雨の塔 (集英社文庫)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087466690

感想・レビュー・書評

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  • それぞれ事情がある4人の美しい少女。
    人里離れた岬にある全寮制の女子校で出会い‥
    端正な文章で淡々と描かれるムードのある世界です。

    大変な資産家の娘だけが入ることの出来る特殊な学校。
    学生証をかざすだけで、広大な敷地内にあるテーマパークのような店でブランド物の洋服も流行のスイーツも手に入れられるが、出て行くことは出来ず、新聞もテレビもない。
    自由と情報はないのです。
    卒業すれば、どこの大学の卒業証書も手に入れられるという。
    提携している高校では「島流し」と称されていました。

    財閥の愛人の娘・三島敦子は、小柄で長い黒髪。
    愛人の娘の中では早くから三島翁に認知され、可愛がられてきたが、学校はここになった。
    都岡(つおか)百合子は母を知らない。母は名家の娘だったらしく、めったに会うこともない父は外国人。都岡はすらりとした西洋の人形のような外見だ。
    やはり資産家の娘だが、三島ほどではなく、都岡をそばにおきたがる三島に気に入られている限り続く関係だった。

    ひと気の少ない海沿いの寮に、新入りが入ってくる。
    男の子のように短い髪の矢咲(やざき)実。
    クラスメートだった黒川財閥の娘さくらと心中未遂を起こし、周囲の視線から逃れるようにここに来た。
    少し早く来ていた小津ひまわりは、母が中国人のデザイナーで、リルファンという名も持つ。
    少女の頃には人気モデルだったが、母は娘を一時的に利用しただけで本当の関心も愛情もなかった。

    閉鎖された空間で、可愛いもの綺麗なものに囲まれつつ、物憂げに日々を過ごす娘達。
    都岡はモデルだったリルファンのことを知っていた。
    矢咲は、さくらに似ている三島に惹かれ始める‥
    互いに少しずつ触れ合い、興味を抱き、人間関係が交差していきます。
    そのはかなさ、ほんのひとときの熱さ、動きの取れない切なさ。
    嫉妬も愛情も感じるけれど、どう生きたらいいかをまだ知らない脆さ。

    大学1年にしては無抵抗で幼い気もするけれど‥
    もともと孤独がちな育ち方もあり、こんな場所に入れられてしまったら気力も衰えるだろうか。
    しかし、こんな非現実的な4年間を過ごして、家が使う駒としてであっても、役に立つ大人になれるのかな?
    現実味はあまりないのですが、さらさら綴られる物語に酔いしれていたくなります。

    恩田陸の作品や、萩尾望都の作品を思い出しますね。
    もうあれは古典?
    宮木あや子が書くと、こうなるのですね。
    こうなる必然性はないのではと思う結末も、影響を受けた作品の雰囲気とモチーフの変形という観点からすると、わかるような気もするのです。

  • 「岬の大学」と呼ばれる周囲から孤立した全寮制の女子大に通う四人の女の子の話。自由に焦がれても周りに生き方を縛られ、お互いを求め合うことしかできない彼女達。この物悲しい美しさは、作中にも何度も登場し、タイトルに含まれている雨に似ているのかも。風も無く時折雨音が聞こえる程度で静かだけれど寂しいイメージ。こういう雰囲気は好きです。彼女たちが出会いによる変化は、前に進むために必要だったと信じたい。

  • 選ばれた資産家の娘達が
    通うことが許されている女子大学。

    着たい服も、
    食事も、
    なんでも手に入るが、
    学区の外に出ること、
    ニュースや情報は手に入らない。

    隔離された女子寮。
    そこに一人の女の子が入寮する。

    均衡を保っていた世界が、
    ほころび歪に崩れ
    絡まっていたものがほどけて切れる。

    「捨てられ」「逃げるように」「島流し」にあった娘たち。

    愛人、妾、結婚するための道具として、
    生を受けた彼女達。
    少女と呼ぶには危うい年齢の19歳。

    矢咲は大財閥の娘、
    さくらと心中事件を起こし
    情報や噂から逃げるように、この寮を訪れる。

    そこで出会ったのは、ルームメイトの小津。
    さくらに似ている三島。
    三島の奴隷である都岡。
    この4人だけの閉ざされた世界で物語は進みます。


    「・・・・・・やめて やめて やめて やめて」

    「触らないで 近寄らないで 微笑まないで 
     私を不安定にさせないで」

    必要とする、スキになる、そこで抱く絶望。

    仲が良かったからこそ、
    信じていたからこそ、
    ゼッタイの存在だったからこそ、
    一番近くにいるからこそ、
    支配したくて手に入れたくて、
    欲しいと思ったからこそ、
    じれったくて悔しい。

    愛しいからこそ、憎い。

    「誰かの心の中で一番必要になるのは、
     どうしてこんなにも困難なのだろうか。」

    どんどん物語が進むにつれ、
    イライラした三島はきっと私に似てる。
    一番感情的でストレートでどうしようもない。
    だけど、矢咲はずるい。
    わかってたはずなのに、もう背負うことはしないって。
    それなら最後まで貫いて欲しかった。
    抗うと決めたのなら、最後までちゃんとフォローしてよ。

    そこが19歳なのでしょうか。
    捨てることも、逃げることも、結局出来ない。うーむ。

    女性の肋骨を鳥かごと、
    発せられるのは鳥の鳴き声と描けるこの方。素敵でした。

    だけど、
    どこまでも第三者として読んでしまいました。
    それでもなんだかいろんな感情に翻弄される姿は愛しかった。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      鳩山郁子のファンなので購入しました、、、でも積読中です。
      何だかな感じの話のようですが★4つですね。そろそろ読んでみようかな、、、
      鳩山郁子のファンなので購入しました、、、でも積読中です。
      何だかな感じの話のようですが★4つですね。そろそろ読んでみようかな、、、
      2012/09/06
  • 甘酸っぱいラズベリー、もしくは蛇苺。
    甘く、切なく、どろどろとしていて
    けれど癖になる。それが体に毒だとわかっていても。

    この人の描く女性は、人を惹きつけるのが本当に上手い。
    完璧でないからこそ惹かれる、
    咽せかえるような「女」と孤独。

    マフィン、苺の指輪、空の写真。
    桃の香りとシャコ貝。
    女の子の大好きなものは溢れているのに、本当に欲しいものだけ手に入らない。

    **

    我侭な三島は自分に似ていて、ずっと嫌いだったけど
    最後の最後は心底ほっとした。
    少しずつ、前に進め。がんばれ。

  • ずっと読みたい本リストに載っていたのですが、やっと読めました。
    資産家の娘だけが入れる、岬の学校。
    学生証をかざせば、キャッシュレスでブランドものからスイーツまで何でも手に入る。手に入らないのは、情報と自由だけ。読ませる設定で、独自の世界観を描いているのが、さすがです。

    耽美な世界に溜息がでそうになりながら、それでいてあまりに閉鎖的な世界に息を詰めながら読み切りました。
    宮木さんの本はいろいろと読んできましたが、その中でもこの作品の個性は特に強いですね。リアリティがどうとか、そんなの関係なしに、引き込まれます。
    この少女たちの年齢特有の潔癖さとか、視野の狭さとか、美しさとか・・・なんでこうも如実に描けるんでしょう。

    当たり前ですが、私にもこんな年齢の頃があって、こんなに美しい世界ではないものの、女子校に通っていたから感じる似たようなにおいみたいなものがありました。
    あの頃は、生きにくかったなぁ。
    大人になればもっと楽になることもあると今ならわかるけど、当時は常に刹那的で余裕がなく感じていた気がします。

    ガラスの結晶に閉じ込めたかのような、この美しくも儚い世界は、今にも壊れそうな危うさを孕んで人を魅了しますね。
    既読ですが、再び太陽の庭を読みたくなってしまった。
    それにしても、宮木さんは一体なんて世界を作り上げるんだろう。雨の日に読んだせいか、なかなか現実に戻ってこれなかったです。

  • この世の果てにある岬の学園。最新のファッションも、パティシエのスイーツも、何でも手に入るが情報は遮断された、豪奢な島流し。様々な事情を抱えた資産家の令嬢たち。

    グミベア。焼きたてのバナナマフィン。パフスリーブのベビードール。イチゴの指輪。桃の香りのシャンプー。ジンジャースパイス入りの甘い紅茶。シャコ貝の灰皿。

    同性と心中未遂を起こした矢咲、母に捨てられた小津、妾腹の子 三島、三島に捕らわれている都岡。

    外界と隔離されたラプンツェルの塔で、独占欲と満たされない想いの行き着く先は…。

  • この世の果てのような、どんよりとした岬にある、資産家の令嬢しか入学を許されない、謎めいた全寮制の女子大学。敷地内には、まるでテーマパークのように可愛らしい街があり、そこでは、流行の服も、一流パティシエの作るお菓子も、桃の香りのシャンプーも、女の子の欲しいものは、何でも手に入ります。しかし、情報は遮断されており、街で手に入る書籍類は、ファッション誌くらいのもの。外部からの手紙や小包は必ず検閲を受けるし、電話は傍受されています。電波は遮断されている為、携帯もテレビも使えません。
    そんな中、3つある寮の内、海沿いの塔で暮らす事になった4人の美少女たち。
    みんなそれぞれ、捨てられたり捨ててきたり。何らかの事情があってここに来た者ばかり。
    だから、お互いに事情を訊かないのが、暗黙のルール。
    でも、同じ塔で暮らす内、4人の関係に、少しずつ、変化や綻びが生じ始めます。
    残るのは、誰?

    何から何まで美しく、乙女な、甘いけれど苦い世界でした。

  • とても好きな世界観。耽美的〜

    それぞれがなんらかの事情を抱えている矢咲、小津、都岡、三島の4人の女の子が、幽閉された女子大に入学するところから物語は始まる。
    甘く美しいだけの世界ではない。女4人いれば、そこは、もう女の世界なのだ。愛情、依存、嫉妬、嫌悪、拒否などなど。

    三島にさくらの姿を重ねる矢咲、都岡以外との交流で矢咲にはまる三島、誰でもいいから自分を必要としてほしい小津、それらを冷めた目で眺める都岡。

    矢咲はメンヘラホイホイなのかもしれん。いや、彼女たちをメンヘラと表現するのは間違っているのかもしれないけど、弱っている人たちがコロッと逃げどころにできる存在なんだろうな。とても優しいんだろうね。

    一点、どうしても大学生っていうのだけが違和感。
    大学生…大学生かあ…
    大学生なら親元離れてでも生きていけるだろうに。(矢咲は別だとしても)それとも、それができないような育て方をされたのかなあ。うーむ。もっと自分の生に執着してほしいなと思うのであった。

  • 外からの情報を遮断された全寮制の女子大
    その中で4人の少女たちは互いに依存し共鳴し壊れていく
    甘いお菓子や可愛らしいアイテムで彩られた甘い世界に少しずつ毒が回っていく

    前に読んだ時よりも文章が入ってくる
    自分も宮木あや子という甘い毒に侵されているかもしれない

  • 宮木さんの小説を読むたびに、登場する女性たちにサボテンの姿を重ね合わせてしまいます。乾いた土地で逞しく生き、棘に身を包み気安く触れられる事を拒み、時に美しく花を咲かせる。放っておいても問題なさそうに見えて、実はちゃんと水をあげないと枯れてしまうし、あげすぎても駄目になってしまう。そんな、強いようで繊細で、クールに見えて熱い心の女性たち。これが宮木作品の大きな魅力のひとつであり、それは本作でも遺憾無く発揮されていると思います。そういえば、サボテンの花言葉には「燃える心」や「秘めた情熱」などがありますね。

著者プロフィール

1976年神奈川県生まれ。2006年『花宵道中』で女による女のためのR-18文学賞の大賞と読者賞をW受賞しデビュー。『白蝶花』『雨の塔』『セレモニー黒真珠』『野良女』『校閲ガール』シリーズ等著書多数。

「2023年 『百合小説コレクション wiz』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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