堕落論 (集英社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (268ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087520026

感想・レビュー・書評

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  • 「桜の森の満開の下」が収録されているのがポイント高い。「堕落論」は心が萎えた時に自分に喝を入れるために読みたくなる。

  • 坂口安吾の『堕落論』は、戦後の混乱期に発表された エッセイで、現代社会における自由と不自由、幸福と苦悩の本質を鋭く突いた作品であると個人的に感じた。

    空襲下の極限状態では、人々は恐怖や混乱の感情を抱くとばかり考えていたが、安吾は、深夜に戸締まりをせずとも安心して寝ることが出来たり、少年少女の笑顔は絶えていなかったりと、ある種の幸福を感じていたと指摘する。「偉大なる破壊」によって、全てを失った人々は、皮肉にも一種の安心を得ていた。対して、現代社会はどうだろう。現代社会は自由であるがゆえに、人々は多くのことを考えざるを得ず、その自由が責任や不自由につながっているという逆説を提示する。

    『堕落論』の核心は、「堕落」の意味を問い直すことにあると考える。安吾にとって「堕落」とは、既成の価値観から脱却し、人間性の深淵に降りていくことで、真の自己を見出すプロセスを意味する。
    現代社会に置き換えると、「何者にもならなくていい」という安住から脱し、「何者かにならなければいけない」という現代のプレッシャーに立ち向かうためには、一度徹底的に「堕落」し、自身の本質を見つめる必要があるのだと思う。

    ただし、安吾は人間の弱さも指摘する。「堕落」を突き詰めるには、人間は弱すぎるとも語る。それは、「堕落」の果てに、再び自分を救い出す意志力が必要だからではないか。現代社会には、「堕落」から立ち直るための制度が整備されているが、それらを活用するためには、個人の能動的な行動が不可欠である。(その弱さと向き合うのも現代人はとても辛いものなのだと思う。)

    『堕落論』は、戦時中の「何も考えなくてよい幸福」と、現代の「自由ゆえの苦悩」という二項対立を浮き彫りにする。自由な現代社会で幸福を得るためには、自ら目標を設定し、努力する自己統制能力が必要とされる。しかしながら、常にたくさんのタスクを抱え、爆発してしまう人もいる。一方、戦時中は、生存すること自体が目的となり、考えることは少なくてよい。

    坂口安吾の『堕落論』は、戦後の混乱期に書かれたエッセイでありながら、現代社会の根源的な問いを投げかける。自由と不自由、幸福と苦悩の関係性を探求し、「堕落」という概念を通じて、人間存在の本質に迫る。安吾の思想は、現代を生きる我々に、自己と社会のあり方を問い直す契機を与えてくれるのである。

    (あくまで自身で読んで感じたものであり、人や時代背景により様々な解釈の余地があると考えます。)

  • 命を懸けた軍人の戦闘を見てるだけで、自分はたばこふかしてるだけのヤツが何いってんだ

  • 読んでよかった。

  • エッセイも小説も面白い。
    どの作品にも芸術や美に対する思想が押し出されていて、視点の面白さは言わずもがな勉強になった。

  • タイトルからして中二心をくすぐってくる名著。真面目な学生が生まれて初めて「生きよ、堕ちよ」などという過激な言葉に触れた時に感じる衝撃こそ読書体験の醍醐味。

  • もともと人間は長く生きれば、光り輝いていた頃から徐々に堕落してくものなのだ。赤穂浪士の志士を処刑したのは、長く生きながらえて生き恥をさらないようにしたため。軍人の妻で未亡人となった者の結婚をしばらく禁じ得たのは、時期がたてば不倫をしてしまうため。もともと二人の君主に仕えるな、それなら潔く死なば諸共、一つの君主に仕えよという武士道の教えは、こういう規律でも作らない限り、やすやすと他の君主に願えることを見越していたため。こんな元々の人間の行動・思考特性にそぐわない旧来の価値観に縛られるな一度人間の本性というものに立ち返って堕落してみよ、というのがこの本で述べている堕落の意味。とても面白い。

  • エゴイストとは時に良い方に傾くのかもしれない。
    いや、そんなことはないだろう。盲目なだけだ。

  • あるべき姿とか〇〇道とかよりもありのままの人間の真実、生命の生きようとする力、多様性や強さも弱さもあるしたたかさ、そこに人間性が滲み出しているよう思う。

  • 堕落論と続堕落論だけちゃんと読んだけどオーすげと思った
    孤独な人やアウトサイダーやらに対しての愛を感じる 

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著者プロフィール

(さかぐち・あんご)1906~1955
新潟県生まれ。東洋大学印度倫理学科卒。1931年、同人誌「言葉」に発表した「風博士」が牧野信一に絶賛され注目を集める。太平洋戦争中は執筆量が減るが、1946年に戦後の世相をシニカルに分析した評論「堕落論」と創作「白痴」を発表、“無頼派作家”として一躍時代の寵児となる。純文学だけでなく『不連続殺人事件』や『明治開化安吾捕物帖』などのミステリーも執筆。信長を近代合理主義者とする嚆矢となった『信長』、伝奇小説としても秀逸な「桜の森の満開の下」、「夜長姫と耳男」など時代・歴史小説の名作も少なくない。

「2022年 『小説集 徳川家康』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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