白の迷路 (集英社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087606980

作品紹介・あらすじ

フィンランド警察の特殊部隊を指揮するカリ・ヴァーラ警部。政治家の暗殺、富豪の息子の誘拐、麻薬組織との抗争…さらにカリ自身にも異変が起こる。人気極寒警察シリーズ第3弾!(解説/北上次郎)

感想・レビュー・書評

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  • ジェイムズ・トンプソンの地鳴りのような怒りに打ち震える2012年発表のカリ・ヴァーラシリーズ第三作。ノワールという小説の枠を突き破り、フィンランド黒書ともいうべき苛烈な批判の書として、更なる深化を遂げている。

    「物語の先に」と題されたトンプソンのあとがきを読めば、昏い時代の到来を予測させる不穏な事件の連なりを、見事に解読/咀嚼して作品中に取り込んでいることが解る。移民問題とは名ばかりのレイシズムが吹き荒れる国家の無様な社会情勢を、異邦人として冷徹に見据えるトンプソンの優れた知性が際立つ。シリーズものしては異例の転換を図った訳は、はっきりと物語の中に示されており、単なる娯楽小説の創作では成しえない力強いメッセージ性を内包させている。

    人身売買や麻薬の撲滅という美辞麗句を並べる裏で、マフィアなどから強奪した金を己の懐へ捩込む似非権力者。その下でまやかしの大義に疑問を抱きながらも表面的には付き従い、警察機構の特殊部隊を率いるヴァーラ。脳腫瘍手術の後遺症で妻や子どもへの愛情さえ失い、感情無き執行者ともいうべき悪徳警官と化したヴァーラは、一方で陰惨な人種差別に絡む殺人事件の真相を追う。だが、その先の破滅が待っていることを悟るヴァーラは、正義の完遂よりも、まず保身としての隠密工作を優先する。前二作と同様、一切を破壊して終焉するクライマックスは、暗黒小説の極北であろう。

    時に理想国家として憧憬の対象となるフィンランドが抱える闇を、トンプソンは容赦無く照射する。腐敗した一握りの権力者、圧倒的多数を占める無為なる大衆。困窮する生活の要因を移民政策に求めた果てに、自ずと姿を現す人種差別主義。それを平然と煽り台頭する極右政党。退廃は人心を歪め、犯罪は横行する。行く先にあるのは、殺し合いが当たり前の世界。つまりは、過去に世界中で惨禍をもたらした過ちであり、それを繰り返そうとするフィンランドをトンプソンは憂うのではなく、激烈なる警告を発しているのである。

    すでに北欧のミステリという範疇では語れないヴァーラシリーズ。残されたのは、第四作「血の極点」のみ。返す返すトンプソンの早すぎる死が悔しい。

  • どんどん深みにハマって行くけども、報われるのか気になる

  • 1,2作目は北欧ミステリらしく、少し暗いトーンの犯罪警察ミステリとして面白く読めた。奥さんがアメリカ人という設定にすることで、実はアメリカ人である作家の眼を通してフィンランドの異文化を取り上げる側面もあった。
    ところが本作はどうだろうか。なんといきなりバイオレンスアクションに近い小説に変わっている。
    主人公、ミロ、スィートネスのチームは悪党を狙うという最低のラインはあるものの犯罪集団に近いし、フランス人スパイのモローに至っては完全に殺し屋。
    確かにヘイトクライムから発生した連続殺人事件を捜査するという警察小説的な体裁はあるものの、前作までとは全く趣が変わりアクション、ヴァイオレンス描写が過激になり、一方で静的な描写はなりを潜めている。
    これはこれで面白く読めるが、あまりにも過激な犯罪描写は却ってマイナス印象となるし、行き当たりばったりに近いチームの暴走振りもマイナスイメージとなった。
    グレッグ・ルッカのキーパーシリーズのように全くシリーズとして意表の展開になるものはあるが、大本のキャラ(やそのポリシー)が不動だからこそ可能な話。
    ここまで変わってしまうと、次はどうなるのだろうか?

    読み終わって後書きを見たらビックリ。なんと作者は亡くなっていて未訳はあと1~2作らしい。残念!
    しかし不慮の事故らしいが、不慮って何なんだろう?
    これだけ真正フィン人党や人種・難民問題に対する立場を鮮明に描いていると作者自体がターゲットになりそうだし。

  • シリーズ三作目。
    あの頭痛は腫瘍のためで手術が必要~とのこと、その後の展開はというと、ユリの命令とは言え窃盗団やら黒いお金をつかむやらでおおよそらしくないカリの日常。お母さんとなったケイトの存在もあり、手術後の経過で感情を無くしたと認識を新たにするカリはロボットのよう。
    敵か味方か?というキャラの出現、民族間でのにらみ合いと差別など冷たさに加えて緊張がますます深まってゆく…
    ジェイムズトンプソン 既に亡く続きの気になるところではあります。果たして発刊されることになるのか~

  • 警察小説としては完全に崩壊していて、しれっとノワールへと変貌を遂げていた。ストーリーはやや退屈。術後の後遺症で感情をなくしたカリの“リハビリ日記”、これが終盤までだらだら続く。事件は社会性を反映したテーマで、読み応えがあると期待したが、私生活と任務がごちゃ混ぜになっているような印象が強く、捜査部分が頭に入ってこなかった。

    フィンランドってほんとにこんな酷いのかしら。差別と腐敗。ずぶずぶの泥沼。社会の闇と心の闇。いろんな闇が次々浮かんできて後味は良くなかった。作者急逝は残念だけど、このシリーズはもうお腹いっぱいです。

  • 前2作とのあまりの違いに戸惑いつつ読了。
    評価は出るかもしれない4作目を読んでから。
    本作単独だと、自分にはキツすぎる…。

  • 警察小説、犯罪小説、ホームドラマ、社会派ミステリ。ジャンルに当てはめるとこんな感じ。

    初期設定が変えられてしまって戸惑うばかり。

    なにより読むべきはここで語られるフィンランド社会の人種差別か。パリのテロ事件後に読んでいると真実味が増す。

  • フィンランドを舞台にした警察もの。
    物語こそフィクションだが、北欧の方では移民問題が深刻なのがわかる作品。
    あんまり楽しいものではないですけど

  • この変化ぶりをどう捉えるかやとは思うけど、
    凄いわ、悶絶。

  • カリ・ヴァーラ警部シリーズの第三作。

    これまでとは全く違う展開に戸惑いを覚えながら読み終えた。きっと、賛否両論あるだろう。第二作までは北欧を舞台にしたハードな警察小説が、この第三作ではノワール小説に変わった。さらに冒頭から主人公のカリ・ヴァーラ警部が脳腫瘍の手術を受け、術後に一切の感情を失うという驚きの展開で物語は始まるのだ。

    復職後、カリ・ヴァーラ警部は、ミロ、スイートネスと超法規的に麻薬を取締まるのだが…

    過激な暴力とあまり馴染みのないフィンランドの暗部が描かれ、本当にジェイムズ・トンプソンの作品かと疑いたくなるような展開が続く。しかし、終盤になるとジェイムズ・トンプソンらしさが垣間見える。

    ジェイムズ・トンプソンは2014年8月に急逝したようで、次の第四作が最後の作品になるかも知れない。もしかしたら、この第三作の意味は第四作で理解出来るのかも知れない。

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