車輪の下 (集英社文庫 ヘ 5-1)

  • 集英社
3.58
  • (65)
  • (90)
  • (170)
  • (13)
  • (4)
本棚登録 : 1063
感想 : 96
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (308ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087520217

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • エリートが破滅する話。「脱落」について。この結末を救いとみるかどうか……。ただ一つ。受験生は読むな!

  •  多感な少年が厳然たる体系を持った教育制度に押しつぶされる物語。タイトルの車輪とは、教育制度の比喩であることをわざわざ言うのは野暮であろう。

     毎日夜中まで勉強し、友だちから引き離され、釣りや散歩を禁じられた少年。試験が終わり、当然与えられるべき休みすら許してもらえなかった。彼は根本から優しいのだ。父親や数人の教師のくだらない名誉心を満たし、彼らを喜ばせなければと自分を追い詰めてしまうほどに。そして、悲しいほどに感じやすかった。周囲の期待に応えられない自分に存在価値を見出せなくなるほどに。
     時代も国も違う物語なのに、少年の気持ちを想像しやすく、すんなり自分の中に入ってきた。「期待」が人を簡単に壊してしまうことを改めて認識できた一冊。

  • 読み比べて井上訳を購入。精彩な自然描写が趣を深めるこの物語は、小さな町で育った秀才の少年が、牧師への道を約束された神学校に優秀な成績で入学するも、心と体のバランスを崩して退学し、休養中に失恋も経て、鍛冶職人への道を歩み始めるも、休日に仲間と飲み過ぎて川に流された、という話。勤勉な彼は思春期を迎え、ありありと敏感過ぎる程に感じられ始めた生と、空疎な机上の学問とに引き裂かれてしまった。再生を試みるも、繰り返しの日々が待ち受ける未来展望に絶望し死に至ったのだと解釈した。賞味期限を過ぎてしまうと味わえない、もしくは味気なくなる経験が人生にはある。私の人生には忘れ物が多いかもしれない。だからこそ、今を大切に生きたいと思った。

  • 天才と教師の間の対立。
    異端とされ社会から追放されたものが名を成し、のちに社会で賞賛される。
    逃避のような死因に納得はいかないが、幼少時からエリートとして育てられてきた少年の感性が踏みにじられ、一切の苦労が徒労に終わる時の虚しさは心にぐさりとくる。

  • この作品では、大人たちによる「教育」によって、自分を見失ってゆく少年が辿る運命が描かれている。

    いたるところに、大人や、とりわけ学校教育に対する痛烈な批判が見られる。
    子どもの頃は違和感や反発を感じていたことに対して、気づけば何も感じず、同化している。
    そして、子どもたちに対して、あの頃反発していた「大人」と同じことを言っている。
    それは自分が大人になったからなのか、それとも「大人たち」によって少しずつ、しかし確実に角をそぎ落とされ、他人と同じような、言うなればただの球になってしまったからなのか。
    読んでいて、心が痛んだり、はっとさせられるところがいくつもあった。
    それは私自身が大人であり、そして教育者だからだ。

    それにしても、多感で繊細な思春期の少年の心理を、これほど巧みに表現した作家は、未だかつて見たことがない。
    訳も素晴らしい。
    サガンを読んだ時も翻訳の素晴らしさに感動したが、それをはるかに上回る。

    私がこの作品で最も心を揺さぶられたのは、神学校に入った後の、少年から青年へと移ってゆくハンスの心の変化だった。
    周囲の大人の期待にがんじがらめになり、母親のいない厳格な少年時代を過ごしたため、友人たちと他愛ない情緒的なやりとりができず、苦悩するハンス。そこで初めて出会った、自由奔放で詩的な少年ハイルナーへの戸惑いと、初恋にも似た友情。
    この、ハイルナーとの友情が築かれて、ハンスの裏切りを経て、再び築き直され、そして別れてゆく過程、二人の関係とそれぞれの心の変化、これがとにかく身悶えするほど鮮やかで繊細で素晴らしい。
    ただ、これは共感できる人・・・つまり、そういった心の動きを経験した人でないと、おそらく理解できないだろう。

    また、詩的で芸術的なものを愛し、ものの本質を見極める力をもつハイルナーの感覚を通した古典に関する描写は、それらをほとんど読んだことのない自分でも心が震えるほど素晴らしかった。
    人や風景や物に対してはともかく、文章に対してこのような表現を使った例が、他にあるのだろうか。

    心に響いた表現をあげていけば本当にきりがないほど、この物語中盤は一節一節が心を揺さぶる。
    (特に印象に残った表現は、本棚の「引用」で記録しておきます)

    最初に述べたとおり、「教育のあり方」は本作品のメインテーマの一つだ。
    タイトルである「車輪の下」という言葉は、(私の記憶違いでなければ)p141で初めて、そして唯一登場する。
    校長が、自分たちの思い描いた方向から外れだしたハンスに対し、次のように語りかける。
    「へたばらないようにするんだよ、さもないと車輪の下に圧しつぶされてしまうよ」
    結局、その言葉通り、ハンスは「車輪の下に圧しつぶされて」しまう。

    結末を、救いがないとみるか、ハンスにとっては救いだったのかも知れないとみるか、人によって違うのかも知れないが。
    最後の靴屋の「あなたもわたしも、この子にはもっとしてやることがあったのではないですかな。そうは思いませんか?」という言葉が、胸に刺さる。

    教育者として、ずっと戒めにしたい。



    レビュー全文→http://preciousdays20xx.blog19.fc2.com/blog-entry-446.html

  • エリートが欝になる話、って説明するとすごくちゃちな感じがすりけど
    読んでみると重くて暗くて辛い
    最後の方になって「おい、もう終わるけどちゃんと救いがあるんだろうな!?」ってヘッセに喧嘩腰になるぐらい
    でも二人の学生の会話は精神的で美しい
    少女より少年のほうが儚さや脆さが際立ってより印象的

  • 青春小説の古典?
    青臭さがこれでもかというくらいに突きつけられるが、今読んでもみずみずしい文章で素直に受け入れられる。
    全体的にあっさり流れて行く気もするが、なんとなくこれは何度も読み返し、その度にまた違った感想を抱けそう。
    そういう意味で、手元に置いておきたい一冊。

  • 将来を嘱望されながらも、教育という名のシステムに押し潰され堕ちていった少年ハンスの物語。
    「酷使された小馬は、とうとう道ばたにへたばって、もう使いものにならなくなってしまった」
    この決定的な一文以降の哀れな少年の末路に、読んでいて複雑なものを感じた。それが何かは、まだ分からない。

  • くるしい

    昔の作品なはずなのに共感をしてしまったり、似ている人間が周りにいてて、人間って精神は変わらないのかななんて思った。この落ちていく感じ。もともと人生の目的なんてみつけてなんていなかったのかななんて思って主人公が可哀想に思えたけど共感してしまってることがもう、なんともいえなかった
    周囲に押しつぶされて自分でも潰して最終的にぺちゃんこ
    車輪の下っていうタイトルがほんとぴったりだと思う

  • 大分昔に読んだ本
    なんか、不純な動機で読もうと思ったような……←
    段々と堕ちて行く少年の姿が痛々しかった
    周りからの、過度な、重すぎる期待
    自分には経験無いけど、すごく重圧なんだろうな
    それで苦しんでいる人は、私の周りにもいるかもしれない

全96件中 11 - 20件を表示

著者プロフィール

ドイツ生まれのスイスの作家。主に詩と小説によって知られる20世紀前半のドイツ文学を代表する文学者。南ドイツの風物のなかで、穏やかな人間の生き方を描いた作品が多い。また、風景や蝶々などの水彩画もよくしたため、自身の絵を添えた詩文集も刊行している。1946年に『ガラス玉演戯』などの作品が評価され、ノーベル文学賞を受賞した。

「2022年 『無伴奏男声合唱組曲 蒼穹の星』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ヘルマン・ヘッセの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×