ジェントルマン

著者 :
  • 講談社
3.43
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  • Amazon.co.jp ・本 (226ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062173865

作品紹介・あらすじ

眉目秀麗、文武両道、才覚溢れるジェントルマン。その正体-紛うことなき、犯罪者。誰もが羨む美貌と優しさを兼ね備えた青年・漱太郎。その姿をどこか冷ややかに見つめていた同級生の夢生だったが、ある嵐の日、漱太郎の美しくも残酷な本性を目撃してしまう。それは、紳士の姿に隠された、恐ろしき犯罪者の貌だった-。その背徳にすっかり魅せられてしまった夢生は、以来、漱太郎が犯す秘められた罪を知るただひとりの存在として、彼を愛し守り抜くと誓うのだが…。比類なき愛と哀しみに彩られた、驚愕のピカレスク長篇小説。

感想・レビュー・書評

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  • 背伸びして詠美さんの本を読んでいたあの頃を思い出しながら、この本を手に取った。きっと年齢的にはかなり追いついてきてるはずだが、彼女の世界観には相変わらずおっきな差を感じてしまう。自分の覗いたことのない世界へいつも導いてくれる存在だ。
    彼がジェントルマンなら、世の中には無数のジェントルマンがいるに違いない。惹かれてはならないものに惹かれるのが恋というものなのだろう。男同士の関係よりもユメと圭の友情に安らぎを覚えた。二人が結ばれたならどんなによかったか…。
    冒頭部分に戻った最後は、とても美しかった。結びの美しい作品は好きだ。

  • 外見も内面も「完璧」な同級生の本性に触れ、生涯を賭ける恋に落ちた主人公の話。
    30代となった二人を軸に、今と過去を行ったり来たりする。
    なんとまあ完全なるゲイ小説。

    優等生で万人に優しい漱太郎の歪みきった性衝動と、それをひっくるめて漱太郎を愛する夢生。
    漱太郎の犯した罪の話を聞き、二人で過ごす時間に幸せを感じる夢生、
    表面的には緩やかな関係を続けていた二人だったが、夢生の可愛がっている後輩と漱太郎が偏愛している妹が接近したことでバランスが崩れる。

    短い話だけどすごく濃い。
    漱太郎が自分にしか見せない裏の顔が夢生のプライドで、生きる意味なのかと感じた。
    夢生と漱太郎の同級生で、漱太郎の本性を薄々察している圭子が悲しい。
    漱太郎の妻をはじめ、善良そうに見えて裏には生々しい感情を抱えていたり、
    逆にツンケンしながらも情が厚かったりと、
    漱太郎以外の登場人物にも二面性を持たせることで人のままならない部分が浮き彫りになっている。

    ただ、一般文芸作品にしては同性愛や性的暴行など生々しい描写が多くて、ここらへんで無理な人も少なからずいるだろうなと思った。
    私的には面白いと思う、かなり。
    徹底的に歪んだ人を嫌悪しながらも惹かれていくというのは人の残酷な習性かもしれない。

    章立てがなく自然に場面は移り変わり、また現在と過去も境目なく行ったり来たりするので、夢生の一人語りを聞いているような不思議な感覚にもなる。
    ねっとりした話の割に妙にピュアな印象を持つのは夢生の価値観が一貫しているからかも。
    もっとドロドロはちゃめちゃにもできそうなのに、200ページ程度という短さでまとめて、ただ愛の物語にした潔さがよいと思う。

    結局ひとかけらも語られることがなかった漱太郎の本心だけど、
    私はたぶん漱太郎は夢生を愛してはいなかったなと思った。
    そしてそれを夢生もわかっているのではないかと思う。

    でもこれはハッピーエンドじゃないかな、愛の物語としては。

  • 山田詠美の同性愛者を主役にした長篇小説が出て、いよいよかと思いました。今までは短編でしかなかったはず…。
    これは男が男に恋をしないと作り出せない物語だなと思えます。
    かつ、あくまで一個人の恋愛物として読ませてくれるので、
    ユメに共感するところもあり、その強烈な想いにぐいぐい惹かれます。
    罪人の姿だとしても、自分だけが知っている彼の姿があって、
    性行為がなくても二人だけの告解を通じた関係がある、堪らなく痛い片思い。

    ゲイという設定だけに食いついたり、同性愛物は苦手だと敬遠したら勿体ない、
    濃厚な恋愛小説だと思います。

  • 自分用考察めも
    昨夜読んで朝起きてまた色々考えた。
    女の子という言葉は圭子いわくピュアで美しいひとになら
    年齢問わず使って良いとのこと。
    最初に妹に使っていた。
    で、ゆめおにも女の子と言っていた。
    そっか、圭子のなかではゆめおと妹は同じカテゴリなんだなと思ってから
    それってつまりそうちゃんの中でも共通項だったのでは?と思った。
    そうちゃんって、ゆめおが必要なのは分かるけど、あまりにもゆめおが
    そうちゃん全肯定なものだから、読んでる側(ゆめお視点)ではそうちゃん
    →ゆめおの感情が見えづらかったのだけど。

    結果ゆめおは自分が男だから諦めていたことを、
    ただの媒介としてだけどしげには為されてしまって、それが許せず
    ゆめおの罰を与えた。(他の要因はないと私は思っている)
    のだけど、ゆめおは自分が妹と同事項として
    「こじ開けられない鍵」を持つ存在だった=特別だったことに
    気付けれたら、と思いつつ気づけないのが恋だよねと思ったり。
    もちろんそうちゃんが言えば、ゆめおは喜んで自分を差し出したと
    思うけれど、これこそ大切だからそうちゃんはしなかった訳で。
    (罪の意識とはまた違うだろうけど)

    他にも色々と考えたいとこが多すぎる濃い一冊。
    今ふと思ったけれど小池真理子の「恋」も少し何かちかいのかな。
    絵描きさんの少女という要素ははぐちゃん、そうちゃんの完璧具合は
    森田さんを連想したりしたけど、最後はとんでもなかった。
    あ、ねこに対するあたりもちょっと森田さんだな。
    ふりきっちゃった森田さん。
    キエーの山岸漫画のひとに妹さんはいずれなるんだろか。

    ゆめおがいかにして、今の生活を作り上げたかを丁寧に描いていた分
    最後のあっけなさが際立ってました。

    あーーー。口のなかに入れた美味しいものをいつまでもいつまでも
    もぐもぐ租借していたい。
    文章の美しさはもう一文字も過不足ない勢いですさまじく完成されているので
    ここまでお話にのめりこめたのだと思います。

    追記
    学問の主人公二人と、そうちゃんとゆめおはもしかしたら表裏一体
    のような感じなのかも。

  • この作品好き

  • 後味の悪さがクセになる...かな

  • 最後まで読んで最初の文章の意味が分かった。
    突然裸でオノ・ヨーコに巻き付くジョン・レノンの話をされても良く分からなかったのだけれど、これがラストシーンに繋がる。

    周りの人気と羨望を浴びながら、決して出しゃばることなく、美しく謙虚で優しい、そう思われていた漱一郎。彼を冷ややかに見ていた夢生だが、ある日学校の茶室で教師を犯す漱一郎の姿を見る。

    なすすべもなく漱一郎の共犯者となった夢生だが、ゲイだった彼は漱一郎にどうしようもなく惹かれてゆく。

    たった2回のくちづけ。
    それだけで漱一郎は夢生の中の大事な部分を独り占めしてしまった。その関係は学校を卒業し、社会人となり漱一郎が家庭を持った後も続く。

    高校生の時の嵐の一晩までは「なんだか単調だな」と思っていましたが、後半は貪り読みました。

    どんなに酷いことを他人にしようとも決して罪の意識を持つことのない漱一郎は異常です。でもその彼の告解を聞くことで「自分は特別だ」と思ってしまった夢生の気持ちも分かる。

    最後華道家として生きようとした夢生が、弟のように思っていたウリ専のシゲを殺した漱一郎の性器と動脈を鋏で切ってしまう。

    そして冒頭のシーンが思い起こされる。
    違うのは床が真っ赤に染まっている事。
    なんと激しい情景でしょうか。こんなに激しい感情を感じたのは久しぶりです。これが愛なのか。

  • 久しぶりに読んだエイミー本。
    私は読書量はそこそこだけれど、文学を語れるほどでもないので高尚な書評は書けませんが、山田詠美を長年読みつくしてきたファンとして、この作品について評価をするならば…う~ん(-"-)という感じ。。。かつてなく、薄っぺらい感じ。ヤングライトノベルに挑戦したのかな?みたいな。だとしても!
    確かに筆力は健在で、ページをめくる手のスピードは落ちませんでした。でも、一方で「?」が頭によぎりながらのページ捲り。
    そしてこれだけはいちファンとして断言できる。いくつかのコメントに「エイミー節は健在!」みたいなのがあったけど、往年のエイミー節はこの小説には全然活きていない。ちがうちがう(>_<)
    そう思う人たちは、どこからの読者なのかな。『蝶々の纏足』『風葬の教室』『24/7』『ひざまづいて足をお舐め』etc..このあたり、このあたりを読んでみて~(T_T)

  • うううううぬ…。読後感ワルっw (いい意味で)
    仲良しのお姉さんに勧められて、久々に読んだエイミーさん。

    ところどころに散見するわたしの青臭いアドレッセンスを彩った山田節に郷愁めいたものを感じつつ、その頃のそれとは比べ物にならないドス黒いリビドーと哀しい純愛物語の重々しさといったら。「恋」をかくも陳腐なものに貶める破滅的な純愛。なんというか、正しきものへのアンチテーゼのようにも思える。自虐的な意味では、善悪を超越した情動的エロスを俯瞰する享楽的読書体験でした。はい。

    しかし帯の禍々しさがぱないですわ。山田作品は未だもってアニマル・ロジックが最強です。個人的に。

    登場人物の中ではケイさんがとても好きだな〜。「…友情」/「友情ならば、裏切れる」。悲しい言葉です。

  • 詠美さんにしか書けない。

  • 本当に、女性が書く男性同士の感情の運び合いの嘘くささというのは、拭い去れるものではないなあ、と改めて。夢生は真の意味では本質として男性ではないし、漱太郎も女性が書く幻想としての男性だし、その2人のやりとりといったらもう、女同士でしかない。カニンガムとか、フォックス(小説内に出てきたけど)を貪るように読んだ身としては、ただのおふざけの延長線上のように感じられる。人間というものを全く書いていない。都合のいい人形を動かしているかのよう。ただ、この手の小説でそれなりに質の良いものというのは、娯楽小説と割り切れば受け入れられる。ストーリーはわくわくするものだったし、恍惚、という言葉が絶え間なく頭の中でチカチカするような、そんなかんじ。こういう本を読むたびに読書とは何なのかということを考えてしまう。人形を動かしているのに人間を書いているつもりでいる本か、本当に人間を書いている本か、人間を書くことの難しさを理解した上であえて人形を動かすような本を書いているか。

  • 久々の山田詠美。
    衝撃的な一冊でした。

    悪の教典読了後だったのもあって、いい意味で後味の悪い本ををたて続けに読んでしまったな、という感じ。

    エグくてグロい展開ではあるのだけれど、官能的で美しい描写に仕立て上げているのは、さすがの山田詠美。特にラストシーンは、頭の中にはっきりとイメージが浮かび、ため息が出ます。

  • ジェンダーフリーも人唇に膾炙して来た時代に、エイミーが投げかけた大問題作だと思います。
    最初から幸せな結末を迎えるわけがないと思いつつ読み。そのまま重い気持ちで読み終わりました。

  • 冒頭のシーンから結末が想像できるが、後から出てくる花鋏がラストで大変重要な役割を果たす事に感動した。
    到底理解できないと思っていたゲイの心情が夢生によって切々と語られ、なんとなくわかったような気がしてしまう。そして最後まで夢生に恋心を明かさなかった圭子はとてもいじらしかった。
    漱太郎のように誰からも愛される優等生の意外な裏の姿はよくある話だが、ここまで酷いとむしろ清々しい。とはいうものの読後感はやはり良くなく、ラストシーンの禍々しい美しさだけが心に残った。

    「ねえ、休日にパタゴニア着てる銀行員ってどう思う? 特技は、ダッチオーヴンを使ったアウトドア料理。どうよ、この意外性」

    「な? 世の中、ちゃちな不幸だらけだろ? それを、みんな必死になって隠そうとしている。それなのに、たいしたことないちっぽけな幸せは見せびらかしたがる。くだんねえな」

  • 明治時代から昭和初期にかけての耽美な雰囲気もありつつ、
    それが現代版になった感じ。

    「ん、え?ちょっと待って!」と読み進めてしまう序盤。
    後半はちょっと間延びしたところがあったものの、
    「うーん…そういうことなのか…」と唸る終盤。
    まぁ、そういう終わり方になるよね…となんとなく分かってはいるけど、
    夢生、漱太郎、圭子、シゲ、ルリ子、路美、
    それぞれが抱く気持ちをそれぞれ整理したくても上手くいかず、
    なんだか読み終わったあともちょっと混乱してしまう読了後。

    シゲについては、いろいろと考えるところがある。
    いわゆる「純粋な愛」に陥って、唯一の稼げる手段であるウリの最中に、
    愛する人の兄に直腸が裂けるほどに下半身血まみれに犯されて殺され、
    ニュースで「身元不明の遺体」として処理される。

    シゲは決して「善」ではないけど、こんなことにならなくちゃならない程「悪」ではない。
    そんなシゲを裁く漱太郎っていったいなんなんだろう。
    実は、シゲが死ぬまで、私は漱太郎は「ジェントルマン」だと思っていた。
    反論を受けるだろうが、漱太郎のような括弧つきのジェントルマンは実際には沢山いるから。

    けど、シゲを殺した辺りから「キモチワルイ人間」だと思った。
    性癖はどうでもいい。男を犯して殺したこともどうでもいい。
    ただただ一気に、漱太郎は不快な人間だと思った。

    とはいえ、漱太郎をもっと理解したいという想いから、きっともう一度読み返すことになるでしょう。

    現代にもこういう作品が増えれば良いと思っています。

  • すばらしい。。。いや、怖ろしい。とんでもない本を読んだいう読書自体の喜びと、嫌悪感がない交ぜになる。あまりの内容に本自体を禍々しく感じてしまって、本から手を離したくなったぞ。ただごとじゃないなあ。とりあえず今年の一冊は決定した。
    初期の作品から倫理要素は多かったけど、これは最早全体が哲学本だ。この人の眼は一体どういうことになっていてどういうふうに観えているのか。で、こんなに心正しい優しくて意地悪な人はいないと思う。
    文章が濃密で途中で深呼吸すること何度か。赤潮青潮。

  • 山田詠美の本、久しぶりに読んだ。
    なんか、暗い…
    同性愛とか人の闇みたいなのがいっぱい。
    紳士淑女もみんな裏の顔持ってるのかな?
    大好きな人でも全部知らないことが、いいことなのかも。

  • ジェントルマンであり悪人でもある男を愛した夢生。夢生の愛し方に圧倒されました。そして夢生を取り巻く人々の恋にも同じく圧倒された。
    「良い人」という皮をかぶり皆に愛される蛇が、特定の人の前でだけ脱皮し、恐ろしい本当の姿を見せる。本当に人を愛するということは、その恐ろしい姿をも愛するということなんだろうか。

    様々な愛の形があって、私たちにそれをジャッジする権利は無いのだろう。ストーリーの力強さと文章の繊細さ等、とても山田詠美さんらしい小説だと思いました。

    • christyさん
      わー、読まれたんですね!!
      すごい小説でしたよね、これ。
      山田詠美の恋愛小説は、
      reader93さんが書かれているように
      愛し方に...
      わー、読まれたんですね!!
      すごい小説でしたよね、これ。
      山田詠美の恋愛小説は、
      reader93さんが書かれているように
      愛し方に本当に圧倒されますね。

      >「良い人」という皮をかぶり皆に愛される蛇が、特定の人の前でだけ脱皮し、恐ろしい本当の姿を見せる。本当に人を愛するということは、その恐ろしい姿をも愛するということなんだろうか。

      reader93さんのこの部分、感動しました。
      どうなんでしょうね。。。
      究極の愛となると、こうなるのでしょうか?

      この本は色々お話したいので
      近いうちにメール送らせてください。
      また色々語り合いましょう♪
      2012/01/12
    • reader93さん
      Christyさん
      christyさんに良いと聞いてからずっと読みたかったこの本、年末日本から遊びに来た友達に頼んで持ってきてもらいました!...
      Christyさん
      christyさんに良いと聞いてからずっと読みたかったこの本、年末日本から遊びに来た友達に頼んで持ってきてもらいました!ついに読めて嬉しかったです。これ良かったです。待ったかいがありました。いい本教えてくれてありがとう。山田詠美って文章がとてもいいですよね。山田詠美の本を読むたびに「こんな本が読めるなんて日本人で良かったー。日本語が読めて良かったー」と思います。
      2012/01/13
  • 山田さんの本は三冊目になるのだろうか。多分一番読みやすかった。高校時代に出会った夢生と惣太郎。漱太郎は頭も運動神経も、そして人柄も完璧(優秀でありながら隙も作って見せている)で夢生は彼を“ジェントルマン”だと冷めた目で観察していた。そんなある日部室に忘れ物をした夢生は、惣太郎が顧問の女性教諭をレイプしている場面に遭遇する。その時初めて見た完璧な男の卑劣な一面に彼は恋をする。漱太郎の共犯者となり秘密を告白される神父の役割をも手に入れた夢生は大人になり、彼一人の為の懺悔室を作る。夢生のゲイ仲間、高校時代からの親友の圭子、漱太郎の妹の貴恵子、漱太郎の妻…などが織りなす今と、高校時代を行き来しながら、二人の行きつく先はたった一つの悲劇へと流れる。
    嫌悪も同情もなく読み切った。今が山田詠美の読みごろなのかもしれない。

  • 愛なのか、嫉妬なのか。

    ゲイとノンケの間にある感情がデフォルメされているとはいえ、片思いをするゲイの表情が瑞々しく書かれているように感じた。

    久しぶりに、「これほどまでに私を引き込んでくれる」小説に出会った。

  • BLがわりとオープンに語られることが少なくない昨今、ついに山田詠美まで!?と、ちょっと焦ったけど、心配なかった。耽美とかBLとかそういうカテゴライズどうでもよくて、ただ、極上の恋愛小説。誰かのことだけを想うことって、ちょっと狂ってるんだな。そして、誰もがその狂気をもってるのね。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「誰もがその狂気をもってるのね。」
      山田詠美は、それを慈しんでいるように思えてしまう。
      「誰もがその狂気をもってるのね。」
      山田詠美は、それを慈しんでいるように思えてしまう。
      2013/04/09
  • 何不自由ない家庭に生まれているにも関わらず、ジェントルマンでいることを演じている人間が持つ心の闇。私は漱太郎の気持ちが何となく分かる。
    読後感が悪い(良い意味で)。

  • 美しい花には棘(毒)がある。
    偽善を通り越した非の打ち所のなさの裏には
    やはり闇しかないのか。
    懺悔室を持って闇を知っている自分こそが
    誰よりも特別なのだと自負していた夢生だか
    肝心なことは何も知らされていない
    ただの奴隷のままだった。
    ベージュ色の床が真紅に染まり
    懺悔室が処刑台へ。
    最後は自らの手できみの罪と見逃し続けた
    ぼくの罪を裁き、作品を生み出すことで
    二人の関係は永遠になれたということなのか。

    初の山田詠美さんでした。
    とてもサクサク読めたので☆5なのだけど
    出てくる誰の心情にも近寄りたくなくて
    心情を読もうとすると闇に引きずられそうに
    なるから−1で。
    感想を聞こうとして、やっとこういう事かと
    気がつくところもあるぐらいだったので
    まだまだ読み解けてないことがある気がする。

  • 高校生の坂井漱太郎は誰からも親しまれる存在だった。外見も内面も秀でていて、女性からも同性からも大人気。彼の表側は完璧。しかし、裏側の彼の人格は破綻していた。
    彼は「無理やりするのが好き」な男だった。たびたび女性を性的に乱暴していた。彼が女性教員をレイプしている現場に居合わせた夢生は、彼に恋をしてしまう。

    大人になり、同性愛者として生きている夢生は高校時代からの親友、圭子の店で働いている。結婚し、子どももいる漱太郎も時折見せに顔を出す。夢生は今も漱太郎を想い続けていた。

    店の常連、シゲは身体を売る男だったが、同性も異性も愛することができた。シゲと漱太郎の妹が恋仲になったことに漱太郎が気づいたあと、シゲは死体で見つかる。

    「おれが所有しているものを盗もうとする奴はゆるせない。取られたら殺しちゃう」と、かつて漱太郎は言っていた。彼の人格は破綻していた。
    夢生は彼の性器を剪定し、彼は死んだ。

    ---------------------------------------

    漱太郎は言った。
    性欲はすごい。見つかったら築いてきたすべてを失うかもしれないのに抑えることができない、と。
    食欲や睡眠欲が満たされない極限状態で犯す犯罪と、性欲にまつわる犯罪は別物だそうだ。食べなかったり寝なければ人は死んでしまう。でも性欲が満たさなくても死にはしない。
    セックスにまつわる犯罪は贅沢だ、と漱太郎は続けていった。

    贅沢な犯罪、レイプを繰り返し行ってきた漱太郎は、一度も捕まることはなかった。
    しかし、シゲ殺害はセックスにまつわる贅沢な犯罪ではない。”自分のもの”と認識している妹をシゲに取られそうになったから殺したんだのだ。
    そんな理由で人を殺せてしまうことに驚くけれど、漱太郎の行動は最初からずっと一貫して破綻し続けているから、納得できてしまう。

    漱太郎の性器を剪定し、殺してあげたのが夢生の恋の末路。
    親友として同性愛者の夢生と一緒にいたのが圭子の恋の形。

  • 高校生のころの坂井嗽太郎(さかい・そうたろう)は、勉強もスポーツも完璧にこなし、女子の人気を集めていました。そんな彼の「ジェントルマン」ぶりに、宮下夢生(みやした・ゆめお)と藤崎圭子(ふじさき・けいこ)は引っかかりを感じていました。そんなある日、夢生は嗽太郎の知られていない内面をのぞき見るような出来事を目撃してしまいます。嗽太郎は、人の心の鍵穴をこじ開けずにはいられない衝動を内に秘めていました。そして、この出来事がきっかけで、夢生は嗽太郎に強く惹きつけられ、彼のことを観察しつづけることになります。

    やがて彼らは大人になり、嗽太郎は家庭をもって、あいかわらず完璧な「ジェントルマン」を演じ、夢生は自分が彼の秘密を共有するただ一人の人物となります。ところが、漱太郎の妹の貴恵子が、夢生のゲイ仲間のシゲと恋に落ちたことで、物語は急展開し、クライマックスへと向かっていくことになります。

    同性愛やサイコパスといった大きなテーマをごった煮にした作品で、もうすこしエンターテインメント志向の小説であればこれらのなかのひとつをメインに据えて収まりのいい物語にするのでしょうが、著者はむしろそれらのテーマを無造作に作品のなかに放り込むことで、振幅の大きな物語をつくることを意図したのかもしれません。ただその割には、登場人物たちのキャラクター設定がやや平板に感じられてしまったのは残念でした。

  • ジェントルなのか?
    強姦して人を自殺にまで追い込んでしまうのは。。


    「人がなにかを感じる時に理由なんてありますか?
    」っていうフレーズは好き

    純愛といえば純愛?

    わたしの好きな本ではなかった

  • この人は私にとって絶対だってわかる瞬間は確かにある。愛じゃなくて恋だと思う。恋と乞いって似てる。瑞々しい感覚っていうより、枯れた植物の根っこみたいだけど。

  • こんなに美しく狂気を書けるなんて、さすが。

  • 78:瀬太郎という「完璧な」男にまつわる罪と罰、そして愛情。瀬太郎に惹かれるユメという存在は、山田文学らしい純粋さと脆さ、危うさを持っていて、いびつで、決して愉快ではない物語を艶やかに、そして妖しく彩っています。あまり好きではない方向性の物語なのだけど、どうしてか目を離せない。そうこうしているうちに読み終えてしまって、ラストシーンの美しさと、どうしようもない運命に揺さぶられるとともに、つまらない道徳やモラルというものについて考えさせられました。
    「あまり好きではない方向性の物語」を読ませてしまう魅力って、すごいな……。

  • 一気読みできたので、4つ

    漱太郎みたいなサイコパスが、世の中に実在しているのだろうか、、、??

    完璧なジェントルマンである表の顔と強姦、暴力、支配を厭わない裏の顔

    被害者は後を絶たないが、サイコパスの兄からの狂愛を受けて育った妹が一番悲惨に思われた。


    主人公夢生は、しかしながら、漱太郎に恋をする。彼の魅力に抗えない。どんなに欲しくても手に入れられず、彼の理解者たらんとする。

    ラストの展開は、夢生が漱太郎を守ろうとしたのか、理由はどうあれ女性以外を衝動の対象とした事への絶望、嫉妬、独占欲なのか、はたまた身内であるシゲの報復でもあるのか、、、?
    懺悔室が処刑室へ、自分だけが漱太郎を裁く資格があると語る夢生の悲恋

    それと心に引っかかるのは、圭子が友情ではなく、愛情と夢生に言えていたら、どんな展開が待っていたのかという事

    圭子の愛情で夢生を救って欲しかったなぁ

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著者プロフィール

1959年東京生まれ。85年『ベッドタイムアイズ』で文藝賞受賞。87年『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞、89年『風葬の教室』で平林たい子文学賞、91年『トラッシュ』で女流文学賞、96年『アニマル・ロジック』で泉鏡花文学賞、2000年『A2Z』で読売文学賞、05年『風味絶佳』で谷崎潤一郎賞、12年『ジェントルマン』で野間文芸賞、16年「生鮮てるてる坊主」で川端康成文学賞を受賞。他の著書『ぼくは勉強ができない』『姫君』『学問』『つみびと』『ファースト クラッシュ』『血も涙もある』他多数。



「2022年 『私のことだま漂流記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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