その可能性はすでに考えた (講談社ノベルス)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062990554

感想・レビュー・書評

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  • いかにもラノベ然とした登場人物のネーミングや文章表現に、読み始めの頃は多少抵抗を感じたが、ストーリーに入り込めて以降は意外とスイスイいけた。
    主人公が奇蹟の証明にこだわる根拠やその理論的背景などにまつわる説明が拙い、という根元的な弱点はあるものの、デビュー2作目にして(だからこそなのか)このような舞台設定に挑戦したという意気込みは素直に評価したいと思う。
    帯の惹句でどなたかが言及されているように、まさにこれこそが作家性というものではないか。

  • 奇跡を証明するために、あらゆる仮説と可能性を反証するという逆転の発想。
    反証に次ぐ反証、最後はアウフヘーベンまでも!
    荒唐無稽でかつペダントリー。
    論理的なのか論理的でないのか、もはや予測不能です。
    残虐趣味が好きにはなれませんが、間違いなく奇書であることは確かです。
    近年なかった、エキサイティングなミステリでした。

  • 10年以上前に起きた不可能犯罪について、仮説とそれを否定する勝負が繰り広げられる。新しい試みで、とても面白かった。この主人公のシリーズを読んでみたいと思う。

  • 最初に抱いた感想はミステリー版グラップラーバキ。作中で言及されている通り、詭弁に近いトリックの仮説をぶつけあい、探偵がそれを破壊していく。まるで、バキに登場する怪しげな格闘術のように。作品としての完成度にほとんど寄与していない物語もその雰囲気の構築に一役買っている。

  • 新宗教団体が集団自殺を遂げた不可解な謎に対し複数の仮説が並立的に提示されます。探偵役の上苙丞が論理的に全て否定していくのですが、思わぬ事態へ発展していく趣向は秀逸で、一味違った多重解決を楽しむことが出来ます。
    しかし、刺客たちが上苙丞の論理にあっさりと引き下がるのには拍子抜けですし、バカトリックの仮説ばかり並べたのに真相だけ真面目で無難というのもなんだかなぁという感じです。

  • 事件の謎は「奇蹟」が起こしたことを証明するために、あらゆる全ての可能性を否定して事件を解決しようとする探偵、上笠 丞(うえおろじょう)。
    裏社会の大物である(そして美女でもある)フーリンとともにひとつの事件が「奇蹟」によって起きたことを証明しようとします。
    依頼された事件が、「カルト宗教団体の首切集団自殺」にまつわるという、猟奇的かつ特殊性の高い事件という点で、すでに荒唐無稽ではありますが、さらに、その事件のトリックの仮説をたてるライバルが次々と登場してきて、ミステリーというより「推理格闘小説」の様相を呈してきます。
    このライバルたちが、またひとくせもふたくせもあり、お互い奥義を出し合うかのようなディベート合戦が繰り広げられます。
    もともとの謎が突飛なこともあり、仮説もかなり暴論ですし(さらに小難しい点もあり)、反証も詭弁のような感じはしますが、読者がしらけない程度のレベルを保っていますし、合間に挿入される薀蓄の数々に、思わず読み進めてしまいます。
    またダークかつハードボイルドな雰囲気の中で、アニメやゲームのキャラクターのような人物を登場させ、挿絵がないのにビジュアル的なかっこよさが感じられます。
    とはいえ、普通に謎解きを楽しむ作品ではないし、トリックを想像する楽しみは少ないです。
    ただ、その屁理屈にも似たディベート合戦と、後半にかけてたたみかける超展開は、他でなかなか味わえない愉快な物語でもあります。

  •  本作を読んでみようと思ったのは、たまたまネット上で話題になっているのを見かけたからである。多重解決ものらしい? 今年は深水黎一郎さんの『ミステリー・アリーナ』という傑作を読んでいたので、俄然興味が湧いた。

     作者の井上真偽さんは、第51回メフィスト賞を受賞してデビューし、本作が第2作である。何だか嫌な予感がする装丁。帯の推薦文は麻耶雄嵩さんだぜ…。早速読んでみると、多重解決もの的な要素は確かにあるものの、多重解決ものではない。

     カルト宗教団体による集団自殺事件の、唯一の生き残りという女性が、探偵を訪ねてきた。長年の疑問を解いてくれという。それは「奇蹟」か否か? 探偵は言う。すべての可能性が否定されれば、「奇蹟」の存在が立証される…。

     簡単に言ってしまうと、本作は推理勝負である。次々現れる対戦相手が、トリックを披露する。荒唐無稽だろうが何だろうが、可能性さえあればいい。依頼者の遠い記憶以外、証拠は何もない。と言うより、証拠を示す必要がない。

     探偵は、相手の説が不可能であることを、論理的に看破しなければならない。相手は根拠など要らないのに、探偵には根拠が求められる。どう考えても探偵が圧倒的に不利であり、こんな推理勝負は読んだことがない。期待できるか?

     そもそも、現在起きている事件ならともかく、10数年前の事件のすべての可能性を否定できるわけがない。本作のタイトルは、探偵の決め台詞でもあるのだが…うーん、確かに動かぬ証拠だあぁぁぁぁぁっ! とまでは正直思えなかった。

     面白い試みなのは認めるし、相手も探偵もそれなりに筋が通っているけれど、やられた感は乏しかったかな。大体、対戦相手がこれだけか? 背後にそんな大物がいたなんて、驚く以前に戸惑うだけだ。「奇蹟」の道は果てしなく遠そうだな…。

     この癖のあるキャラクターたちは、再登場するのだろうか。キャラのファンはそれなりにつくかもしれない。

  • 前作の印象からして、次作を買うことはないだろうと思っていましたが、出版社側の猛烈なプッシュ、そしてなにより麻耶の帯に吊られて買ってしまいました。
    その内容はと言うと、うーん、評価が難しい…
    一風変わった推理合戦の果てに起こる矛盾。その導き出し方はかなり面白いと思います。否定に否定を重ねてきた推理が、さらに否定される。その過程は極めてロジカルで、なるほど文三が推したい気持ちもわかります。
    それでも、この真相はこの設定に在っては肩すかしと感じてしまいました。ミステリとしての設定、趣向に殺られてる感は否めません。
    推理自体は面白いのに、真相がチープでつまらない。
    光る部分はあるのに、何とも勿体無い作品です。

  • 2024/1/20
    これは推理とかロジックを楽しむやつ。
    私の頭ではもう無理なやつ。
    集中力もない。
    余談に付き合ってる元気もない。
    最後探偵が優しい回答に満足げだったのはよかった。
    もう優しい話がいいのですよ。

  •  自分はサラッと読めるシンプルな文章が好きなので合いませんでした。

     語り手が中国人、修飾語の多様、歌人、小ネタが多くて文章が読みづらくストーリーが入って来づらい。
    さらに主要登場人物をわざわざ日本人でなく中国人、美男美女、オッドアイ等の設定にしているのにその設定が活かされないので、読みづらい文章になるなら普通の日本人設定で良いと思ってしまった。
    昔は残虐な中国マフィア(?)的な設定も、場面によって都合よく崩壊してて一貫性が無く、単なる昔悪かった厨二病キャラみたいで残念に感じた。それならその設定いらないと思ってしまった。

     ラストに向かうストーリー展開(多重解決、否定の矛盾)も、ラストも、ありきたりで驚きがなくて残念だった。

     一方で、「悪魔の証明」という設定自体はとても面白そうだし、仮説に対する1つ1つの反証はそんなに読者にとって分かりづらくないく良い。

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著者プロフィール

神奈川県出身。東京大学卒業。『恋と禁忌の述語論理』で第51回メフィスト賞を受賞。
第2作『その可能性はすでに考えた』は、恩田陸氏、麻耶雄嵩氏、辻真先氏、評論家諸氏などから大絶賛を受ける。同作は、2016年度第16回本格ミステリ大賞候補に選ばれた他、各ミステリ・ランキングを席捲。
続編『聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた』でも「2017本格ミステリ・ベスト10」第1位を獲得した他、「ミステリが読みたい!2017年版」『このミステリーがすごい!  2017年版』「週刊文春ミステリーベスト10 2016年」にランクイン。さらに2017年度第17回本格ミステリ大賞候補と「読者に勧める黄金の本格ミステリー」に選ばれる。
また同年「言の葉の子ら」が第70回日本推理作家協会賞短編部門の候補作に。
他の著書に『探偵が早すぎる』(講談社タイガ)がある。

「2018年 『恋と禁忌の述語論理』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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