにいてもあまり違和感がない。

    数値がきっちり出るコンピューターを信頼し、スイッチ一つで人間の手の数倍速く正確な作業ができると、心は思っていた。コンピューター研究部でマイコン制御の調整をやろうとしている心は、「ものづくり研究部」の仕事を手伝ってもらえないかと先生に頼まれるが「無理です」と即答。鉄を溶かしてくっつけたり、削ったり、たたき出したり…そんな技術はいまどきもう古い、コンピューターがいくらでも代われるものだ、と思っていた。

    けれど、ある日「文化祭の手伝いを頼まれたんよ」と学校へやってきた小松さんを旋盤工場へ案内したとき、小松さんの旋盤がたてたキュルルーンという高い音に、心は反射的に振り返る。

    小松さんの旋盤から出た鉄くずのキリコは、きれいだった。心は、音とキリコには職人の腕があらわれると言っていた祖父のことを思い出す。加えて、小松さんが、周りの生徒の作業をちらっと見て、ほとんど正確に工作物の数値を言いあてたことに、心は驚く。

    驚きながらも、心は、手作業よりもコンピューターのほうがという思いを捨てられない。作業服から懐かしいにおいがしたという祖母に、心はこう言うのだ。
    ▼「旋盤やドリルで削ったり、フライス盤で削ったりとかもう古いよ。コンピューターなら人の手よりももっと精密な仕事を正確に早くやってくれるんだから」(p.35)

    だが、祖母はしたり顔でこう返してきた。
    ▼「あのね心ちゃん、言葉の使い方がおかしいよ。なんもかんも削るんやないよ。旋盤を使えば『削る』とか『挽く』、ドリルで穴をあけるのは『揉む』。平面をかき削る時は『きさぐ』。おんなじ『削る』でも、ほんのちょっとの時は『さらう』とか『なめる』とか言うんよ。鉄の加工の仕方によって、言葉は変わるんやから。そんなこと言いよったら、おじいちゃんに怒られるよ」(p.35)

    いきがかり上「もの研」で文化祭用の工作物づくりを手伝いながら、一見同じように見えても、じっくり見ると明らかな違いがある製品に、心はこれでいいのかと思う。測定器ではかってみると公差の範囲内。「見た目がこんなに違う」と言う心に、先輩の原口は「そりゃ、つくった人間がちがうけん」と言う。なおも「精密な工業製品にそんなことがあっていいんでしょうか」と心はくいさがる。

    ▼「あのね、〈もの研〉は、〈コン研〉とちがってコンピューター任せの部活やないと。人の技術を追求するための部活なんっちゃ」(p.50)

    原口はこうも言った。
    ▼「おれは、コンピューターよりも人間のほうが数段上等だと思っとる。コンピューターにはプログラム以外のことには、対応できん。人は技を鍛えてさえおけば、どんな仕事にも対応できる」(p.73)
    「おまえ、旋盤みたいな技術は古臭いとか言いたいんかもしれんけどな」「ものづくりはなくならんよ。なぜなら」「ものづくりは、楽しいからだ!」(p.74)

    そういう原口の言葉に背をおされるように、心は、旋盤で〈高校生ものづくりコンテスト〉を目指すことにした。先輩の原口、同じ1年の亀井と吉田と心の4人が、切磋琢磨してコンテストを目指す。その物語の中で、とりわけ印象に残ったのは、仏像図鑑を肌身離さず持ち歩き、暇さえあるとそれを見ているという亀井。

    ▼それだけならまだしも、目は図鑑にくぎづけのくせに、手はいつもほかのことをしている。リリアン編みをしていたり、消しゴムに彫刻を施していたり、べつに糸や消しゴムで仏像を形づくっているわけではない。手元から産まれているのは、ただの長い編みひもや自分の名前が彫り込まれた消しゴムだ。そのコラボが理解できないので、心は一度も話しかけたことはなかった。(p.28)

    その亀井のことが、心にちょっとわかりかけたのは、旋盤でケガをして、部活の練習を見学したときのこと。亀井からいつかもらった折り紙がファイルから出てきて、心はふと折りヅルを折ってみるが、思いのほか難しかった。指が一本使えないだけだと思っていたが、その一本使えないことで、ほかの指の動きも不自然になっている。

    ▼その日から、練習を見学する時には折り紙を折るようになった。よくしたもので、しだいに慣れてきた。慣れてきたというより、指の動き方がわかってきたようだった。人間の指というものは、五本すべてが同じように動くわけではなく、癖がある。薬指や小指は自在に動かすのがとても難しかった。いちばん活躍していた右手の人差し指が封じられたことで、それがよくわかった。けれども封じられた機能は、ほかの指の使い方によっては、ちゃんとフォローできるし、動きが鈍かった指も鍛えれば細かく動く。(pp.138-139)

    こないだ、堀尾貞治さんの個展へいったとき、堀尾さんから聞いた話。毎朝起きたら「1分打法」で10枚くらい絵を描く、それを毎日毎日やってるうちに描ける線がある、みたいなことを聞いた。亀井が目は図鑑にくぎづけながらずーっと手を動かしていたことや、心が指を一本ケガして折り続けた折り紙みたいに、自分の身体や手や指を鍛えるって、こういうことかなーと思った。

    「ものづくりは、楽しい!」というのが、じわーっと身にしみてくるような話だった。

    文章を書くとか、人の話を聞くとか、そういうのも、毎日まいにち鍛えていけるかなと思った。

    (1/10了)

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著者プロフィール

福岡県生まれ。講談社児童文学新人賞佳作『カラフルな闇』でデビュー。作品に、『青(ハル)がやってきた』、『鉄のしぶきがはねる』(坪田譲治文学賞、JBBY賞)、『たまごを持つように』 、『伝説のエンドーくん』、『思いはいのり、言葉はつばさ』『日向丘中学校カウンセラー室1・2』『零から0へ』『かがやき子ども病院トレジャーハンター』など。

「2023年 『つる子さんからの奨学金』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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