鉄道と国家─「我田引鉄」の近現代史 (講談社現代新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062881524

感想・レビュー・書評

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  • すべての路線は政治的につくられる。
    原敬、佐藤栄作、田中角栄、大野伴睦、大物政治家たちが介入してきた「鉄道史」
     第一章 鉄道は国家百年の大計
     第二章 日本の鉄道を創った政治家たち
     第三章 「我田引鉄」で生まれた鉄道
     第四章 政治が生み出す停車場
     第五章 鉄路存亡を左右する政治の力
     第六章 海外への日本鉄道進出

    どこかで読んだと思ったら、ちくま新書の「鉄道と日本軍」(竹内正浩著)も参考文献に入っていました。本書は、バランス良く纏められていますが、新発見があるという訳ではありません。

    以下、気になった点を、備忘録的に
    東海道新幹線の功労者として、佐藤栄作をあげているのは面白いです。
    (功労者としては、十河信二や島秀雄があげられますが、政治家として佐藤栄作をあげているのは、さすがです。)
    東京の地下鉄抗争(早川徳次と五島慶太)の際に、佐藤栄作が経営権を召し上げ、営団地下鉄に引き継がせた話は、猪瀬直樹の著書を読んで知っていましたが、五島が「佐藤という課長の首を切れ」と言っていたのは知りませんでした。(なんとなく佐藤と五島が共謀していたというイメージがあった)
    大野伴睦の力により岐阜羽島駅が出来たという話は有名ですが、政治的圧力により出来たというよりは、大野が岐阜県内の意見を集約したことにより、岐阜羽島に駅が出来たという事が正しいようです。マスコミ報道に基づき、面白おかしく作られたお話のようです。(この事実は、新幹線に関係する書籍では既出ですが、もっともらしい誤った話はなかなか消えないものです。)
    鉄建公団が、新幹線だけでなく在来線も、建設を行ってきたというのは知りませんでした。(もっとも私が社会人になった頃は、在来線の新線計画なんて現実的ではなかった訳ですが)

    鉄道史の概略を簡潔に知るには、なかなか良い本だと思います。

  • サブタイトル「我田引鉄」の近現代史とあるが、鉄道に限らず日本の社会資本整備はすべからく政治に利用されてきたと思う。残念なのは、地元への利益誘導優先で、国家レベルで俯瞰した発想が希薄だったことだ。これは今でも変わらないのではないか。

  • 面白かった。今まで鉄道について、どうやって線を決めていったかなんて考えなかったけど、凄くわかり易かった。

    国鉄時代の赤字でも作られた路線と、現在のような民営による赤字路線の廃線が対極が理解できた。

    資本面から見た路線と生活必要度で見る鉄道の重要性の違いは全く違うけど、今は民営鉄道による赤字・黒字の面だけで廃線の声が挙がる。そのため災害で路線復旧に莫大な予算が必要となった場合、どこが負担するのか微妙な通過点が現状。その民営と国有の微妙なバランスがすごくもどかしく感じる。

    他にも海外の新幹線輸出の点は、読んでいて腹の立つ部分が多くて、「新幹線は車両や線路と部分的に提供するのではなく、安全性を備えたシステムとして売るべきである」という筆者の言葉に肯けた。

    改めて鉄道・新幹線事業などの大規模公共システムには資本主義は次にして、国家が統制できるようにして欲しいと思った。(特に海外を相手にしている場合)一会社の意思で日本の技術が安売りされたり、悪いイメージがつくなら、ちゃんとした国家プロジェクトとして管理して欲しいと思った。

  • かなり面白かった。高い公共性をもつ鉄道と、国や政治との微妙な絡みは、開通当初から昔も今もこれからも、いろんな意味で社会を巻き込んで日本を転がしていくんだろうと思う。
    今後の社会が日本の鉄道に何を求めるのかを正確に理解せずにただ安定に甘んじていては、業界自体がいきなり根底から揺らぐことにもあるいは繋がるのかもしれない。

    単に年号を暗記する歴史の授業にはあまり関心を持てずに生きてきたけれど、あるひとつの視点を軸に歴史を紐解いていくと、あんなに覚えられなかった事件や出来事があら不思議、頭の中でひとつの物語として繋がる。

  •  イギリスから帰って最初の読書。

     もともと鉄道に興味があるので、タイトルで購入。

     後藤新平が、日本の狭軌ではなく、広軌を主張しているところにでてきて、このおっさん、あちこちで大胆なこと言っているなと思う。しかし、政治的な詰めが甘い。

     個人的には、鉄道は好きだが、やはり、この経済衰退の中で見直す点もあるはず。

    (1)著者は、何カ所かで廃線になったら、バスでもその地方は必ず衰退するように言っているが本当か?むしろ路線とか増えるし、地方公共団体の財政負担も軽減できるのではないか。

    (2)この本には、一切でていないが、鉄道と、バスの間で、LRTがはやっているが、中途半端で経営が成り立つか疑問。ロンドンでも、ケンブリッジまで、短距離のBLTが走っていたが、土曜日の昼なにのみがらがら。入改札もコスト縮減のために電子チャージ機に自分でタッチする方式だが、それできちんと収益が確保できるのか。

    (3)現在の鉄道政策は平時前提で、東日本大震災でその考え方がかわるべきというが、それはもっと税金をつきごんでも、複線的なネットワークを維持するということか。仮にそうだとしても、復旧のルピドからいれば、道路が最低限啓開できればいいのではないか。震災から鉄道の複数のネットワークというのはわるのではないか。

     いずれにしても、てっちゃんには楽しいが、てちゃんんでないと、あれっと思う点あり。

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著者プロフィール

昭和50年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒業、筑波大学大学院ビジネス科学研究科企業科学専攻博士後期課程単位取得退学。日本及び東アジアの近現代交通史や鉄道に関する研究・文芸活動を専門とする。平成7年、日本国内のJR線約2万キロを全線完乗。世界70ヵ国余りにおける鉄道乗車距離の総延長は8万キロを超える。平成28年、『大日本帝国の海外鉄道』(現在は『改訂新版 大日本帝国の海外鉄道』扶桑社)で第41回交通図書賞奨励賞を受賞。 『鉄道と国家──「我田引鉄」の近現代史』(講談社現代新書)、『旅行ガイドブックから読み解く 明治・大正・昭和 日本人のアジア観光』(草思社)、『宮脇俊三の紀行文学を読む』(中央公論新社)、『アジアの停車場──ウラジオストクからイスタンブールへ』(三和書籍)、『「日本列島改造論」と鉄道──田中角栄が描いた路線網』(交通新聞社新書)など著書多数。日本文藝家協会会員。

「2022年 『アジアの一期一会』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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