きなりの雲

著者 :
  • 講談社
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感想 : 80
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  • Amazon.co.jp ・本 (218ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062172950

感想・レビュー・書評

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  • 若い頃なら、途中まで進んで気に入らなかったらぜんぶ一からやり直すのかもしれないけど・・
    年齢を重ねていけばいくほど、どんどん守りに入ったり、何かを変えるのが怖かったり、臆病になっていくような気がする。
    さみ子さんも、きっとそうなんだよね。

    揺れ動きながらも、周りの人の優しさに支えられながらじょじょに前に向かって進みだす彼女の姿を読みながら思ったことは、行きつく先が見えないのはすごく不安ではあるけど、流れに逆らわず、心のおもむくままに進んでみてもいいのかな、ということ。不自然な色を身につけず、自分のそのままのカラーで。

    すごく静かな小説ですが、私の中では深い余韻を残しています。
    あえて主語が書いていないところも、またいいかと。

  • 恋人にふられ、日常生活をおろそかにしていたさみ子と、そのまわりにいる人たちのあたたかな繋がりが描かれた、静かな再生の物語。
    読んでいると優しい気持ちになれるので、心が疲れたときにまた読みたい。
    文章の書き方も、いつのまにかクセになる。全体的にお気に入り。

  • 「ほっこり小説」「ほっこり文章」はあまり得意ではないのだけれど、これはなぜか、とてもよかった。
    ちょっと独特な書き方をされる作家さんのようだけれど、でも、イヤな感じがしない。
    「うーん」と引っかかってしまう展開にも、「だよね」と共感できる主人公の感情がすっと書かれていて、ストレスなく読めた。
    玲子さんとじろうくんが、どうも好きになれないけれど、でも、それも込みで、おもしろかった。
    不器用なくせに編み物教室に行ってみたくなり(笑)、他の作品も読んでみたくなりました。

  • 可愛らしい言葉選びをする作家だと思った。
    この言葉選びは、多分、多くの女性にうける。

    主人公のさみちゃんはニット作家、40歳で失恋して、
    なんとか生きて、日常を取り戻したら
    元彼から電話がかかってくる。
    同じ頃に取引先の元同僚夫妻は妻に若い恋人ができる。

    これって、なんでもないことなんかじゃない。
    十分に日常に大波を起こす。

    少しだけ揺れるさみちゃんの気持ちもわかるが、
    前とは違うっていうところは、もっとよくわかる。
    取り戻した日常は、前の日常とは違うのだ。

    「やっぱりさみちゃんがよかったよ」という元彼、
    都合が良すぎるな。
    そんな元彼に、ベストを編んでプレゼントするなんて、
    「俺にはそんな愛はないっす、おとなっすね」
    という檜山くんに全く同感だ。

    若い恋人をつくった元同僚中野夫妻の妻は、
    これからも夫と一緒に仕事して、恋人とイギリスへ行く。
    笑って見送る夫。
    3人で一緒にごはん食べて、お喋りをする。
    わからん、わからん。ここは一切わからない。
    妙な状況の夫婦に
    「大丈夫ですか?」と聞くさみちゃん
    「時間だね」という中野夫。
    そこはわかる。
    どんなにどうしようもなくても、
    時間は過ぎて、どうにかなっていく。
    わかるけどわからん。
    シレッと笑う妻、玲子にイラッとする。

    人間って、年をとっていくと
    好きな人でも、そうでもない人でも
    縁が途切れてしまうことが、
    怖いのかもしれない。
    ちょっとそんな感じで、
    つながり続いているのかなと思う。

    何かを編みたくなる話でもある。
    私でさえ 小さなカバンでも編もうかと
    思ったな。

  • 主人公・さみ子のやさしさが、
    彼女の編んだ作品から、編み物教室の生徒や隣人たちに寄せる心づかいから、あるいは、植物にむける視線からも感じられ、暖かい気持ちになりました。

    一目ずつ針を動かし、コツコツと編み上げる醍醐味もさることながら、ほどけばまた元の一本の糸に戻せることも編み物の魅力ではないかと思います。

    羊の色そのまんまのきなりの糸で、何か編みたくなってしまいました。

  • 石田千さんの近年のエッセイや小説は、体調も精神的にもおつらい時期なのかな?と心配になってしまうような読感だった。
    この作品は暗闇に光を感じる、装丁のままの世界。

  • いやな表現がないので心安らかに読める。

  • しみじみとしたいい話だと思う。
    が!
    ひらがなが多すぎる。
    なんで?と思うほどひらがなだらけ。
    なので、ちょっとあわてていると読み間違えることが多い。
    話がかみ合わないので読み返すと、ひらがなひとつを別の言葉に置き換えて読んでしまっていたことがわかる。
    形容詞ばかりでなく、動詞も、固有名詞さえもひらがな。
    途中で投げだすところだが、ストーリーの良さにひかれて読み進むうちに、もしかして、編み物のように、ひとめひとめ絶対飛ばさずに丁寧に読め!という作者の指令なのかもしれない、と思った。
    読みにくい文体は、あつかいに難儀する笠井の毛糸のようなもの、ってことなのかも。

  • さみちゃんと年の近い私。
    傷つくのも 傷つけるのも 怖いから
    ついつい そっけない付き合いになってしまう。
    そのほうがラクだし...なんて 言い訳を
    自分にしながら。。。

    じろうくんに似てる人。
    結局、ずっと見てる。
    すごく傷ついたときもあったし、
    傷つけたことも たくさんかも。。。

    くりかえしてもいいくらい好きだから、悩むんでしょう。
    切れる仲と、切れない仲があるのよ。

    そっか。
    なるほど。
    白黒つけるのは 苦手だけど
    ふとしたときにたどり着いた先に
    答えがみつかると いいな。
    そのときを 待ってみよう。

    そんなふうに思えた本。

    小泉今日子書評集 やっぱりいいな。

  • 石田さんの文、とても柔らかい。
    題名どおり、女の子らしいほわっとした印象。

    どこで思いきればいいのかな…さみさんのセリフに「参ったなぁ」って独りごちた。だから熱量をそそげる編みものとそれに関わる人達に出会って、少しづつ再生していく姿は読んでて嬉しくなった。生成りの雲。ふわふわ漂っているようで、染まらない自分があって。実は骨太だよね。ゆっくり育んでいくものに、確かなものがあると思うから、今日も明日も、小さな灯りをともして行けたらいいな。

著者プロフィール

石田千(いしだ・せん)
福島県生まれ、東京都育ち。國學院大學文学部卒業。2001年、『大踏切書店のこと』で第1回古本小説大賞を受賞。「あめりかむら」、「きなりの雲」、「家へ」の各作品で、芥川賞候補。16年、『家へ』(講談社)にて第3回鉄犬ヘテロトピア文学賞受賞。16年より東海大学文学部文芸創作学科教授。著書に『月と菓子パン』(新潮文庫)、『唄めぐり』(新潮社)、『ヲトメノイノリ』(筑摩書房)、『屋上がえり』(ちくま文庫)、『バスを待って』(小学館文庫)、『夜明けのラジオ』(講談社)、『からだとはなす、ことばとおどる』(白水社)、『窓辺のこと』(港の人)他多数があり、牧野伊三夫氏との共著に『月金帳』(港の人)がある。

「2022年 『箸もてば』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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