鉄道と国家─「我田引鉄」の近現代史 (講談社現代新書)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062881524

感想・レビュー・書評

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  • ★『国家と鉄道』
    第一章の「”軌間”(線路の幅)が、その国の鉄道将来像を決定する」という内容から始まる。日本の鉄道の歴史のスタートの経緯(いきさつ)が、こんな足元のことによって縛られていたなんてチョット驚きの話だ。
    そして、第二章〜第五章までは「我田引鉄」をキーワードした、鉄道と政治の話。第二章あたりの”日本の鉄道の父”井上勝や、”軌間”の拡張『広軌論』を唱えた後藤新平、東海道新幹線計画を支えた佐藤栄作、日本列島改造論の田中角栄の頃までの「鉄道建設は国家全体の発展に必要とされる国策である」という政治スタンスで、欧米列強の開国プレッシャー後、そして敗戦後日本が遮二無二に国を作り上げていく勢いというものを感じる。「鉄道は地方発展のためにやむを得なければ赤字を出してもよい」という、田中角栄の言葉が説得力を感じるだけでなく、その当時の日本社会に漂う、「成長が全てを癒やす」感を国民も共有していた。
    それ故、一政治家がご都合主義で地元に新駅を作ったり、鉄道路線を経済的合理性を全く度外視して地元に誘導してみたり、ダイヤを変えさせたりと好き勝手に振舞うことができ時代でもあった
    だが、ビジネスレベルでのみ社会資本整備を見ようとする姿勢が定着し始めた頃、国鉄の莫大な赤字が社会の中では容認されなくなり、赤字路線の廃止に始まり、「国鉄再建法」の成立、民営化に進んでゆく。今からみれば、当然の経済理論のように思えることでもあるが、その背景にはどうしても、日本の成長の現界の翳りを見はじめていた社会があったように思えてならない。最後の章は新幹線の海外への輸出は総合システムとして国をあげて、輸出することによって国際競争に勝ちかち、新幹線の技術が商業上の利益にとどまらずに、国際貢献を果たすことができると結んでいる。
    鉄道を利用することが減った生活を送っているが、あらためて、この本で得た知識が失せないうちに、鉄道での旅行を計画して、時代を遡って浸ってみようと思う。
    2014.05.27

  • ”我田引鉄”の最たる例といえば、東海道新幹線の岐阜羽島駅の事だとばかり思っていた。しかし、本書を読むとどうやら真逆のようだ。しかも大船渡線を始めとする典型的な”我田引鉄”の例は他に多々あるようだ。

    本書は、標準軌と狭軌選択の歴史から始まって、鉄道への政治の関与、民営化の問題、新幹線の海外への進出まで、表題通り「鉄道と国家」の関係が分かりやすく記述されている。

    国家が関わる以上長期的な視点に立って、国益に叶うような協力なリーダーシップが必要なのではないだろうか。上越新幹線の様な個人利益と絡めない様な、ミスター鉄道の登場を切に願わずにはいられない。

    なぜなら鉄道には、人との触れ合い、地域との触れ合い、車両に垣間みる未来など、愛すべきことが沢山あるからだ。

  • 日本の鉄道整備について、グローバルな視点で政治の関与を極力排除しようとした明治時代の井上勝、大正時代の後藤新平や東海道新幹線建設に力を入れた佐藤栄作(後の首相)・十河信二。
    逆にグローバルな視点で政治が関与した田中角栄など。
    一方、自分の選挙区への我田引鉄や急行停車などの事例など。
    さらには東日本大震災や鉄道事業輸出に関することなど、鉄道と政治に関することを客観的に分析して、読者に判断の材料を与えています。

  • 鉄道と政治との大きな関わりがトピック的に記述されていて読みやすかった。

  • 13/09/21、ブックオフで購入。

  • 鉄道を社会資本としてどう捉えるのか。
    政治との距離をどう保つのか?
    当たり前のことを改めて考えさせてくれる。
    時代が違うとはいえ、軌間をめぐる「建主改従」か「改主建従」かの論争は現代にも通じるものだ。
    それにしても荒船清十郎のくだりは笑うしかない。
    でも、違う形で今も同じことをやっているんだろうな。

  •  本書は所謂鉄道雑学本ではない。鉄道の敷設や新駅の設置が、いかにして国家的な大局的観点や地元の要望、政治家の利益誘導など政治的要素が絡みつきながら判断・決定されてきたのかを、述べた本である。
     国鉄時代まで、鉄道事業は国家の軍事戦略や国土の総合的な発展のため、大局的観点で敷設・計画されてきた。この計画も、当然ながら、政治家や官僚などの政治力学によって政策決定される。よって、政治家の利益誘導や地元の要望などにより、当初の鉄道事業計画とは違う形で反映されることになった(JR大船渡線、JR中央本線「大八回り」など)。
     また、国鉄民営化後、日本には国有鉄道は存在せず、JR各社は鉄道会社として採算性を考慮し営業利益を求めることが至上命題となり、採算性と地元の公共交通機関としての社会的インフラ(公共性)とを比較考量することが当然のこととなった(東日本大震災によるJR気仙沼線・大船渡線のBRT)。特に東日本大震災は、民営化後の日本の鉄道路線網が、国鉄時代のように繋がっておらず、ところどころで細切れになってしまい、東北地方への輸送が難航したことを如実に示した。
     国土や気候、地理的条件に合った鉄道敷設というものが、日本に限らずどの場所においても必要である。そこには、政治判断・政治力学というものが必ず付きまとう。本書はそのようなものの歴史をクリアに提示した良書である。

  • 我田引鉄の歴史。
    明治新政府の誕生後大隈重信は新政府に人心を向かわせるためと、封建制を中央政権に改めるための道具として、そして西洋列強との不平等条約改正の交渉の道具として文明開化の外見を作り出すために鉄道建設を推進した。このとき国際標準軌(=広軌、新幹線などのゲージ)にするか狭軌(JR在来線ゲージ)にするかにあまり注意が払われず決まったらしい。「日本国有鉄道百年史」には狭軌に決まった決定的な理由は明らかでないとされている。その後も鉄道路線を拡げる際には先に広軌に変更するか、先に路線を拡げるかという論争が有ったが常に地元に利便を与えると言う意向が鉄道路線建設に影響している。地元に線路を引いた政治家は英雄扱いされて来た歴史も有る。

    有名な新幹線岐阜羽島駅の大野伴睦が無理矢理駅を作らせたと言う話は、少し事情が違うらしく東京ー大阪間の交通時間の短縮と言う本来の目的を守るには岐阜市は外さざるを得ず、地元に駅ができないと岐阜県の用地買収に困難が予想されたことから地元の県民感情に落としどころをつけるために大野が出たと言う部分が有るらしい。岐阜羽島駅には当然の様に大野の銅像が建っている。またこの新幹線は当初は東海道線の複線扱いだったんだと、新線建設には許可が必要だが複線化なら国鉄内部の決定で済むからだ。そのため、新幹線の営業キロ数は実際の距離よりも長くなっている。

    未来の党でお騒がせの嘉田知事の当選が決まったのは南びわ湖駅反対の運動から。総工費240億のうち約半分の117億を滋賀県が95億を駅所在地の栗東市が負担し栗東市は草津線への接続も含めると負担総額は305億円になるが市の財政規模は230億。結局駅を作っても草津線からのアクセスとひかり、こだましか停まらないことを考えると利用者が見込めず費用が利便性に見合わないのでまともな判断だと思う。しかし去年の8月には中央リニアが開通すれば新駅が必要になると態度を変えている、なんだかなあ。

    東日本大震災の後三陸鉄道の復興は第三セクターだけでは困難になっている、また利用者が少なかった山形空港や三陸縦貫自動車道がアクセスの代替手段として重要な役割を果たした。平時には無駄な公共事業が非常時にはネットワーク化、分散化していることの重要性を示した例だ。社会インフラについては短期の経済性だけでは判断するのが難しいがかといって利益誘導ばっかりでは話にならない。港湾、空港、利水等も併せて道州制くらいの規模でデザインするのが合ってるように思うのだが。そう言う意味では路線は政治的に決められると言うのは悪いことばかりではないのだが・・・

  • 鉄道の歴史にちょっと詳しければ知っている内容。
    特に目新しいこともなく、そして目新しい視点もなく、当該分野を知らない人にとってはいい内容だと思います。
    ただ、すごく興味のある人には物足りないと思います。

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著者プロフィール

昭和50年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒業、筑波大学大学院ビジネス科学研究科企業科学専攻博士後期課程単位取得退学。日本及び東アジアの近現代交通史や鉄道に関する研究・文芸活動を専門とする。平成7年、日本国内のJR線約2万キロを全線完乗。世界70ヵ国余りにおける鉄道乗車距離の総延長は8万キロを超える。平成28年、『大日本帝国の海外鉄道』(現在は『改訂新版 大日本帝国の海外鉄道』扶桑社)で第41回交通図書賞奨励賞を受賞。 『鉄道と国家──「我田引鉄」の近現代史』(講談社現代新書)、『旅行ガイドブックから読み解く 明治・大正・昭和 日本人のアジア観光』(草思社)、『宮脇俊三の紀行文学を読む』(中央公論新社)、『アジアの停車場──ウラジオストクからイスタンブールへ』(三和書籍)、『「日本列島改造論」と鉄道──田中角栄が描いた路線網』(交通新聞社新書)など著書多数。日本文藝家協会会員。

「2022年 『アジアの一期一会』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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