終わらざる夏 中 (集英社文庫)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087450798

作品紹介・あらすじ

運命の糸に操られるように、北千島の戦地へ向かった3人の男。信州の疎開先から逃げ出した少年と少女。過酷な状況下、何を信じ、何を守るのか。人間の本質を照射する戦争文学の巨編。

感想・レビュー・書評

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  • 終戦の直前で終了。複数の場面が設定され「不条理」を描ききった。昭和20年夏の敗戦に向かう日本、国民は何も知らされず耐えるのみである。①占守島に向った翻訳要因の片岡、菊池医師、富永軍曹が敗戦濃厚を知らされる場面/②片岡の息子・譲が疎開先で静代と出会い東京に向け歩き出す/③片岡の妻・久子が息子・譲、夫、義弟を思い奔走する/④占守島から追い出されたアイヌ族。戦争に巻き込まれた彼らの悲哀が身につまされる。広島・長崎の全滅とポツダム宣言受諾の報、ラストの下巻で昭和20年の夏はどのように過ぎていくのかを追っていく。

  •  疎開先の小学生たちや教師、島で働く女子学生たち、そして敵兵であるソ連兵たちなど、自国の兵士だけでなく、それぞれの立場の苦悩と葛藤、戸惑いを描くことで浮かび上がる、戦争の不条理と非情さ。

     こうした様々な立ち位置からの悲劇を描けるだけでも、すごいと思うのですが、さらに浅田さんは物語の舞台となる占守島すらも、不条理と非情から生まれたことを描きます。

     国家の思惑に踊らされ、故郷を追い出された先住民たちの悲劇。単に物語の舞台でしかなかったと思っていた島すらも、不条理と非情から生まれていたということが、明らかにされるのです。

     個人と土地、それぞれの物語をあますことなく描ききり、小説は最終刊に向かいます。

  • 終戦後の任務を担った片岡と菊池医師、鬼熊軍曹の運命、そして疎開先から抜け出した片岡の息子。刻々と近づく終戦の日とその後の終わらない夏。中篇はじりじりとして進まない時と進んでほしくない時が交錯しているようだ。

  • 中巻はあっという間に読み終えました。

    なんなんだ、もう。
    幸せな思いをしてる人が一人もいないじゃないか。
    戦争ってそういうもんなんだけど、やっぱり悲しい。

    片岡さんはようやく占守島に着きました。
    本当に悲惨になりそうなのは下巻のよう。
    どうか、片岡さんも菊池さんも鬼熊さんも死なないで…と
    祈りながら読まなければなりません。

  • シュムシュはクリルアイヌ語の「シーモシリ」が訛ったもの、「美しき島」「親なる島」とのこと。定住に適さぬ火山灰地で出来上がっている、北千島唯一の丘隆地と草原に被われた島。一年のうち七か月は雪と氷にとざされるという。
    片岡のひとり息子譲と同じ学校の上級生静代が疎開先の信州から抜け出し父母のいる東京へ向けて歩いている状況、疎開経験のある我が両親の子供の頃と重ね合わせてしまう。
    「この星明りの線路が、戦争のない世界に続いていると信じた」

    ロシアは軍事上の必要性、太平洋への進出路を失うから樺太よりも千島国境を重要視していた。明治八年「樺太千島交換条約」により樺太の全土と交換に全千島列島を日本の領土としたのは世界外交上の大成果、日露戦争賠償で樺太獲得、石炭石油採掘権えるなど北辺の主導権握ることとなった。
    日本の領土になったところには陛下のご名代として勅使が差遣という魂入れ、欧化政策による天皇の神格化、国家的求心力に利用されたという説明あり。
    缶詰工場に働く女子挺身隊員の石橋キクが学年総代として卒業式には全員セーラー服をきさせてほしいと交渉に敗れた様子は切なすぎる。
    譲と静代が歩き疲れた夜に身を寄せた、鴨居に夫や息子と思われる写真が並ぶ白髪のおばあさんちでのお芋とお米を炊いたお粥は体を芯から温めてくれそう。子ども同士の言葉少ない互いの立場を思いやるやりとり。
    通訳を必要とする理由が語られ、長い夏が終わる予感。

  • 2020年3月21日読了。

    片岡、富永、菊池の三人はついに占守島に到着する。
    新兵の3人が到着後に参謀の吉江少佐から伝えられたこととは。

    また、疎開先を脱走した譲と静代の行方は?

    終戦の日まで残り3日、満州にはソ連軍が条約を破棄して国境を超えてきている。

  • 暗い内容で気が滅入り、読む終えるまでに何ヶ月もかかってしまった。
    入れ替わり立ち代わりそれぞれの立場の人間が語り手となっていく手法だったが、読みづらいと感じたときもあった。
    占守島の戦いのことは全く知らず、たまたま聞いていたラジオ番組のゲストが著者で本書の紹介をしていたため、手に取った。
    日本でこの戦いの知名度は低いが、教科書に載せても良いのではないだろうか。

    結末は救いがなく、心が重くなった。
    生き残った人々はシベリアに送られ、無事に帰国できたかどうか胸が痛い。
    娯楽のための読書はすばらしいが、ときどき本書のようなジャンルを読むことは大事なことなのかもしれない。

  • 「戦争とは、生と死との、ありうべからざる親和だった。ただ生きるか死ぬかではなく、本来は死と対峙しなければならぬ生が、あろうことか握手を交わしてしまう異常な事態が戦争というものだった。」

  • 上巻より濃い内容の中巻。驚くほど過激な浅田次郎節炸裂の、登場人物の言葉選び。
    凄まじい戦時中の普通に生きている一般人と軍人の
    なんちゅーかもどかしいというか、どうにも出来ない現実の描写。
    引き込まれていくように読むにつれ、眉間にシワが寄っていくような。
    一億総玉砕というより全滅という言葉が何ともリアル。
    やっとバラバラだった登場人物がパズルの様に繋がったかなぁーと。

  • 登場人物達それぞれの戦争に対して向き合う戦いを描く中巻。

    戦争が終局に向かう中、片岡が召集された真実も明らかになっていく。
    狙った通りの結果をもたらすのか?それとも?

    戦争の凄惨さを感じながらも、ページを捲る手は止まらない。
    戦争自体ハッピーエンドでないが、登場人物達のハッピーエンドを願って、
    そして、この物語の結末に向けて、いよいよ下巻。

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著者プロフィール

1951年東京生まれ。1995年『地下鉄に乗って』で「吉川英治文学新人賞」、97年『鉄道員』で「直木賞」を受賞。2000年『壬生義士伝』で「柴田錬三郎賞」、06年『お腹召しませ』で「中央公論文芸賞」「司馬遼太郎賞」、08年『中原の虹』で「吉川英治文学賞」、10年『終わらざる夏』で「毎日出版文化賞」を受賞する。16年『帰郷』で「大佛次郎賞」、19年「菊池寛賞」を受賞。15年「紫綬褒章」を受章する。その他、「蒼穹の昴」シリーズと人気作を発表する。

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