陸海軍戦史に学ぶ負ける組織と日本人 (集英社新書 457D)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087204575

感想・レビュー・書評

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  • 陸軍悪玉•海軍善玉説には与せず、海軍に手厳しい。
    事実に基づく主張を心掛けてあるものの、自虐史観の匂いも若干感じる。

  • 太平洋戦争における日本の敗因は数多くあったことはのちの歴史書や研究者による書籍、小説などからも読み取ることができる。陸海軍の不和であったりアメリカを中心とする連合国側との圧倒的な国力差など、思い浮かべたらキリがない。
    本書は日本が先の大戦で敗れ去った理由を、組織、経済だけでなく、気象や日本人の気質なども加えて多角的に分析している。日本は四季があるから季節の変わり目や天候には非常に敏感であり、それに従った作戦構想が重要になる。もちろん軍隊内部にも気象学に長けた要員はいたし、研究もなされていた。キスカ島の軌跡の撤退などは見事にハマったケースで賞賛されるべきものだが、全ての戦線で上手くいっていたかというと疑問も残る。南から北まで最大版図まで至った広範囲な戦局に於いては全く異なる気象条件や現地の天候の実態があったであろうが、それを知らない東京の大本営が作戦の主導を握る。十分に研究しておきながらも様々な要因で時期を逸したり、または早めたりとチグハグな作戦を下したりする。
    組織においては、海軍ならハンモックナンバーに見られるように、学校卒業時の成績順位や先輩後輩の年次が第一優先となる。一方のアメリカはニミッツが少将から大将に昇格し、ハルゼー、スプルーアンスといった実力次第で重要ポジションを任されていくからヤル気も能力も高い。日本は負けても一時的に更迭されはするものの、すぐに前線指揮官の重要ポストに戻れるから、失敗もそれほど恐れない。こうした年功序列人事は現代社会においても若者のモチベーションには悪影響を与えるし、ましてや戦場で生き残って昇進だけを考える指揮官なら、士気も上がらず撤退意欲に繋がってしまうのもやむを得ない。
    現代でも多くの会社組織は似たような問題を抱えているが、太平洋戦争当時からなんら変わらず伝統として続いている。この組織人事の問題は敗戦原因の中でも特に日本の体質として根深いものであっただろう。
    そして何より、海外留学組がその目で見てかなわないと感じた敵に対しても、精神力と根性論、神の加護といったスピリチュアルな面が最後に出てしまうのも、現実を無視して無謀な闘いを挑む日本人だからこそ、といった感じだ。八百万の神があらゆるモノに宿る日本人的な考え方は、物量でリアルに押してくる連合軍に勝てる訳が無い。
    どうも見通しが甘い、楽観的な方にばかり考えてしまう様だが、裏を返せば「何とかなるかも」「それでもやらなければ」という状態にそもそも陥ってる逼迫した状況が続いていることを物語る。海軍には割と現実的に考える良識的な人材が多かったとも言われるが、真珠湾を始めた山本五十六然り、ミッドウェーやレイテの敗戦など、戦争全体の趨勢を決めていたのは、海軍の作戦失敗が目立つ(太平洋で戦っていたからやむを得ないのは理解するが)。
    その海軍と陸軍の不和もよく知られており、飛行機にしても弾薬にしても、異なる規格で独自進化を遂げた挙句、互いに協力的に融通し合うことすら出来ない話など、当時日本自体が冷静であったとは言い難い状況がしばしば見られる。細部にこだわり過ぎて、世界に通用せずコスト過多に陥った現代のガラケーにも通ずる。日本人のこだわり体質と黙して語らず的なコミュニケーション能力不足、限られた国土の中で面子を重視するような、とても戦時に役立ちそうに無い日本人の気質だと感じる。総じて日本人には海外との戦争には向いてない民族だと感じる。
    近年インテリジェンスの弱さについてもよく論じられているが、情報収集能力が低い以前に、収集した情報を基にした分析や活用に関する問題の方が遥かに大きい。分析結果とは逆方向に向かうのは国力など経済的な問題がある事はわからなくも無いが、ならば分析は要らなかったのではないか。活用できずに自分たちだけの秘密として仕舞い込んでしまうのもタチが悪いを通り越して、ただの意地悪だ。
    本書は度々そうした日本人の民族性に触れる分析が出てくる。似たような書籍が多い中、改めてまざまざと愚かさを見せつけられ、今の仕事や会社経営に役立ちそうなものを拾い上げるには良い。

  • 近代の陸海軍戦史を元に、その日本人とその組織の在り方を分析した一冊。

    えてして戦前の日本の敗因を安直に求めるものになりがちだが、そうではなく客観的に分析しようとしてる姿勢に好感が持てた。

  • 何気なく読んだが、季節感など新鮮な視点があり本当に良かった

  • [ 内容 ]
    日本は世界第四位の軍事大国といわれる。
    しかしそれは、軍事予算、装備の質と量を意味するだけで、本当の軍事力をさすものではない。
    組織としての危機管理能力、指揮系統の柔軟性と迅速性がなければ、ただの張子の虎である。
    本書は戦前の陸軍、海軍の作戦行動の欠点を組織論という観点から明らかにし、今日につづく集団としての日本と日本人の問題点を探っていく。

    [ 目次 ]
    第1章 戦争に求められる季節感
    第2章 社会階層を否定した軍隊
    第3章 戦う集団にあるべき人事
    第4章 誤解された「経済」の観念
    第5章 際限なき戦線の拡大
    第6章 情報で負けたという神話
    第7章 陸海軍の統合ができない風土

    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • ・東京では、毎年2月26日は雪かみぞれ、10月10日は快晴。よって2.26や10.10のオリンピックが思い起こしやすい。

  • 太平洋戦争時の日本軍の指揮統制をつぶさに考察していく中で、そこのどこに問題があったのか?なぜそのような選択をしたのか?ということを、詳しく書き込まれている。
    組織と言うものを考えさせられるとともに、この歴史自体にも非常に興味をそそられる内容だった。
    惜しむらくは、自分の会社と似ている部分があってちょっと凹んでしまった。。。それくらい、戦争当時にどのような情勢で、日本軍の思想・生い立ちがどうだったから、結果的にこうなってしまった、という説得力のある文章。面白かったです。

  • 感想未記入

  • 日本が戦争にまけたのは、組織論によるところがおおいのでは?という仮説から戦史を検証。

    海軍が負けたのは人事のせい(ハンモックナンバー)85
    限られた戦力で戦勝を勝ち取るには、力を集中させなければいけない。それも決勝点に。決勝点以外にいかに戦力を減らすか?が大事112
    なぜ戦線を際限なく拡大してしまったのか? 血で獲得したものを放棄するのが申し訳ないという理由と際限なき前地の法則(拠点防御のための前面の事を前地という。拠点のための前地、前地のための前地、と際限なく戦線が拡大。162
    軍隊では「編成道義を守れ」と強調される。新たに編成される部隊には最良の人材を送り出せ、厄介払いに絶対に利用するな、という原則(254)

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著者プロフィール

軍事史研究家。1950年、神奈川県生まれ。
中央大学法学部法律学科卒業。国士舘大学大学院政治学研究科修士課程修了(朝鮮現代史専攻)。著書に「日本軍とドイツ軍」、「レアメタルの太平洋戦争」、「日本軍の敗因」(学研パブリッシング)、「二・二六帝都兵乱」、「日本の防衛10の怪」(草思社)、「陸海軍戦史に学ぶ負ける組織と日本人」(集英社新書)。「陸軍人事」、「陸軍派閥」、「なぜ日本陸海軍は共同して戦えなかったのか」(潮書房光人社)、「帝国陸軍師団変遷史」(国書刊行会)がある。

「2020年 『知られざる兵団 帝国陸軍独立混成旅団史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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