鉄道と国家─「我田引鉄」の近現代史 (講談社現代新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062881524

感想・レビュー・書評

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  • 鉄道の路線決定に政治が絡んで路線が捻くれてるという話はよく聞く。いわゆる我田引鉄である。
    本書はそもそもそれは当然であり、どのように政治が関わっていたのかを読み解いた本である。
    始めが、何故国鉄の軌間は標準軌を採用しなかったのかというおそらく素人の方には非常にハードルの高い(どうでもいいという意味で)話から始まるが、それ以降は非常に勉強になった。
    現代においても鉄道の新規路線を建設するには政治が関わることは絶対なので(制度上も)、本書がもつ意味は大きいように思う。

  • 戦前も戦後も政権や首相が代わるごとに方針が二転三転し、狭軌と広軌、拡大と縮小、新設と凍結の間をいったりきたりするのは、どこかで見た景色のよう。
    我田引鉄とはよくいったもので、ぐにゃぐにゃになった大船渡線みたいな線路の形を物理法則で分析したら面白そう。
    廃線になった線路がこれだけあったとは。30年後も残っている線路はどれだけあるのだろうか。

    それにしても、他人の論文の文末を引用して自分の本の締めにしてしまうとは。びっくりした。

  • 日経の記事で紹介されているのは省略するとして…。

    日清・日露線間期の鉄道国有化依頼、政府は国策として鉄道に介入する方針を貫いてきた。
    それ以来鉄道は重要な交通インフラとして軍や政争に翻弄されたが、国鉄民営化によってほぼ解放されると同時に利潤追求が求められた。
    東日本大震災で被災した路線の復旧が進まない中、再度鉄道への政府の関与を求める声があがっている。
    鉄道への国家介入が正しいのか、民営化による独立採算での利潤追求が正しいのか、それは歴史が決めるだろう。

  • 64点。鉄道の線路の幅について。健全な男子は小さい頃に、この話題について話したことがあるんじゃあないか。
    ない?いや、ゼッタイある。
    新幹線は国際標準軌であるのに対して、JRの在来線はそれより狭い。軌間が広ければ、その分車両も大きくなり、一度に輸送できる貨物や旅客数が増えるだけでなく安定度は高まり、よりスピードをだすことができる、、云々。
    そんなポピュラーな(!)狭軌選択の背景から本書ははじまる。掴みはおっけー。
    明治期の敷設以来、日本の鉄道は「我田引鉄」とも揶揄されるように、政治家が自らの選挙区に利益を誘導するがごとく鉄道を誘致する事例が明治、大正、昭和と途絶えることはなかった。「ここに、駅を作れい」みたいな。
    政治と鉄道の関係について事例を挙げながらわかりやすく解説する。大船渡線の歪さは笑える。リニア中央新幹線の話題がスルーされてたのは何故だろう。まだ言えないのかな。
    後半は新幹線の話になって、鉄道だけに、話は脱線して終わる。

  • 日本の鉄道草創期から、政治家の「我田引鉄」によるルート決定や赤字路線の撤退、さらには近年の新幹線輸出まで、鉄道と国家、政治の関係がさまざまな具体的エピソードで解説されています。創設当初から政治的要素の強かった日本の鉄道について、政治との関係は往々にして批判的な視点から語られることが多いように思いますが、この本は単に一元的に鉄道と国家の関係を否定しているわけではありません。商業的な面だけでなく、公共事業としての側面が強い鉄道の、複雑かつ人々の生活との結びつきの強い立場の難しさを感じます。個々のエピソードも興味深い。

  • 鉄道網発達に目がない私としては、政治家の我田引鉄ぶりを色々知ることができ大変面白かった。想いを強くする人が居ないと何事も実現し得ないのは事実。わがままとだけ断じるのも筋違いと感じる。道路についても類書があるのなら読んでみたい。

  • 鉄道と国家との関わりを、明治時代からの史実に基づき解説。
    最初は、日本の鉄道が軌間となった経緯について記載。狭軌から標準軌に変更しようとした後藤新平。また、それを阻んだ原敬。それぞれの国家に対するアプローチの違いが鉄道の軌間に対する考え方にも及ぶ。また、それが現代にも依然として大きな影響を与えている。
    中盤には田中角栄との関わりも記載。これも田中角栄の国家像が鉄道建設の方針に大きな影響を及ぼしていることが分かる。
    最後は、鉄道の海外輸出について。新幹線技術の海外輸出について、技術流出の危険性が懸念されるが、一方で、世界での技術標準を握ることによるメリットも大きい。
    鉄道をどのように敷設・運営していくか、ということは、この国のかたちをどうしていくかということと、密接に絡み合う。まさに、国家百年の計。対極的な観点が必要である。
    本書は、コンパクトにまとめられている一方、内容的にも充実しており、興味深く読むことができる。

  • 明治政府の鉄道敷設からはじまり、妙な経由地をもつ路線の謎、赤字路線の奮闘、記憶に新しい被災路線のゆくえ等、鉄道の歴史が綴られています。

    鉄道の海外輸出に対する考え方も面白かったです。”日本の”鉄道システムは世界に誇れるものだと思うので、鉄道という分野で日本の地位を確立し、本当に良いものを世界に提供できる機会が増えれば、と期待しています。

  • 日経新聞書評 原口隆行評 6/3/2012

  • 当初の軌間決定にまつわる話から、震災後の鉄道網復旧に関わる話題まで幅広く、とても楽しめた。
    ただ、図表が少なかった。資料を多く盛り込んでくれたらもっと楽しめたのにな…と思うと残念。

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著者プロフィール

昭和50年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒業、筑波大学大学院ビジネス科学研究科企業科学専攻博士後期課程単位取得退学。日本及び東アジアの近現代交通史や鉄道に関する研究・文芸活動を専門とする。平成7年、日本国内のJR線約2万キロを全線完乗。世界70ヵ国余りにおける鉄道乗車距離の総延長は8万キロを超える。平成28年、『大日本帝国の海外鉄道』(現在は『改訂新版 大日本帝国の海外鉄道』扶桑社)で第41回交通図書賞奨励賞を受賞。 『鉄道と国家──「我田引鉄」の近現代史』(講談社現代新書)、『旅行ガイドブックから読み解く 明治・大正・昭和 日本人のアジア観光』(草思社)、『宮脇俊三の紀行文学を読む』(中央公論新社)、『アジアの停車場──ウラジオストクからイスタンブールへ』(三和書籍)、『「日本列島改造論」と鉄道──田中角栄が描いた路線網』(交通新聞社新書)など著書多数。日本文藝家協会会員。

「2022年 『アジアの一期一会』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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