憲法九条を世界遺産に (集英社新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087203530

感想・レビュー・書評

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  • (2012.06.25読了)(2008.02.22購入)
    出版されたのがつい最近のつもりでいたのですが、もう6年経過してたんですね。
    気にはなっていたのですが、やっと読めました。
    日本国憲法の第九条は、世界的にも稀有の物なので、世界遺産に登録して残すべきだ、というのですが、表現の仕方が実にいいですね。

    【目次】
    対談の前に  中沢新一
    第一章 宮沢賢治と日本国憲法―その矛盾をはらんだ平和思想
    第二章 奇蹟の日本国憲法―日米合作の背景に息づく平和思想
    幕間 桜の冒険  太田光
    第三章 戦争を発動させないための文化―お笑いは世界を救えるか
    第四章 憲法九条を世界遺産に―九条は平和学の最高のパラノイアだ
    濃密な時間のあとで  中沢新一

    ●日蓮主義者と宮沢賢治(20頁)
    ある時期、宮沢賢治は田中智学の思想に傾倒して、研究会へ出たり、宣伝活動みたいなことまでしています。
    田中智学は、とってもストレートな論理と物言いで、神道と日蓮宗を結合して、それを天皇を中心とする日本の国体という考えでまとめて見せた。西欧的な見方によるんじゃなくて、日本人のやり方で世界史をまるごと理解して見せたうえで、危機的な状況の新しい日本の方向性を示そうとした。そういう田中智学の思想に、宮沢賢治は深い共感を覚えて、それこそ、雨にも負けず風にも負けず、その活動に邁進していこうとしていました。
    ●賢治の電信柱(34頁)
    レーニンはある科学者の案を受け入れて、シベリアの電化を考えたんです。電線の周りに発生する電磁波で、気流の流れを変え、気象を変えようという案です。シベリアに送電線を張りめぐらせ、人々の暮らしを電化すると同時に、電線の電磁波力で、シベリアの厳しい気候を温暖化させていこう、そうしてシベリアで農業ができるようにしようと、本気で考えていた。電信柱こそ、そういう理想の象徴だったわけですね。
    ●生きる意味(93頁)
    「私の生きる意味はもう何もない」と嘆く少女にチャップリンは説く。人生に意味など始めから無いと。薔薇はなぜ美しいか。薔薇は決して美しく咲こうなどと思っていない。ただ生きようとして生きているだけである。だからこそ美しいのだと言う。そこに意味など存在しないと。
    ●世界遺産(126頁)
    世界遺産に指定された場所の多くは、現代社会の中で、なかなかほかにはあり得ないようなあり方をしています。美しい景色も、そこに残された精神的な価値も、現代の価値観からするとあり得ない場所です。そのあり得ない場所を持続しようというのが世界遺産の考えでしょう。
    日本国憲法は、普通の国の憲法とは違う。とくに九条があることによって、普通になれない。それは国家が自分の中に矛盾した原理を据えているからです。
    ●女性天皇について(133頁)
    男系相続が天皇制の本質を決めているかというと、違うんじゃないかと思います。
    ●知りたいことが省かれて(141頁)
    戦没学生の手記『きけわだつみのこえ』は戦後すぐ出された本で、最後の解説のところに国粋主義的なものは全部省いたと書いてある。
    僕(太田光)が知りたいのは、戦争を信じた人たちがどんな確信を持って信じたのかなんです。それが排除されていることがもどかしいというか、僕らの世代にとってみると、それこそが知るべきことなんじゃないかと思います。

    ☆中沢新一の本
    「チベットのモーツァルト」中沢新一著、せりか書房、1983.11.20
    「宗教入門」中沢新一著、マドラ出版、1993.02.01
    ☆爆笑問題の本
    「爆笑問題の日本原論」爆笑問題著、宝島社、1997.02.06
    「天下御免の向こう見ず」爆笑問題著、二見書房、1997.10.25
    「爆笑問題のピープル」爆笑問題著、幻冬舎、1998.06.20
    「爆笑大問題」爆笑問題著、講談社、1999.01.11
    「ヒレハレ草」爆笑問題著、二見書房、1999.10.01
    「爆笑問題の日本原論2000」爆笑問題著、メディアワークス、1999.12.25
    「爆笑問題の死のサイズ」爆笑問題著、扶桑社、2000.06.30
    「爆笑問題の日本史原論」爆笑問題著、メディアワークス、2000.08.05
    「三三七拍子」爆笑問題著、二見書房、2001.03.20
    「爆笑問題 時事少年」爆笑問題著、集英社、2001.04.30
    「爆笑問題の日本史原論 偉人編」爆笑問題著、メディアワークス、2001.08.10
    「爆笑問題の世紀末ジグソーパズル」爆笑問題著、集英社文庫、2001.08.25
    「爆笑問題の日本史原論 グレート」爆笑問題著、幻冬舎、2002.08.10
    「昭和は遠くなりにけり」爆笑問題著、幻冬舎、2003.07.25
    「爆笑問題が読む龍馬からの手紙」爆笑問題著、情報センター出版局、2005.08.04
    (2012年6月25日・記)

  • 軽い気持ちで手にとったけど、なかなかスッと入ってくる内容で、このへんについての整理にもつながった。矛盾を肯定してそのまま愛するスタンス。宮沢賢治の下りも面白かった。

  • 憲法9条の背景について、多面的な見方をしているかはわからないけれど、よく分かる、読みやすい本でした。

    歴史の先生や親から、日本国憲法はアメリカから押し付けられたものだというのを聞かされたなぁと思い出しました。

    9条廃止の声がたまに出る中で、私は戦争なんてダメ!残すべき!と思っていたけれど、なぜ廃止が駄目なのかとか、9条の良いところ悪いところを知っていることは大事だよなーと。

    それとは別に、死の表現を避けないかつての日本人の文化を改めて素敵だなと思った。生と死の間にもっと積極的に考えなければいけないことや、ヒントもたくさんがある気がする。

  • 宮沢賢治から憲法までいったりきたりの対談ではあるが、真剣な話が面白い。

  • 爆笑問題の太田氏の軸が書かれていると感じた1冊。
    彼は世の中には矛盾があるからこそ、そこからエネルギーが生まれると考え、その矛盾をただ全否定、全肯定するのではなく真っ直ぐ向き合うことが、今の世論に足りないのではないかと投げかけているように感じた。
    同時に彼は言葉のもつ力に対し恐れを抱きつつも、発信者としての責任はきちんと持ちたいと表明している点に彼の潔さを感じた。

  • 朝日新聞で紹介されていたのと、爆笑問題の太田光と「アースダイバー」を書いた中沢新一の対談というのが面白そうで読んでみました。
    私は珍しい組み合わせだな~とおもったけど、この二人はもともとメル友だったと書いてありました。

    内容は、対談に初めと終わりに中沢新一の文章、中程に太田光の文章が入っていました。
    九条を中心に憲法改正問題が出てきていますが、タイトルどおり九条についてあれこれを話しています。非常にいろいろな方面の話がひきあいに出されています。対談のためか、引き合いに出されても「○○の××という部分が△△だよね」といったくらいにしか触れられていないので、その○○を知らないと何を言っているか分からない部分もあるようです。幸いにして、私の場合は8~9割は分かったので議論についていけたのですが、母には、分からないものばかりだったようで、「何を言っているのかさっぱり」という感想でした。

    その上で、この本で語られているのは、九条(と日本国憲法)の実務的な成り立ちや方法論ではなく、もっと根元にあるだろう思想の部分だと感じました。根元をつきつめないと、表層だけの議論になってしまうということなのですが。では、実際どうなの?ということを考える人には、理想論もしくは精神論だけ語っているように見えてしまうかもしれません。
    でも、やっぱり精神論も必要だと思います。…というか、私の場合、憲法って実務的な法律というよりも(いや、法律なんですけど)、法律の上にあるスローガンというかモットーみたいなものなのじゃないかと思っているので…。そういうのを憲法と言っていいのか?と言われると、一般的な世界(国)では違うでしょうねと答えるしかないです。この本でもそのように話されています。そして、その一般的でないところが日本国憲法の大切な部分だと。

    この本を読んで、「何を言っているんだ」と感じる人もいるだろうし、「そういう考え方もあるのか」と感じる人もいると思います。私は、とりあえず、話に引き合いに出されたもので、まだ読んでいなかったりするもの…とくに、『ゲド戦記』の作者、アーシュラ・K・ル=グゥインの両親が関わった最後の野生のアメリカ原住民についての本「イシ 北米最後の野生インディアン」を読んでみたいと思いました。

  • 太田光は大学のOBだけど、うちの大学からこんな人出るのだなと驚く。自分の理想と世界の現状のずれを正すための努力を惜しまない男という風に思っているのだけれどその為には強い自制心と犠牲が必要なはずでそんな生き方は僕に勇気を与えてくれる。
    憲法九条に関して自分はそこまで考えたことすら無い、生まれた時から戦争というものは日本では関係ないと思考停止しているからだ。世界のどこかでは今も戦争していてというのはすごく身体感覚から離れていて分かりにくい。一度戦争を体験すれば分かるのだろうがそこまでの勇気も無いわけで。この本からはそういった自分の戦争への無知と思考停止を教えてくれた。

  • 僕自身は改憲論者の部類に入ると思う。
    憲法九条の素晴らしさを憲法の中にはみとめていない・・・という立場だ。

    本書はお笑い芸人の太田光と人類学者の中沢新一の対談本。

    憲法九条を「平和憲法」として諸手を上げて礼賛する平和主義者とは違って、その危うさや幻想、理想、非現実性をしっかりと認識した上での護憲の話になっている。

    冒頭に宮沢賢治の矛盾を孕んだ平和思想を取り上げて、それを手がかりに憲法九条を語っているところがそれを象徴しているように思える。

    憲法九条を護りたいと思っている人にも、または逆に改めたいと思っている人にも、多くの示唆を与えてくれるおすすめの本。

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    【日本国憲法第九条】
    日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
    2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

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    【目次】
     対談の前に  中沢新一
    第一章 宮沢賢治と日本国憲法 ―その矛盾をはらんだ平和思想
    第二章 奇蹟の日本国憲法 ―日米合作の背景に息づく平和思想
     幕間  桜の冒険  太田光
    第三章 戦争を発動させないための文化 ―お笑いは世界を救えるか
    第四章 憲法九条を世界遺産に ―九条は平和学の最高のパラノイアだ
     濃密な時間のあとで  中沢新一
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  • 論理矛盾とかはあるんだけど、情熱は伝わってくる。

  • 沖縄の基地問題のニュースなどを見るにつけ、色々と思うところあって再読。
    最初に読んだ時、いきなり宮沢賢治の話から始まって「???」となったけれど、今回もやはり「???」となった。
    勿論、賢治の話から入っているのには理由があって、最初の「???」を乗り越えると後は一気読み。特に最終章である第4章には、己を振り返ってう~むと考えさせられる。
    ストレートに護憲を訴えているのではなく、憲法九条とは何か、なぜ守るのかということを問いかけている本だと思う。

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著者プロフィール

一九六五年埼玉県生まれ。八八年に田中裕二と「爆笑問題」を結成。二〇一〇年初めての小説『マボロシの鳥』を上梓。そのほかの著書に『違和感』『芸人人語』『笑って人類!』などがある。

「2023年 『文明の子』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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