ゴジラが来る夜に 「思考をせまる怪獣」の現代史 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
3.50
  • (1)
  • (1)
  • (1)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 20
感想 : 2
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087471465

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 文芸評論家の高橋敏夫氏によるゴジラ論であります。
    この方はゴジラは好きだが、ゴジラ映画は嫌ひだといひます。本来ゴジラ映画が示したのは、「怪物が現れた、人間が変れ」といふメッセージを持つた人間世界の否定だつたのだが、後年のそれは、「怪物が現れた、怪物を殺せ」といふ物語に堕してしまつたといふことでせう。
    核の恐怖を訴へた第一作のシアリアスさは何処へやら、人間の味方になつてお子様ランチ映画に堕落したと暗に謂つてゐるやうです。

    ところで、よく指摘される事に、第5作の「三大怪獣地球最大の決戦」でモスラに説得されてから、ゴジラは善玉になつたといふのがあります(本書にもさういふ記述あり)。しかしそれは違ふとわたくしは思ふのです。映画を観れば分かりますが、ゴジラはモスラに説得されてをりません。
    説得に失敗したモスラがやむなく、単身キングギドラに挑む姿を見て、闘争本能に火が付いた結果、ラドンと共にギドラに挑んだのであります。そこには、「人類の為に」などといふ視点は一切ないのであります。
    個人的意見としては、ゴジラが正義の味方として描かれてゐるのは、12作目「地球攻撃命令ゴジラ対ガイガン」と、13作目「ゴジラ対メガロ」の二作のみだと存じます。

    まあいい。著者は日米によるゴジラ映画競作にも触れてゐます。しかし米国が原爆投下を正当化し続ける限り、納得のいくものは観られないでせう。米国ゴジラでは常に米国は被害者であります。
    一方日本の作り手は、ゴジラ映画を作りながら、ゴジラといふ存在を持て余し、「ゴジラといふ存在から逃げ続けてゐる」と指摘します。言はんとすることは分かる。しかし現実には、大森一樹監督が語るやうに「ゴジラのためのゴジラ映画」よりも、「ゴジラといふ稀代のキャラクタアを使つて、どんな映画を撮れるか」と、作り手は考へるやうで。
    その意味では、著者はその後も製作され続けたゴジラ映画には不満を抱いたでありませう。実際ゴジラと現代社会を論じながら、そこここに苛立ちを隠せない記述がありますね....

    現在は初のアニメ映画化もされ(三部作のうち二作目まで公開)、米国でもシリーズ化(個人的には反対)が決まつてゐます。広がりを持つのは良いですが、肝心の東宝特撮としてのゴジラはどうなつたのでせうか?
    「シン・ゴジラ」が予想以上に評判を取つてしまつたので、次の作り手たちは大変でせうね。

    http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-752.html

全2件中 1 - 2件を表示

著者プロフィール

◎高橋敏夫(たかはし・としお)
1952年生まれ。文芸評論家、早稲田大学文学部・大学院文学研究科教授。早稲田大学第一文学部卒業、同大学大学院文学研究科博士課程満期退学。『藤沢周平 負を生きる物語』、『ホラー小説でめぐる「現代文学論」』、『井上ひさし 希望としての笑い』、『松本清張 「隠蔽と暴露」の作家』など著書は30冊をこえる。

「2019年 『抗う 時代小説と今ここにある「戦争」』 で使われていた紹介文から引用しています。」

高橋敏夫の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×